183話『検問所にて 3』
よろしくおねがいします。
2月から、投稿時間を変更いたします。
時間は17時で、1日1話固定です。
大部屋への扉前で息を整えて入室する。
慌てると不審がられるからね。
部屋の中では、眠っているのはナナリーだけ。
あとの3人は起きてそれぞれ準備をしていた。
そう、リーテ様は準備をしている。
3人は入室してきた私とベリアル様に気づいて挨拶をしてくる。
「「おはようございます」」
「エミリア様、ベリアル王子、おはようございます。
お二人はお早いですね」
なんというか、いたって普通だ。
「おはようございます」「おはよう」
困惑した私はベリアル様に視線を送る。
ベリアル様は小さく首を振っていた。
「どういうことか分からない」という意味だろう。
じゃあ、あのフードの人物とリーテ様は別人ということ?
それとも魔法的な何かでの分身とか?
まさかの二重人格?
困惑はますます深くなる。
リーテ様は私が見つめているのに気づいて首をかしげている。
見つめすぎは良くないね。
私は誤魔化すために微笑んだ。
リーテ様も微笑み返してくれる。
美人の微笑みは破壊力があるよね! まぶしー!
「リーテ嬢については、私達で監視するしかないな」
というベリアル様の提案に頷く。
今は考えても仕方が無い。
私とベリアル様は、フードの女性とリーテ様の事は一旦保留にした。
とりあえず、ナナリーを起こそう。
ナナリーを揺さぶって起こした後、支度を一緒にする。
マリク君とリーテ様、コンラート様に、
朝食を貰いに行ってくれるように頼む。
その間に、私とナナリーはタオルで体を拭いたりといろいろ準備をした。
扉の外での見張りはベリアル様だ。
食事後、外に出てそれぞれの馬に荷物を乗せる。
そうやって準備をしているさなか、
コンラート様がナナリーに問いかけた。
「ナナリー、今度こそ俺の馬に乗ってくれるだろう?」
「えぇっ……」
コンラート様、まだ諦めてなかったのね。
ナナリーがコンラート様に対して大分引いている。
よく見ると馬の毛色が変わっている。
体格も小さめになっていて、ちょっとだけ大人しい。
まさか……。
「コンラート様、あの子はどうしたのですか?」
マリク君も気づいた様子で、コンラート様に問いかける。
「あの馬は体調が悪いようでな。
検問所の兵士に頼んで取り返えた」
コンラート様の視線の先には馬小屋があり、
敷き藁の上で横になっている馬がいる。
「まさか……っ!」
馬に近寄ったマリク君はしらばく馬と会話をしていた。
そして、憤怒の形相でコンラート様に詰め寄る。
「なんという事を!!
馬に痛んだ干し草を食べさせるなんて!」
え?
「知らんな」
冷たい眼光のコンラート様はマリク君を片手で押しやる。
それだけでマリク君は尻もちをついた。
コンラート様ってこんな残酷な性格だっけ?
ナナリーはマリク君に近寄る。
「大丈夫!?」
「ええ、平気です」
ナナリーはマリク君を支えている。
「さぁ、ナナリー。
俺の新しい馬で共に砦に向かおう」
コンラート様はマリク君を無視してナナリーに手を差し出す。
差し出された手にナナリーは困惑……というか若干脅えている。
「兄上……」
リーテ様もコンラート様に対して困惑の表情だった。
このままではいけない。
私はナナリー達の前に出る。
「コンラート様、そこまでになさって下さい」
「貴女には関係ない」
「いいえ、ありますわ。
私とナナリーは親友です。
親友が困っているのに手を貸すのは当然でしょう?」
「ナナリーと貴女が親友だと?
冗談は休み休み言え。
あれだけナナリーを虐げたのに?
ナナリーは困っていない。
これは、恥ずかしがっているだけだ」
ドヤ顔のコンラート様は、私に敵意を向ける。
本当にこのザンネンイケメンは……
自分に都合のいいようにしか物事を捉えないのか……。
呆れとふつふつと湧く怒りに、私は反撃の言葉を口に出そうとしたけれど、
ナナリーが立ち上がって私の肩に手を置いた。
「分かったわ。
コンラートの馬に乗せてもらうわね」
ナナリーは私に視線を向けて首を振った。
これ以上はやめてって瞳が訴えている。
マリク君もナナリーの意思を汲み取って、それでいいのならと頷いている。
これ以上空気が悪くなったら、収集がつかなくなるもんね。
私もしぶしぶナナリーに頷いたのだった。