181話『検問所にて 1』
小説の書き方を指摘していただいたので、
訂正中です。
書き方が変わって、混乱された読者様には
大変ご迷惑をおかけいたします。
現在の話まで投稿済みの話も順次修正いたします。
よっぽど疲れていたのか、
私が目を覚ました時間は早朝のまだ日が昇る前の時間帯だった。
昨日の夕方からずっと寝っぱなしだったという事ね。
周りを見渡すと、寝台に寝ているのはナナリー、マリク君、
リーテ様、コンラート様だけだった。
ベリアル様は扉の横にあるイスに座って本を読んでいた。
部屋に備え付けてある本棚から適当に見繕ったものだろうか。
(というか、ベリアル様っていつ寝てるの?)
そんな疑問を浮かべていると、顔を上げたベリアル様と視線が合う。
やさしい微笑みを向けられる。
朝からイケメンの微笑みがまぶしー! 眼福です!
そんなベリアル様は指で扉を指差す動作をする。
外で話があるという合図だった。
皆を起こさないように静かに部屋を出る。
ベリアル様について向かった場所は見張り用の塔だった。
見張りの人に挨拶をして、塔を登る。
景色を楽しみたいとか適当に言ったら登らせてくれたけれど、それでいいの?
塔を登って出た先は検問所の石壁の上に繋がっていた。
石壁はあまり高くない。
マンションの2階くらいの高さだった。
冷たい風が頬にあたる。
検問所の周囲は薄い霧に包まれていた。
「ベリアル様、どうかなさいましたか?」
外でしか話せない重要な話があるということ。
私は声を小さくして訊ねた。
ベリアル様を見つめると、小さく指パッチンをして何かの魔法を展開した。
よく見ると私とベリアル様の足元の地面に魔法ペンで魔法陣が描かれていた。
よく見ないと分からないほど精密に隠された魔法陣だ。
「これで声は遮断できる。
エミリアは感情が表情に出やすい。
景色を楽しむフリをしながら、あまり表情を動かさずに聞いてくれ」
景色を楽しみながら……。
ベリアル様が難しい要求をするということは、
何かしらの問題が発生しているということ?
例えばだけど、盗聴とか、監視とか。
その目を誤魔化すために、フリをしろってことだと思う。
「わ、わかりました」
ベリアル様も私を見ずに景色に目を向けて
普通に世間話でもするように振舞っている。
「よし。
エミリアは思い出したくは無いだろうが……
湖での一件を思い出してほしい。
エミリアが襲われた時だ」
湖での一件……。
私が襲われた時……。
表情を動かすなって言われた私は少し微笑みを作っている。
この状態であの時を思い出すって辛すぎるよ!
グっと湧き上がる感情を押える。
「あの時がどうかなさいましたか?」
「あの時、ポアソンが戦った相手を覚えているか?」
ポアソン君の相手……
女性だったような気がするけれど、
私は自分の事で精一杯であまり覚えていない。
「えと……女性の方だったのは覚えています」
ベリアル様を窺うと、風になびく髪がうっとおしいそうに払いのけている。
「認識阻害のマフラーをしていたから、姿は覚えていないはずだ。
人間には、女性だったとしか分からないだろうな」
「人間には?」
どういう事かと横目でベリアル様を見つめる。
私の表情はそのまま微笑みを浮かべたままだ。
「我々魔族には、彼女の姿がはっきり見えていた。
あの時の女性は、リーテ・バイゼインだった」
ベリアル様の言葉に心臓が飛び跳ねる。
コンラート様とカイン様と一緒に湖にいた女性はリーテ様!?
動揺した私は体が震えてしまった。
体の震えを誤魔化すために、寒い様な振る舞いをする。
すかさずベリアル様は私に自分が着ていたコートを被せる。
「もう少し、我慢してくれ」
ベリアル様は何かを待っているような感じだ。
それが何かわからないけれど、もう少し耐えろってことね。
頷いた私に、ベリアル様はやさしく微笑んだ。
「リーテ・バイゼインがコルトの街で
私とエミリアに会ったときの態度を覚えているか?」
リーテ様は、初めましての初対面の対応をしていた。
表情も行動も何も変なところは無かったように思う。
だけど、それが演技だとしたら相当なものだよね。
「あれは、演技ではなかった。
コルトの街で、リーテ・バイゼインは私達と初対面だった」
というベリアル様の言葉にハテナマークが浮かぶ。
んん??
どういうこと??
疑問が浮かんだ事によって体の震えは治まってきた。
「どういうことなんでしょうか?」
「わからない」
ベリアル様も表情は普通の無表情だけれど、声だけが困惑していた。
ベリアル様に詳しく聞くと、魔族は嘘を言っているのかどうかが
なんとなく分かるらしい。
詳しく言えば、魔族全員が相手の考えている感情が読み取れるという。
考えている内容ではない。感情が読めるらしい。
とりあえず相手の言葉が嘘かどうか分かるってことよね。
湖で私達に襲ってきたのはリーテ様だった。
だけど、コルトの街で出会ったリーテ様と私達は初対面だった。
うーん…… どういうことやねん???
頭がグルグルし始めてきた、その時―――
パキイィイィィン と小さく何かが割れる音がした。
「動くな」
音の元を探そうと首を動かしそうになったところで、
ベリアル様の声で思いとどまる。
目の端のほう、石壁の下でフード姿の何者かが
走り去っていくのが見える。
「ポアソン!」 「ここに」
ベリアル様が声を出すと、ベリアル様のすぐ後ろに
黒い燕尾服を着たポアソン君が方膝をついて現れた。
「追え!」 「はっ!」
シュッ! という音と共に、ポアソン君は消えていった。
一瞬の出来事だった。
声は外に届いていないはずなのに、ポアソン君はベリアル様の指示に従って
さっきの人物を追いかけていったようだった。
何が何だかわからない状態の私を無視して、
ベリアル様は魔法の刷毛を取り出し始めた。
あ、もう内緒話しなくていいのね。
さっきの音はなんだったのか? とか、
さっきの人物は誰だったのか? とか、
ポアソン君いたの!? とか、さまざまな疑問が浮かぶけれど……。
私の視線の先には、
しゃがんで小さな刷毛で丁寧に魔法陣を消すベリアル様のシュールな姿に
今は声をかける自信がでなかった。