下手くそ機械の見様見真似
息抜き。 まあ短いですが、お付き合いください。その内通常の長さに戻ります。
機械生命体は、機械なのか生命体なのか。そんな考え方しか出来ないオレは、やはりかつては一般人に違いなかったのだろう。機械は生きていない、生命体は機械ではない。両極端にしか考えられないなんて古すぎる。
オレ自身がその考え方では区分出来ない存在だと言うのに、何とも皮肉な話というか、馬鹿みたいな話というか。
「ムムム…………ムウウウウウウウウウウ!」
「頑張れ! 君なら出来るぞ! さあ頑張れ。特異としての力を目覚めさせるんだ!」
所で報告書には変形機能など記述されていなかったから、仮にこれで変形が可能だった場合、オレは特異に更なる特異性を付与した事になるのだろうか。オレがどうしようとオレの特異性の関係上、誰も危害は加えられないから、特にどうという事は無いのだが、だからと言って俺が理性のブレーキを掛けない理由にはならない。
どうしても理由が欲しいのなら、即興で作れなくはない。オレに被害が無くても、オレの担当エージェントである美墨にとばっちりが行くだろうから、それが理由だ。彼女はオレを幸太として見てくれる唯一の人間。迷惑はかけたくない…………とは、もうオレに言う権利はないか。まずクロネコを連れ出している時点で迷惑をかけているし。
「むうううううううううウウウウウウウ!」
「あれ、何してるの?」
待ちきれなくなったのか、クロネコがこっちの方に近寄ってきた。ストレス値の増加こそが特異性を引き起こす原因になっているので、直接的な否定は避けなければ。担当職員のオレが扱い方を間違える訳にはいかない。
「あ、ちょっとクロネコはもうちょい待ってて、ね? ちょっとこの施設って色々ややこしくてさ。こいつ機械だし、聞きたい事があるんだよ」
「それって、私は混ざれないの?」
「面白くないから、分かってよ、クロネコ。後で絶対楽しませるから」
「……約束ね!」
「うん」
…………本当に面倒だ。
オレが言うべき言葉では絶対に無い事を予め言っておく。面倒という点で言えば、何をしてもどれだけ軽微でも即死カウンターを返してしまう俺の方が面倒だ。だから誰もオレに危害を加えられないし、加えられたとしてもオレは死なない。こんな面倒な存在が居るだろうか。幸いなのは機関に保護されるまでオレが一般人として生きていた、という事か。お蔭で良識が存在している。少なくとも、今の所は。
そう言えば、オレが機関に保護される前の話をしていなかったか。あれは正真正銘の地獄だった。オレは自分の事を一般人だと思っていたし、周りもオレの事を一般人だと思っていた。陰気な性質を持っていたオレはクラスでも割と浮いていたが、それが仇となってしまった。あれがきっかけでオレは機関に存在を認知されてここに居る。美墨と会えたという事を幸運と考えるならば、あの過去は塗りつぶす必要がないが、そうでないのなら消すべき過去だ。あれさえなければ、まだオレは普通に生きられた。
遅かれ早かれ、こうなっていた事実は変わらないと思うが。
「ウウウウウウウウウウウウ! ハアッ!」
二五四が声を出し切り、変形を終えた。しかしどうした事だろうか。彼……便宜上『彼』の身体は何処をどう見たって何も変化していなかった。高度な間違い探しと言われてもそれはそれで納得してしまうが、十中八九何も変わっていない。そもそも変形自体、出来ていないのではないだろうか。
「…………何か、変わったかな?」
「ムリダった。脳の中にあるソレッポイオンセイをヒロッテみたが、駄目だった」
「……え。あれ、君の脳の音声だったのか?」
「ソウダ」
つまり、飽くまで二五四は機械生命体であり、言葉狩りの能力はあっても変形能力は無いと。機関の特異性調査が間違っていない事を証明したようなものだ。そうなると、不思議なのは彼の脳にあるらしいその叫び声。変形で無いのだとするのなら、何処かで聞いた事がある様な―――
「あ」
「ドウシタ?」
「えっと、君の脳にあるその音声なんだけどさ。それひょっとして、トイレとかで踏ん張ってる時の声なんじゃないかなって」
「ダイベンか?」
「こっちが言い方濁してるんだから、付き合ってくれよ。それなんじゃないかな。機械生命体じゃない僕には何とも言えないけれど、そういう排泄物ってのは君達にとっては縁薄いものなのかな」
「…………一〇〇%エネルギー変換。ムダナモノは出ない」
「便利な身体だね」
そんな生物がトイレで踏ん張ってる時の音声を軸に変形しようとしたのか。だとするなら馬鹿である。オレも大概頭の良い方じゃないが、幾ら何でもそれは無い。変形出来ないから詳しい感触や手応えはともかく、絶対にトイレで踏ん張る感じのものではないだろう。確証はないがそう信じたい。でないとオレが子供の頃憧れたロボットアニメや映画が、急にトイレ臭くなってしまう。
色々あったが、要は変形不可能という事が分かっただけなので、事態は何も解決していない。クロネコの興味をどうにか引いて友達作りを出来るだけ遅延させないと、どれだけの方面の人に迷惑が掛かる事やら。
「興味…………興味か…………」
要は同じ特異と友達にさせたくない(事態がややこしくなるし、危険な特異だった場合、クロネコが死ぬか暴走する)ので、それ以外の事をさせて本来の目的を隠してしまえばいい訳だから…………
「テアソビなど、ドウダ?」
オレは指を鳴らした。
「それだ!」




