71話『ナナリーの苦難』
ナナリー視点の回です。
私はヒロイン。
ヒロインのナナリー・ランゲス。
この世界の選ばれし者。
私は選ばれし者のはずなのに、どういうことよ!!
最近ちっとも上手くいかない!!
学園祭の時だってそう!
どうして、エド様はエミリアなんか庇うのよ!!
私がヒロインなんだから、私の味方をしなさいよ!!
カインなんかちっとも役に立ちゃしない!
推理が得意だったんじゃないの!?
まったく、つかえない男よね!
最近はリリンも一人でどっか行ってて見かけないし。
好感度がわからないじゃないの!!
どいつもこいつも使えないわね!!
今日の仮装パーティもおかしいわよ!
なんで、エド様とベリアル王子がエミリアと同じ格好なわけ!?
しかも部門もまったく違うし!!
一番の問題はマリエラよ!!
あいつウザイのよ! なんなのよ!!
ゲームとぜんぜん違う!!
マリエラは、ここでは邪魔してこなかったじゃない!
まったく、ちっとも上手くいかない!!
全部エミリアのせいよ!
あいつが、マリエラにやらせたんだわ。
マリエラたちの格好だって、エミリアの仕業よ。
絶対そうよ!!
目の前に車椅子の女が会場の扉を塞いでいる。
もう! 邪魔なのよ! モブのクセに私の進む道を塞ぐなんて!
「もし貴女、少しよろしいかしら?」
車椅子の女が話しかけてきた。
こんなイベントあったかしら?
まぁ、私はヒロイン。
選ばれし者だから聞いてあげないこともないわね。
「はい! 何かお困りですかぁ?」
車椅子の女は、ほっとした様子で薄く笑って答える。
「私の侍女が戻って来ないのよ。
あの料理のあるテーブルあたりにいると思うわ。
そこまで私を押してくれないかしら?」
女は困った顔をして料理の並ぶテーブルを見つめる。
こんな状態なら食べるのも苦労しそうね。
まぁ、私には関係ないけど。
運んであげるくらいわけないわね。
「いいですよぉ。侍女さんが見つかるといいですねぇ」
私は車椅子を押した。
テーブル付近に着くまで、車椅子の女が話しかけてくる。
メンドウだけどしょうがないわね。
私はヒロインだし。モブの相手くらいしてあげるわ。
車椅子に乗っている女をやさしくする私に、
周りからさまざまな視線が送られる。
きっと、こんな状態の人をやさしくしてあげている私を、皆褒めているのね。
しばらく車椅子の女と話していたら、侍女を名乗る女が現れた。
「ありがとう。貴女はとてもやさしいのね」
「そんなことないですぅ!
私は、当たり前のことをしただけですからぁ。」
車椅子の女の感謝を受け取った私は、その場を離れた。
私はヒロイン。
選ばれし者なんだから、これくらい当然よ!
でもあのモブどこかで見た事あるのよね。
どこだったかしら?
ゲームの中だった気がするけど。
思い出せないってことは、どうでもいいってことよね!
モブ について。
ゲームやアニメ、漫画などで重要人物以外の
名前の分からない登場人物のことを指します。
次回、エミリア視点に戻ります。




