20話『エレノアの悪夢 番外編1』
エレノアの過去話編です。
私は、パナストレイ星皇国の第一王女。
名前はエレノア・ナスカ・パナストレイ。
建国記念のパーティー会場で、私は犯してもいない罪を被せられていた。
目の前にいるブロンドの長い髪を纏めて背中に流している公爵家の子息が
ピンクの髪をした少女と腕を組んで私を見下ろしている。
どうして、そんな目で私をみるの?
「君にはガッカリしたよ。君は私に相応しくない。
これ以上顔も見たくない。君との婚約を破棄する!」
どうして、そんな酷いことをいうの?
声に出して言いたい言葉は、喉を通って出てくれない。
声にならない想いを必死に紡ごうとするけど、
私の声は音として、出てこなかった。
滲む視界で必死に訴える。
『―――私じゃない。私は何もしていないわ』
どうして、こんなことになったのか……?
なにを間違えたのか?
私は騎士に腕を捕まれたまま、その場から動けないでいた。
そんな私に、少女が近づく。
耳元で囁かれる声音は、私の血の気を一気に引いていく。
「私の勝ちね」
下唇をかみ締めて、女を見つめる。
「こっわーい。 ふふふ。
でもねぇ、私、本当は貴女に感謝しているの」
ふわりと笑う微笑はどんな男も虜にするだろう。
薄い赤色の目はルベライトの輝き。
その眼の輝きがドス黒い気配を帯びながら、彼女が言った。
「あのとき、馬車で轢かれた私を助けてくれてありがとう」
ブチッという音が頭の中で響いた気がして――。
その音は現実に起きた音で―――
「きゃああああああ」
私は、目の前の女の髪を引きちぎっていた―――――。
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あの後、私は騎士に拘束された。
王族が隔離される牢屋に入れられて、私は項垂れている。
何時間経ったのか分からないけれど、私がここに入れられたということは、
2度と外に出ることは叶わないのでしょうね。
しばらくして、扉の前が騒がしくなった。
ドアのほうを眺めていると、そこには良く見知った人の姿があった。
『お兄様』
私は、口を動かして言葉を発したつもりだった。
しかし、その言葉は音として紡がれることはない。
「やはり、声を奪われたか」
兄の言葉に、私はうつむいた。
お兄様は苦い顔をして続ける。
「お前の死刑は決定だそうだ」
お兄様は今にも泣きそうな顔でまっすぐに私を見つめる。
「俺は、お前を助けてあげることはできない」
ああ―――。
やっぱり、お兄様でも無理でしたか。
半分わかってきた。きっとうまくいかないことは理解していた。
それでも、淡い期待を抱いていた私は、自分の頬を伝う涙を
とめることが出来なかった。
嗚咽すらも声に出ず、私は静かに泣き続けた――。
何が間違っていたのだろう?
どうすれば、うまく立ち回れたんだろう?
私は、そんなに疎まれていたの?
私の存在は殺したいほどに邪魔だった?
9年間の私の想いを、貴方はどんな想いで踏みにじったの?
貴方への想いがとめどなく溢れてくる。
こんな状態になっても、私は貴方を愛しているのに――。
やさしく微笑む貴方が好きだった。
ブロンドの髪が年を追うごとに、長くなっていくのを見るのが大好きだった。
でも、もう見ることはできない。
次の年を、私は送ることが出来ないから―――。
私が泣き止むのをじっと、待っていてくれたお兄様は言った。
「叶うなら、お前の来世が幸せであることを祈っているよ」
お兄様が渡してきたビンを受け取る。
「すまない。すまないエレノア。―――っ 本当に――すまない―――」
耐え切れずに、涙を流し謝るお兄様に微笑んで――
『――お兄様、ありがとう』
2度と、音にならない言葉を発して――
私はビンを傾けて、口に流し込んだ。
こうして、私、エレノア・ナスカ・パナストレイは、死を迎えた。
追記
エレノアは侍女である少女と公爵家の子息(宰相令息)を暗殺しかけた罪で捕まり、
国皇様を毒殺した罪で死刑が確定しました。
両方とも冤罪です。




