90話『密談 5』
引き続き、エドワード視点です。
ちょっとシリアス。
僕は、すっかり冷めてしまったティーカップに手を伸ばす。
一口含んで、舌を湿らせてから続きを話す。
「僕とナナリーはね、エミリアを貶めた罪で投獄されたよ。
僕の両親、父上と母上が僕とナナリーに言ったんだ。
『エミリアが幼少の頃から僕の為に教育されてきた事』
『エミリアの気持ちを考えた事があるのかという問い』
『代々、王家に仕えてきたヴォルステイン家の信頼を
僕達のせいで裏切った事』
『パナストレイ星皇国との信頼関係に亀裂が入った事』
『そして、ヴォルステイン家がパナストレイに移った事』」
僕の言葉に前世の妹、エミリアは驚いていた。
「ちょ、ちょっとまって!
なんで、ヴォルステイン家がパナストレイに移ることになったの?」
僕は詳しく説明した。
「星霊アスカの言葉に従ったらしいよ。
星霊アスカは、エミリアの死を悲しんだ。
アスカの言葉に従って、エレノアさんとジェバース侯爵、ジェネスに
そしてジョシュア。 彼の婚約者のシンシア嬢。
シンシア嬢とジョシュアは早々に結婚届けを提出していて
とっくに夫婦になっていたよ。
ヴォルステイン家全員でパナストレイに移ったのさ。
ヴォルステイン家がパナストレイに移ったあと、
エレノアさんとジェバースさんが起こした国家ぐるみの事業が
どうなったか気になるよね?」
僕の言葉に2人は頷いた。
「星霊アスカは、
ドルステン王国の医療関係者の記憶を綺麗さっぱり消したんだ」
僕の言葉にエミリアは驚愕し、ベリアルは「なるほど」と頷いた。
「『聖霊の契約書』に宿っている聖霊は星霊アスカの眷属だったようだよ。
アスカの命令で一斉に契約書が発動してしまった。
そして、治癒院と治癒機関関係の書類や魔道具がアスカの炎で焼け消えた。
これには皆、驚いていたようだったけれど。
星霊のすることは僕達人間にとっては規格外だからね。
皆、星霊アスカの言葉に従うしかなかったよ。
国の重大な事業を放り出した責任なんてものは星霊には関係ないしね。
父上も星霊ノームから言葉を預かったって言ってたから。
この後の国は大変な事になるって、僕を罵っていたよ……」
話を聞いているエミリアは難しい表情をしていた。
向かいに座るベリアルは何もいない自分の右肩を見て何かと会話していた。
僕が不思議に思っているのを感じたのだろう。ベリアルが僕に話しかける。
「エドワード。シェイドが、アスカは治癒院にいた人間も燃やしたのか
気になっている。私もそれは気になった」
(右肩にいるのは星霊シェイドだったのか! ベリアルも星霊憑きか!)
なるほど、納得した。
どうしてベリアルがエミリアの護衛なのか気になっていた。
星霊憑きのベリアルが護衛なら、なるほど安心できるね。
けれど、星霊は世界で15柱しかいないと言うのに、
僕の周辺には結構多く集まっている気がする……。
僕は意識を切り替えてベリアルの問いに答える。
「そこまでは僕も聞いていなかったんだ。
正直、あの頃はいろいろあって。
僕自身、憔悴していたから」
ベリアルは僕が語った内容で何か気になる事でもあったのだろうか?
「そうか。
ありがとう、続けてくれ」
ベリアルに続きを促され、続ける。
「その後は、僕は反省としてさまざまな人に話を聞いた。
僕は、1回目ではナナリーの事を想っていたからね。
学園に通う間はエミリアに少しだけ罪悪感もあったんだ。
エミリアの死を伝えに来た侍女達にその話を出されて……。
エミリアが卒業パーティの前日まで書いていた日記を見せてもらったんだ。
『悪魔を召喚しました。
彼に頼んで、悪戯を仕掛けたの。
ふふふ。 エドワード殿下の困った顔が見ものね』
『殿下がナナリーさんを好きになっているのなら、
私は身を引いてもいいわ。
でも、少しくらい腹いせをしたっていいでしょう?
私は今まで、ずっと彼らに蔑ろにされているんですもの』
『私がナナリーさんに呪いをかけた?!
違いますわ!! 私が呪いをかけたのは殿下にだけよ!!』
『殿下は最後まで私を信じてくださらなかったわ。
もう、私はどうしていいのか分からない』
侍女が話すエミリアの姿と日記に書かれた人物像は同じで、
僕の知るエミリアとはまったく違ったように思えた。
僕は、今まで何を見てきたのかと本当に反省したよ……」
僕は、後悔した面持ちでため息をついた。
「まって! お兄ちゃん。
1回目の私って、お兄ちゃんにだけにしか
呪いをかけてないって言ってたの?」
妹が驚いた表情で聞いてくる。
「あくまでエミリアの書いていた日記の内容と
侍女が話した内容だったけれど」
妹はベリアルのほうを向いた。ベリアルも頷いている。
そして、神妙な顔で言う。
「やっぱり、お兄ちゃんが経験した1回目も
ゲームの世界と少しだけ内容が違っているんだわ」
前世の母である、エレノアさんとマリエラ嬢が言った内容だという。
少し変わっていてもほとんど内容は変わることなく、
物語は進行すると言う事だった。
決められた運命は多少道が逸れたくらいでは
変わらないという話でした。(ぇ)
まだまだエドワード視点続きます。




