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特異の流行りは大いに遅れる

 大分遅れました。嘘です。黒彼の更新に夢中でした。

 手遊び……間違っても『手すさび』ではない。『手あそび』だ。一般的に指や手を使った遊びがこれとされている。人型の特異同士が相手なら、十分成立するだろう。

「…………」

 指を鳴らしてから、オレはその案が他でもない発案者によって最初から頓挫している事に気が付いた。

「あー二五四。ちょっと待って欲しい。提案は嬉しいし、名案かなって思うんだけど。君は……どうやってするの?」

「……ドウと言われても。普通に行えばヨイノデハないか?」

 手もあるし、足もある。出来るか出来ないかだけを語れば、出来る。出来るが、オレとクロネコとは違い、二五四は機械生命体だ。何と言うか……異文化交流というより、異種族交流をしている気分が、奇妙極まりない。

「じゃ、じゃあ……やってみようか。案とか、ある?」

「―――マッチ」

「マッチ? …………ああ、イチイチか。それなら僕も出来るし、クロネコも……知ってるかは分からないけど、ルールは教えられる。いいね。それにしようか」

 明らかに馴染みの無い名前を言ってきたから、何かと思った。


 マッチ。または戦争ともいう。一部地域によっては色々な呼び方があり、オレの所ではイチイチと呼んだ。ゲーム開始時点を見たまんまで表した言葉である。知っている人も居るのではないだろうか。

 お互いに人差し指を出して、叩かれた手を、相手の指の数だけ加算。基本的なルールはここまでで、後は指の数が五以上になったら消滅か、五ぴったりで消滅か(このルールだと、余った数が指で表す数になる)。

 そうそう、分身の事を忘れていた。これがこのゲームにおいての醍醐味で、勝負が短期決着しない原因でもある。イチイチにおいて分身とは、指の数を分割する事を指す。基本的には片方の手が消滅した時に使う緊急回避の様な技で、例えばこの時点で指が四だったら、二とニ、または三と一に分ける事が出来る。回避とは言ったが、別に両手が残っている時に、一度合計してから、改めて分割する事も構わない。

「おーいクロネコッ」

「え、何? 何か面白い事やるのッ?」

「ああ。だから参加しようよ、一緒に」

「やるやる!」

 興味を逸らすというだけなら、この時点で成功した。既にオレ達は開戦準備万全だが、反応を見る限り、クロネコはイチイチを知らないらしかった。

「何それ。新しい遊び?」

「ああ。もしかして知らないの?」

「うんッ」

「じゃあ始める前に僕が教えるよ。えっと、これは色んな呼び方がある遊びなんだけど―――」

 説明は三分も掛からなかった。ぶっちゃけてしまうと、基本ルールさえ押さえておけば後は適当にアレンジを加えたって面白いものは面白いので、説明する事なんて無いのである。三〇秒もあればルールの把握には十分だ。対戦中会話が禁止されている訳でもないので、それでも分からないならその時に聞けばいい。

「―――分かった?」

「うん分かった。面白そうだから私もやる!」

 心の中でオレはガッツポーズをした。クロネコがそれこそ子猫みたいに好奇心旺盛なので、何か目的があったとしても、こうして簡単に逸らす事が出来る。

「じゃあ…………ええ―――」

 二五四の指がでかい。とにかくでかい。その上無機質で、耳を澄ませると歯車が奥で回っている音が聞こえる。どういう機構で動いているのか興味があるが、今は遊びに集中しなくては。

「じゃあ僕から行くよ」

 開始前から思っていた事だが、オレ達の様な特異が、こんな庶民的な遊びで盛り上がっているなんて―――いや、確保される前に関して言えばオレは庶民だったから、不思議でも何でもないのだが。問題はクロネコと二五四だ。

 あまりにも世間離れしている。特にクロネコ。オレと同じ人型特異(人間と言いたいのは山々だが、そうはいかないのだ)でありながら、あまりにも知らな過ぎる。定期の記憶処理があるのは知っているが、全消去な筈がない。それをしてしまうと、この施設の事とか、自分の置かれている状況とか、一々再説明する必要性が生まれる。そんな手間を何度も掛ける様な組織であれば、とっくに破綻しているだろう。

 二五四の指を叩き、加算。このゲームの序盤は特に何も考えなくていいので、意図はない。二五四がクロネコの指を一で叩いて加算。クロネコがオレの指を一で叩いて加算。


 …………。


「順番はともかく、叩くのは時計回りじゃなくてもいいからね?」

「ワカッテいる」

「大丈夫だよ!」 

 大丈夫なら良いのだが……時計回りに加算されたからびっくりした。流れを立つべく、オレはクロネコの指に加算。二の方で彼女のニを叩いたので、現在のクロネコの指は四と一。これで彼女は一の指を持つオレと二五四どちらかの片方を潰せる。どちらを厄介と見るべきかは、彼女のみぞ知る事だ。

「あ、分身は三回までね。無限にすると滅茶苦茶時間掛かると思うし」

 思案の結果、二五四が対象に選ばれた。残りの指は二。分身を使えば初期状態に戻れるが、果たして使うのかどうか。三の指は居ないからそのまま突っ張るか。しかし一を叩けば自滅を招く事になる。更に言えば分身すれば初期状態―――一と一に戻る事が出来るが、クロネコの指には四があるので次のターンまた殺される可能性がある。

 また、オレの指は二と一だから瞬間的な危険は無いが、ここで分身をしないとクロネコの一が俺の二を叩いて三になるので、そうなれば彼の敗北は決定的だ。こちらも潰さない理由が無い。

「……分ケル」

 二五四、分身一回。ここで動きが止まった。

「コレは『行動』ニハイルのか?」

「……言い忘れてたよ。ごめん。行動に入るって事でよろしく頼む」

 人によって様々なルールを付ける事の出来るこのゲーム。だがゲームとして成立させる以上、最低限のルールとして『ルールを共有しなければならない』。何故なら遊びというものは複数人でルールを守った上で行うものだから。

 それをオレは、自分から言い出したのを良い事に、説明を怠っていた。これは良くない。仮にもオレは特異兼クロネコの担当職員だ。この失敗が只の遊びだから良い様なものの、もしこれが職務だった場合……どんな被害が出るか。

「うーん。どうしようかなあ」


 彼女の指は四と一。もう一度二五四を四で叩けば、また片方が潰れる。


 やっている事は指で叩き合っているだけだが、詳しく思考すると、意外と戦略性がある。一つ気になる事があるとすれば、クロネコがこのゲームの欠点にいつ気が付くのか、という事だ。気づかなきゃボロボロに負けるだろうし、気づいたら勝てる可能性は十二分にある。

 まあ、楽しんでくれれば幸いだ。どうやら本当に何も知らないみたいなので、勝とうが負けようがストレスにはならないだろう。極論かもしれないが、ゲームなんてものはイライラしながらやったって意味がない。こんな風に楽しんでやるのが一番だ。


 だって娯楽だし。

  


  

 

 更新停止って言わない限り更新停止じゃない。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの遊びの名前初めて知りました。
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