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特異は存在してはならないから特異と呼ぶのだ     アンドロメダ博士

 急に意識が途切れるあの症状がまた再発したので投稿が昼から夜になりました。申し訳ございません。

 言葉を失った。

 特異である時点で幾らかの異常性は許容するつもりだった。オレ自身も特異なのだから、同類に対しては寛容でいるつもりだ。特異ナンバー二五四も大概危険だったし、あれと対峙して無事で居られたのはオレとクロネコの特異性が一種のカウンターとして機能していたからだ。

 だが、これは次元が違う。ここまで来ると最早兵器だ。彼を一人何処かの国に放り込むだけで、その国は滅び去ってしまうだろう。オレもそうだが、特異性によっては兵器の類は通用しない。ノンレム眠間人もその類だが、オレ達とは違ってそれだけの特異……いや、だったと言った方が正しいのか。 

「これは一体どういう事なんですか?」

「どうもこうも見たままです。脱走中の特異はノンレム民間人であり、不柩の砂爆。ノンレム民間人の身体から出ている砂は特異—二四九で、早い話が吸収されてしまったという訳です。どちらがどちらにと言われても困りますが」

「…………合体?」

「ええ。だから補遺に特異同士の実験は禁止されていると書いてあるでしょう。ノンレム民間人も不柩の砂爆も今となっては報告書などあっても無くても意味を成しません。データの保管という意味で残っていますが、現在の事のみを知りたいなら特異—八七七-Ωの記事を見るだけで十分なのです」

 如何にもヤバそうな特異だとは思っていたが、誰がここまでだと予想した。報告書と実際にオレやクロネコの身に起きた出来事には差異があるもの、それが特異というものだ。オレを脳死させようものなら危害になるだろうし、クロネコを脳死させようものなら……多分脳死するとオレと触れ合えなくなるというベクトルからストレスを感じたのだろう……解毒される。

 二五四の時と同じで、オレ達は運が良かったのだ。生まれ持ったのかそれとも後天的に身に付いたのかはさておき、これらの特異性が無ければ死んでいたのは間違いない。無論、運が悪かったとも言える。特異性が無ければこんな訳の分からない世界に連れていかれる事もなかったのだから。

 オレは美墨さんと出会えただけでも一生ものの幸運だと信じているが。

「―――所で、貴方は?」

「ああ、これは失礼しました。俺は姫乃崎です。情報記録室の管理を任されています。早い話が監禁状態にあるという訳ですね」

「は?」

「言葉のままです。俺はこの情報記録室から出る事が赦されていない。出れば即刻殺される」

 貴方達と同じです、と彼は笑ったが、特異でもない人間が閉じ込められているという事実に、オレはどうしても笑う事が出来なかった。

 特異が収容されているのは、そうでなければ隠さなければならず、捕まえなければならず、調べなければならず、出来る事なら世界の為に利用しなければならないからだ。機関は徹頭徹尾世界の味方であり、それ故に『特異』がのさばる事を認めない。

 だが姫乃崎さんはどうだろうか。只の人間だ。特異という不可思議な存在を日夜相手しなければならないという立場は除く。それは機関に所属する者なら誰であれ例外ではない。しかしそういう者達も移動は自由だ。任務などは勿論あるだろうが、それでも監禁されるという事は懲罰以外でまずない。

 だから美墨さんは今朝オレの所に来た。異常な世界で生きる者にはある程度の自由が赦されて然るべきなのである。それが姫乃崎さんにはない。

「所で、貴方に一つ聞きたい事がある、特異ナンバー九九九。どうして彼女を連れて来たんですか?」

 彼女、と呼ばれる人間はこの空間に一人しかいない。現在進行形で初めて見たバランスボールに夢中になっているクロネコの事だ。

「貴方は職員も兼ねているから咎めたりはしません。咎めた所で貴方の特異性は武力制圧出来るものじゃないが、それはともかく。彼女は職員ではない筈です。どうして連れて来たんですか?」

「…………絶対に秘密にしてくださいね」

 隠し通すだけ無駄だと悟ったので、オレは彼だけに昨夜の出来事を全て教えた。


 クロネコが寂しくなってしまってオレの部屋に来た事。

 二人の特異性を考慮するとまともには眠れないので、どうにか先に眠らせてしまおうと思った矢先に特異-八七七-Ωに遭遇した事。

 八七七-Ωから貰った砂でクロネコを眠らせた事。

 

 姫乃崎さんは気の毒そうに俺を見て、弱弱しく微笑んだ。

「……成程。担当職員として放置する訳にもいかず連れてきた、と。早い話、貴方は職務を全うした訳ですか」

「そうですね。そうしたら急に扉の前でクロネコが目覚めたので……多分、脳死状態がストレスになったんでしょうけど。後はもう姫乃崎さんが見た通りです。まあでも、目的はもう一つあったんですけどね」

「ふむ? 何だろうね」

「アイツ、特異の友達がたくさん欲しいって言ったんですよ。だから以前二五四に会いに行ったんですけど」

「……はあ!?」

 悪気は無かったのだろうが、その大声にクロネコが驚いた事で空間に揺らぎが生じた。オレが慌てて謝ったお蔭で直ぐに収まったが、注意してもらいたいものだ。確かに頭のおかしい事をしたが、それとこれとは話が別である。

「もっとたくさん友達が欲しいとかその時言ってて、まあ一時凌ぎという事で二五四と協力してその場は凌いだんですけど。でもいつまでも凌げる訳じゃない。もしまたフラッと適当な特異に会いに行って、ソイツに理性や知性が無かったら……条件を満たした対象に無差別攻撃を仕掛ける様な特異だったら大変でしょう? 俺の横に居る奴がその特異を殺して、それを見たクロネコがストレスを感じて―――壊滅的終焉シナリオじゃあるまいし。でもここに来れば、クロネコの友達を安全に探せるかなって思ったんです」

 直前のやらかしもあり、姫乃崎さんは沈黙。数秒悩んだ末に、ようやく第一声を放った。


「…………頭おかしいんじゃねえの」


 オレもそう思う。

「しかし事情は分かりました。それならば不本意ですが協力できそうですね」

「不本意なんですか?」

「貴方が職員だからこそ認められているだけで、ノンレム民間人の様な例がありますから、特異同士は出来るだけ引き合わせるべきではないという考えが研究員の中では主流です。同じ事を他の研究員に言ってごらんなさい。血を吐いて倒れるでしょう」

「それこそ大袈裟ですよッ」

 とは言ったものの、世界が終わるかもしれないと考えたら卒倒しても特別おかしい反応ではない。まして自分たちに一切の原因が無く、肝心の原因が下らないものであったなら猶更だ。『たかがそんな事で』と侮って世界が終わる。こんな空しい過小評価はない。

「…………安全な特異、居ませんか?」

「ああ、はいはい。安全な特異ですか。この支部には―――居ない事もないですが、いやあ、困りましたね」

「いや、安全なら困る事なんて何もないでしょう」

「いやあ、困るんですよ。だって予約が―――」

「予約ッ? 予約って何ですか? 特異で予約?」


 ―――その特異はレストランか何かなのか?


 俺の予想は、果たして間違っていた。

「その特異、人懐っこくてですね。メンタルケアの一環として職員にも触れ合いが認められているのですが、これがもう大人気で。正攻法なら五年待ちなんですよね」

 因みにこちらは完全に気分であり、趣味で続けているので、BOOKPORTに出す予定はありません。悪しからず。

 

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