不可解なよだれ
目が覚めると、お気に入りのブックカバーに小さな水たまりができていた。いつの間に寝ていたのかといちいち驚く必要など全く無い。そう、こんな出来事は日課とでも言えよう。
私は両手を天井に向けてぐいと伸ばし、その手をゆっくり下ろしながら長い息を吐いた。そして、再び机に目を落とした。
どうもおかしい。
英語のプリントにも水が滲みている。普通は1つしかできようもない水溜りが2つ!私はここぞとばかりに驚いた。まだ夢の中にいるのか。それとも違う世界に来てしまったのか。なぜなんだ。
私はふと、今日の世界史の授業を思い出した。
「私たちの先祖は、元々は猿人です。みなさんも一度は目にしたことがあるよに、彼らの顔には目口鼻があります。それ同様、私たちとそう変わりない姿に進化したあとも、目口鼻は存在していました。私たちからすれば考えられませんが、骨も発見されているので、事実なんですよ」
「顔に口があるのに、どこに目と鼻をつける場所があるんだよ。先生嘘は良くないよ」
「ほんとですよ!信じないと、明日起きたら目と鼻が付いているかもしれませんよ〜」
まさかっ。
私は慌てて、ズボンのポケットから手鏡を取り出した。
「うわあっ」
そこには、本来ひとつしかない口が上下に二つ存在していた。私は驚きのあまり手鏡を床に落としてしまった。
パリン
鏡が割れた音と同時に、腕のしびれを感じた。どうやら、視界も不自然なほど横向きだ。私は重くなったまぶたを開き、視界を縦に戻す。
私は手鏡を思い出し床を探したが、見当たらなかった。それではどこにあるのかとスカートのポケットを叩くと、カシャリと鏡が入っているような音がした。そしてその手鏡でもう一度顔を確認した。
「夢、か...」
私の顔には、目と鼻と口がしっかりと付いていた。どうやら私は夢を見ていたようだ。まったくおかしな夢だ。
これは別段言う必要のないことだが、机上によだれが2箇所垂れていたことに代わりはなかった。