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79話『確かにあった想い。』

ちょっと長いです。

休憩を入れて、少しずつ読んで下さいませ。


エミリアの感情が結構暴走しています。

不快に思われた方はごめんなさい。



私の寮部屋のリビングにはエドワード殿下と私だけがいる。

どちらからとも話を切り出すことが出来ないまま、

ゆっくりと時間だけが過ぎていく。

空が茜色に染まり、窓から差し込む光が彼の表情に陰影をうむ。


机に置かれた花籠はなかごを私は見つめる。

そこには、私の好きな花だけが敷き詰められていた。


深呼吸して、私は口を開いた。


「エドワード殿下。 どうして、今更こんな物を持ってくるように

 なったのですか?」


この際だ。殿下にはっきり言おう。政略的な婚約を破棄してもらおう。

私にだけ醜聞しゅうぶんが広がるように、情報も操作しよう。


「どうして、そんなことを言うんだい?

 僕とエミリアは婚約者だ。当然だろう?」


今更……婚約者顔なんてしないでほしい。


「愚問ですね。 エドワード殿下は、以前は私のことなんて

 これっぽっちも好きでは無かったように思いますが?

 義務的なプレゼントなら、渡す時期はとっくに過ぎていますよ」



「そ、それは……」


私は自分よがりな想いに気づいていた。気づかないフリをしていた。

私は殿下を想っていたけれど、殿下は私のことは何とも想ってなかった。


それを……


「今更、どうしてですか……」


「気づいたんだ! ベリアルに言われて。

 君の大切さに、僕の君への想いに……」


殿下は語った。 いままで私に抱いていた思いを。

そして聞かされる。ベリアル様が現れてから私に対して抱いた感情を。

私が抱いていた嫉妬の感情を。

まさか、殿下から『私が嫉妬している』なんて聞かされるなんてね……。


殿下から漏れ出る言葉の端々にある『人形』の二文字。

私は、薄く笑みを貼り付ける。



ああ。 そうか―――。


私の14年間の想いは、この人のための時間は―――。



胸の中に残っていた僅かな罪悪感が、悲しみに変わった。



「エドワード殿下。 貴方のそれは、恋愛感情ではないです」


エドワード殿下は私を見つめて目を丸くした。


「それは、ただの所有物への独占欲です」


エドワード殿下は驚き、焦った表情になった。


「な、何を言って――」


「殿下の想いはベリアル様に取られそうになった玩具か何かを

 心配するようにしか私には思えません」


私は知らずに瞳に溜まっていた涙をこぼす。


「私のことを知った気で語らないで下さい。

 私の想いを、貴方のそんなものと一緒にしないで……」

 

胸を押さえて、今までの貴方への想いを吐き出す。

これで最後にする。全部、吐き出してしまおう――。


「私は、幼少の頃より殿下の婚約者として育てられてきました。

 まだ見ぬ婚約者に理想を抱き、貴方の素晴らしさを周りから教えられ、

 そんな貴方の隣に立つ為だけに育てられてきました。

 貴方と初めて出会った日、理想以上に素敵な方だと思っていました。

 そして、私は貴方への想いをずっと育てていくことを望んだ!

 急に貴方が悪戯をし始めて、私への態度が変わってしまっても、

 貴方への想いは変わらなかった!

 私が支えればいいと、自分に言い聞かせて、頑張ってきた!!」


いっきにしゃべったせいで、嗚咽が混ざる。


「わ、私の、14年間の想いを……

 そんな、『貴方の人形』なんて言葉で片付けないで……。

 私の想いを、貴方のちっぽけな想いと一緒にしないで……!」


あふれる涙をこぼし、私は両手で顔を押さえる。

涙は止まることなく、手の隙間から溢れ続けた。


確かに存在した、私の彼への想い――。


私はそれを諦めた。

そして、新しい出会いに戸惑いつつも受け入れる覚悟をした。

育てていく決意もした。


今更、独占欲が沸いたからと言って私を物のように扱わないで欲しい。

私の所有権を婚約者という言葉に置き換えないで欲しい。


政略結婚に恋愛感情なんて馬鹿らしいと貴族の大人は言うだろう。

しかし、私の知る大人たちは、政略結婚でも仲が良かった。

両親に至っては、恋愛からの政略結婚だった。


そんな人達を見てきたからこそ、私だってエドワード殿下と

仲良く夫婦になるのだと思っていた。

だけど、それを先に壊したのはエドワード殿下だ。



「もう、いいでしょう。

 私は今まで貴方のために頑張った! 

 次は、自分のために生きていきたい!」


この人の『人形』のままでは居たくない。 

自分のために生きていきたい。


そんな言葉が漏れた。


その言葉は私なのか、それとも以前のエミリアの言葉だったのか

私にはわからない。


以前の私のままだったら、まだ殿下への想いがあったのかもしれない。

苦しくも愛おしいと思う感情が。

愛情はいつしか、憎しみに変わるはずだった。


その変化した感情を、人は愛憎と呼ぶ―――。


しかし、私の前世の記憶のせいでその感情は消えてしまった。

殿下への想いと一緒に――。


政略的な結婚なのだから、こんなわがままは通らないだろう。

通らないならそれでもいい。

婚約破棄がもしこのまま出来なくて、私と殿下が夫婦になっても、

私はきっと殿下を好きになることはない。

義務的な子供を産むだけの『人形』になるだろう。


貴族なら当たり前。そう割り切って生きていくだけ。


「エミリア。今まで気づいてあげられなくて、ごめん……。

 君の気持ちが聞けてよかった。

 今日のところは、僕は帰るよ……。

 また、来るから」



エドワード殿下はそう言って部屋を出て行った。


私はしばらく、その場で泣き続けていた。





その後の私は、泣きつかれたのかいつの間にかベッドで寝かされていた。



目が痛い。

ベッドの天幕を見上げながら考える。


冷静になってみると、かなり自分勝手な事を一方的に言ってしまった。

もしかしたらエドワード殿下に対して昔の私も、もっとやり様は

あったのかもしれない。今更そんな事を言ってもしょうがないけれど。

後に悔いるから後悔と呼ぶ。なんてねー。ははは。(乾いた笑い)


明日、ちゃんと殿下に謝ろう。

そして、これからの事を2人で相談して決めよう。

殿下はきっと私の話を聞いてくれる。

そして、両陛下も私の味方をしてくれる自信はある。


幸い、私の利用価値はスクロールと新薬ポーションで結構高いはず。

王族との婚約破棄は私の醜聞がすさまじいだろう。

だからと言って、私の価値がそこまで下がるわけではない。

今までのヴォルステイン家の功績を考えれば、王家を裏切るわけではないのだ。

むしろ、見限られないようにこちらの意見を飲んでくれるかもしれない。

王族に対して脅しとも取れるが、こちとら運命いのちがかかっているのだ。


まぁ、婚約破棄されなかったら……

それはそれでいいのかもしれない。

私自身が死ななければ。

でも、私の本心で言えば婚約破棄したい。ちゃんとした手続きをしてね。


まずは明日だ。明日、ちゃんと殿下に謝ろう。


私はそう心に決めて、もう一度目を閉じたのだった。



王族との婚約破棄ってこんなに簡単に出来るの!?

って思うかもしれませんが、この世界は異世界ですので可能です。

何より、両陛下はエミリアに甘いです。

いや~・・・甘いから、やっぱり難しいかもわからんね・・・。

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