179話『魔物討伐戦その後 2』
エドワード視点です。
作戦会議用のテントには、コルトの兵舎での作戦会議室にいた、
ほとんどのメンバーがいる。
会議が始まったのは、南側と西側の兵士達が本陣に到着し、
しばらく経ってからだった。
「殿下、今回の作戦はさすがでした!」
笑顔でそう告げるのは、王都から連れて来たフロント将軍だった。
フロント将軍の言葉に僕の顔色は暗くなる。
「死者が出ているのに、よくもそんな事が言えるね」
「えっ!? あ、そ、その……」
うろたえるフロント将軍にしまったという思いが浮かぶ。
「……すまない。 八つ当たりだ」
「とんでもない! 軽率な発言でした」
フロント将軍は頭を下げている。
「しかし殿下、あの程度の被害で済んだのですぞ!?
ほかの者や我々が考えた作戦ではもっと大勢の犠牲者が出たことでしょう。
もっと、ご自分に自信をもってください」
と言うのは、王都から連れてきたもう一人の将軍だ。
将軍という役職に見合わない綺麗な顔立ちのハーフエルフ、
スプレッド将軍の言葉に他のメンバーも頷いている。
「そうかな……」
机に広げられたコルト周辺の地図を見つめる。
この作戦で本当に良かったのか……
いまだに自問自答してしまう。
「殿下、発言してもよろしいでしょうか?」
手を上げたのは、東側を担当したコルト兵の班長の一人だ。
班長は、頷いた僕をまっすぐに見つめて言葉を発した。
「殿下の作戦で多くの死傷者が出たのは事実です」
「……」
グサリと胸に刺さる言葉だ。
だけど、その言葉には続きがあることが分かる。
「しかし、貴方の作戦のおかげで助かった命もあります。
貴方が手配してくれた魔法の薬や、医師の手配の迅速な対応。
治癒学校の生徒達のおかげで、救われた兵士の命も確かにあります」
とても真撃な、まっすぐな瞳で頭を下げる班長。
「コルトの民を、私達を救ってくださったことに、心からの感謝を」
彼につられて、他の班長たちも頭を下げている。
「……っ」
心の中にあったモヤモヤが少しだけスゥーっと消えていくような
そんな感じがして、目頭が熱くなった。
「すまない……
ありがとう」
ここにいる者たちに泣いている姿を見せるわけにはいかない。
グっと涙を堪える。
モヤモヤはまだ少し残っているけれど、
こればっかりはずっと自分が背負っていくものだ。
いつか、折り合いをつければいいものだ。
自分のうじうじしている気持ちを他人に八つ当たりしてしまったのだ。
僕は、将軍に改めて謝ったのだった。
「指揮者の僕がこんなことではいけないよね」
深呼吸をして、机に広げられた別の地図を見つめる。
内容は、王都からコルニクス領全体と国境砦までが描かれている。
コルニクス領の北にある首都コルサス。
周辺には漁村が多く、コルサスは港街だ。
細く伸びた陸地全体が街で、先端には灯台がある。
周りが海で囲まれた綺麗な街のはずだ。
コルニクス公爵から受け取った手紙を広げる。
手紙に書いてある内容と地図を参照して、目的地を確認した。
「2日後、動ける兵士を再編成して出発する」
領境の検問所には伝令で伝え済みだよね?」
僕の問いかけに、両将軍は頷く。
確認を取った僕は、地図に指を這わせて、
皆に分かりやすく説明していく。
「では、コルトから出発して西へ行き検問所を通過する。
そこから、北上して目的の村へ行くよ」
目的地は、検問所とコルサスの間にある村だ。
「殿下、検問所を通らず、このままコルトから真っ直ぐ向かったほうが
早く着くのではないですか?」
スプレッド将軍の提案に確かにと頷く顔もある。
「検問所で情報収集もかねているからね。
もしかしたら魔物が別の方角に行ったかもしれない」
「なるほど。 分かりました」
(2日後に出発して、僕達が間に合えばいいけれど……)
皆が頷いたのを確認して、会議は終了になった。
この後は、治療を終えた兵士を連れてコルトの街に戻るだけだ。
(昨日出発したエミリア達が巻き込まれてないといいけれど……)
コルニクス公爵が持ちこたえてくれるのを祈るばかりだった。
ありがとうございました。
次回、エミリア視点に戻ります。