196話『国境砦、到着』
今回は短めです。
出発前にいろいろとあったけれど、私達は無事に出発した。
出発した時はコルニクス公爵と兵達が隊列を組んで見送ってくれた。
ちょっとだけ仰々しいというか、恥ずかしかった。
そのあとの進行は順調で、死線を共に越えた異種の友情のおかげだろうか、
ナナリーは歌を歌わずとも酔わなかった。
途中休憩中、コンラート様がためしにナナリーを
自分の馬に乗って欲しいと提案。
「う……」
案の定、ナナリーの酔いが発動。
途中休憩を入れても、4時間ほどで砦に着くはずだったのに、
コンラート様の提案のせいで大分遅れをとってしまった。
しかも、ナナリーを乗せるとあまり揺らさないようにするためか、
コンラート様の馬の速度がかなり遅くなるのだ。
それに合わせていたら当然、全体の進行も遅れる。
結果、私達は多めに休憩をとる羽目にもなったしね。
「ナナリーさんが兄上の馬に乗るのは今後禁止です」
「なっ……!?」
「禁止です」
「ぐ……わ、わかった」
この時、バイゼイン家の家庭内序列を垣間見た気がした。
しばらく休憩をして、ナナリーの体調が戻り、
ナナリーはマリク君の馬で再出発した。
進むに連れて、雪原が少なくなってきている。
西に行けば行くほど暖かい地域となるからね。
国境砦から西はほとんど雪は見ないそうだ。
噂では、ハイライト国を守るイフリート様の恵みの加護のおかげという
噂もあるけれど、本当かどうかは分からない。
そんな事を考えつつ順調に進み、目前には砦の大きな城壁が見えてきた。
コルニクス領の国境砦。
対になる大きく堅牢な城壁が北の海の沿岸部分から
南の山岳部まで続いていている砦だ。
石壁の内側は迷路状に壁が作られていて、
中心部分の城を守る形に作られている。
もちろん、国境を越えるには大きな鉄門を潜れば簡単に通れる。
しかし、鉄門が閉じた状態での出入りは城壁の高さ、内側の迷路と
大陸一落とすのに時間がかかる砦のひとつとして有名である。
観光ガイド本「ドルステンの栄え」より抜粋。
遠目からも目立つ大きな城壁に圧倒され、
ナナリーとマリク君から感嘆の声が上がる。
「高いですね」
「すっごく長いわ……
どこまでも続いているかのようね」
砦の入口には口と鼻を布で隠した兵士が立っていた。
「お待ちしておりました」
私達の姿を確認し、急いで門を開けてくれる。
3人の兵士の指示に従って門をくぐり、馬を降りて荷物も降ろした。
「私と兄上は、治療に関して役に立ちそうもないので、
馬の世話や、砦の兵士達の手伝いをしています」
とリーテ様が全員の馬の手綱を集めた。
「「分かりました」」 「わかったわ」
私達が頷いたのを確認したリーテ様は微笑んだ。
「こちらへ」という兵士の案内で馬達を連れて、馬屋に向かって行った。
「では俺は荷物を宿舎へ運んでおきます。
その後は、砦の管理官の指示に従います」
「私も手伝うわ。
管理官の元にも用があるし」
コンラート様とマリエラは荷物を宿舎へ運んでくれるようだ。
私達は、治療に必要な道具だけを手に持ち、残りはコンラート様に渡した。
「エミリア達は、兵士達の治療に専念して。
コンラート様、行きましょう」
手を振るマリエラは、ほとんどの荷物をコンラート様と兵士に任せて
優雅に歩き出した。
手伝うとは? とも思ったけれど、あれがマリエラなので何も言うまい。
とりあえず、私達は私達にできることをするだけだ。
私とベリアル様、ナナリーとマリク君は、
別の兵士の案内で患者のいる兵舎へと向かうのだった。