恋密な関係
黒彼女は裏で進めてますけど明日投稿になりますかねえ……
僕に青春なんて無かった。
それは僕という人間がまだ特異として保護される前の事だ。決して楽しい学校生活では無かったけれども、そこそこに平和で、まあこんなものかと割り切っていた。僕の抱いた青春とは幻想で、僕の抱いた学校生活は紛い物だった。こんな風に何度も裏切られて、きっと現実しか見えなくなる大人になるんだろうと、子供ながら僕はそんな事を考えていた。
僕の周りであまりに事故が起きすぎる事は、皆分かってた。
最初に気付いたのは、小学校の頃。僕が窓際で黄昏ていた時、僕を脅かそうと思ったんだろう。同級生が僕の背中を押した。それに悪意はなかったと思う。押したと言われても、軽く前によろめく程度だ。窓際に居たら少し驚くくらいなもので、同級生はその驚きが見たかったんだと思う。
次の瞬間。その同級生が隣の窓を突き破って外に放り出された。
現実とか妄想とかそういう問題じゃない。実際に何らかの力で同級生は窓から突き落とされた。目撃した人は訳が分からなくなって泣き出して、僕は事態が理解出来ず、硬直した。後から先生やら救急車やら来たけれど、結局、同級生は一週間後に死んだ。外面だけを見れば僕は何もしていないから責められる事は無かったけど、この時から僕は、この不可解な出来事は自分が元凶なのではないかと直感していた。
そしてその予想は当たった。
運動会のリレーでバトンが手首に当たった。僕にバトンを渡した同級生は体育倉庫で死亡した。凶器は学校にある全てのバトンで、全身を滅多打ちにされていたそうだ。
修学旅行で通行人と肩が当たってドブに落ちた。翌日、ニュースでその人が死体となった事を知った。死因は溺死で、どうやら雨の日に氾濫したドブに顔を突っ込んでそのまま死んだらしい。
フラッシュコットンで同級生に驚かされた。同級生の服は炎上し、その後あらゆる対処を試みるも、五時間以上燃えるだけ燃えて、ようやく燃え尽きた。
近くでタバコを吸っていた同級生が居た。翌日になって肺が急速的に腐敗して死亡した。
同級生に殴られた。一瞬で同級生の首の骨がへし折られ、周囲に居た同級生も全員五分以内に骨折した。僕だけが無事だった。
これらの事が積み重なり……特に最後。僕は死神だと言われる様になって、孤立した。いや、もともと孤立していなかったかと言われると、それなりにしていたんだけど……誰も、構ってくれなくなった。母親も、父親が僕に殺されてからは無視する様になった。僕は本当に、独りぼっちになった。
そんな僕を救ってくれたのが、機関だ。
機関は僕の親から僕を買い取り、保護する事を通達してきた。半ば自暴自棄に僕はそれを承諾して―――それから、あの事件を起こして今に至る訳だけど。
やっぱり、今度こそ青春したい。
さっきは美墨さんが寝泊まりに来てくれる訳じゃない事を知って落胆のあまり聞き忘れてしまったけど、今度は聞き忘れない。クロネコが動き回るのは問題かもしれないけど、僕が動き回るのは良いでしょう? ……なんて。
良い訳無いんだけど、良い前提で考えても問題はある。
クロネコは人型で、二五四も巨体とはいえ一応人型。しかも意思疎通がとれた。これはどうしようもない幸運と言える。だってオレは、このエリア-〇〇九に居る特異を全く知らないのだ。変な特異と遭遇して、もしもそいつに知性が無かった場合……オレのトリガーが引かれて大惨事になるだろう。機関始まって以来の大脱走が起きるかもしれない。それは即ち世界の破滅を意味している。まだ特異の事は全然知らずとも、それ自体の認識はこれで間違っていないと思うのだが、どうだろうか。
コンコン。
こんな時刻(と言っても窓が無いので時計でしか判断できないが)に尋ねてくる人は一人しか居ない。「入って良いですよ」と促した所で開けられる筈がないので、重苦しく腰を上げ、オレは来訪者を歓迎する。
「どうも。美墨さん。他の人には勿論内緒で来ましたよね」
「確かに誰にも言ってないけど。だからって内緒とはまた違うわよ? …………どうかしたの?」
「いや、やっぱり寝泊まりしてくれないんだなあと思って」
「しないわよ。だって私が仮に寝返りを打ってその腕が幸太に当たろうものなら、悲惨な事になるもの。怖くて寝られやしないわ」
あ。
それもそうだ。オレの特異性を考えれば、同じ部屋で寝るなんて正気の沙汰じゃない。他でもない本人なので、すっかりその考えが抜けていた。
「―――それで、話ってのは」
「テンション低いッ! そ、そんなに一緒に寝たかったの」
「まあ寝たくなかったって言うと嘘になりますね。でも僕の特異性を考慮すると一生叶いそうもない望みだって分かっただけです。気にしないでください」
「そんなに低かったら気にしちゃうわよ! 貴方ってそんな声低くないでしょ? 何その―――聞いてる感じで、こっちが怠くなってきそうな声はッ」
「だから気にしないでください。で、話って何ですか?」
オレの一言で目的を思い出したのか、美墨は表情を改めて、俺の肩に手を……極めて優しく置いた。
「実はね―――貴方がさっき連れてた特異、居たでしょ?」
「〇二三の事ですか?」
「そう。それでね……その。今は凍結されてるんだけど、いつか強行されちゃいそうだから、先に私から頼んでおこうと思ったの」
やけに要領を得ないというか、遠回りな彼女の発言にオレは首を傾げる。強行とか頼むとか色々情報は出てくるが、結局俺に何をさせたいのかがはっきりしない。
「具体的には何をすれば良いんですか?」
「その…………何て言えばいいのかしら。思いつかないから率直に言うけど―――」
「特異ナンバー〇二三と、恋人関係になって欲しいの」
頑張れば深夜。残りは一話。 ノルマ頑張れ。




