ノンと会話するようです
「結局スライムって何食うの?」
「なんでも」
「ん?今なんでもって?」
「石はイヤ」
従者になったノンを頭の上に乗せ、川を降っていた。
「そっかー好物は?」
「甘いもの」
「味覚あるんだねー」
ふと、腹の虫がなり、お腹が空いていることに気づいた。川の水は飲んでいたから喉の渇きは無かったが、こちらに来てから一口も食べ物を口にしていない。
「なー。この辺でなんか食べれるものないかなー?」
「ん。」
ノンは頭上でモゾモゾと動いている。なんだか重くなったと思ったら目の前にピンクの果実、いわゆる桃を差し出してきた。
「スライムの貯蓄」
「おーありがとな」
「ん。」
桃にかぶりつくとその味に驚いた。濃厚な甘い果実を想像していたが全く違う。皮の中のその白い果肉はクリーミーであっても甘くない。海産物の出汁が効いていて、ほのかに山の野菜の香りが混じっている。
「なんだこれ!?」
「?...おいしくなかった?」
「いや。美味い。ちょっとびっくりしただけだ。」
「ん。」
「これなんて果実わかるか?」
「白くてぐにょぐにょした実」
「.....そっかー」
果実を食べ終え、口の中に残った粘り気を川の水で濯いだ。腹を満たすほどではなかったので、残りは水をがぶ飲みすることで紛らわした。
『貯水を手に入れた』
「ぐばっ...はっ?ちょっと待て!貯水ってなんだよ!」
「水を貯めること...」
そう言ってノンは大量の水を目の前の川に吐き出した。目が点になる。これは人が持っていていいスキルなのだろうか?ラクダのコブのように何処かに貯めているのだろうか?ふと、気になったので座り込み、ノンを膝に乗せ、ノンの身体を引っ張った。
「ノン、おまえどこにそんな果実やら水やら仕舞い込んでんだ?」
「んぐっ。ありゅじっ。ひっぱりゃないへ。そうひうしゅきりゅっ。」
「へー。」
「納得したなりゃはなしゃんかい。」
スライムの特性としてはあり得る範囲かと思いつつ、物理無効ではないんだなと思い、手もとで遊ぶ。
「そのスキルは種族共通のもの?それとも個体によってみんな違うもの?」
「しりゃにゅ」
人間として浮いてなければいいなあとは思っても、無理であることは悟っていた。『真理への探究心』ってなんだよ大魔道師とか賢者が持ってる類のモノだろ。
「うーん。スキルというものの全容はまだ見えてこないか。...ってか普通に会話してたけど声帯ができたの?知力が上がったの?」
「主従のしゅきりゅこうきゃ?」
「へー。まあ、そうか。」
となると今度はノンの音の出し方について気になったりして。
「ちょっと大きな声出してもらえる?」
「?...わあああああああああああああ!」
ノンは大きく震えながら声を出していた。
「なるほどね。」
「?なんにをんをしちぇるんる?........................あるじ?」
「ん?」
「話してる最中にぷるぷるさせるのやめてもらっていいですか?」
「いやいや、そんな改まらないでよ。ごめんて。」
どうやらノンは全身を使って空気を震わせ、音を出しているようだ。その震えを邪魔するとうまく話せないらしい。
そんな感じでノンと会話できるようになった。
ーーーー
「なあ、結構歩いたよな?」
「?そう?」
「自慢じゃないが俺は不健康なのでね」
「...」
そろそろ第一村人発見!ってなっていいはずだよな。丸腰で猛獣とエンカウントイベントはごめんだぜ。
周りを見渡しながら歩いてきたが、肉食獣が好みそうな草食の生き物は見当たらなかった。警戒心が強いから姿を見せないのは当たり前だが、いかにも草食動物が好みそうな木の実が全て綺麗な状態で生っているところを見ると少しおかしい。
生き物自体を寄せ付けない何かがあるのかもしれない。
「そろそろ日が暮れるなあ」
「?」
「ここをキャンプ地とするっ!」
「??」
寝転がっても痛くなさそうな場所を探す。だが現実はそんなに甘くない。ところどころ石が散らばっていて、寝転がったら痛そうだ。安眠はできそうにない。
仕方なく石を退かす作業に入る。
そこであることに気づく。
「虫もいないだと...」
「この辺スライムの生息地」
「へ?」
「なんでも食べるけど、虫はご馳走」
一匹残らずっっ!駆逐してやる!!ってことか。
やばいな。スライムの捕食スピードが早すぎるのか、虫の子一匹も逃さぬほど大量のスライムが群がっているのか...
見たことのない生命体がいる時点で想像はしていたが、地球の常識はここでは全く通用しないことが決定的となった。
「甘いものが好物だって言ってなかったけ?」
「甘いものは個人的に好き」
味覚があるだけでなく嗜好品を楽しむこともあるのかよ
「この辺にスライム以外の生き物っている?」
「みたことない」
「...」
スライムが最強な世界ですかそうですか。