177話『森の魔物討伐戦 3』
戦闘シーンがあります。
苦手な方はごめんなさい。
引き続きエレノアお母様視点です。
親玉らしき固体という一際大きなヴェルフェボアは、
全長3メートル程の巨体だった。
子供のボアを引き連れて佇んでいる。
子ベアの数は4匹だ。
私は、第3兵隊の班長シュゼルツ殿と共に親玉の前に出る。
第3兵隊の兵士には、回り込んで小さなベアを孤立させた後、
倒してもらうために隠れてもらっている。
北側、西側、南側、東側で別の部隊の戦闘する音が聞こえてきた。
彼らも頑張っている。
私達もがんばらなければ。
親玉の周囲にいる子ベアをそれぞれ引き離すため、
私は剣先に全力で魔法を込める。
使うのは、前方に向かって炎を噴出する魔法だ。
「猛り狂え。―プロミネンス―」
ジュボボボボという音と共に、親玉に向かって火の柱が向かう。
魔物まで魔法が到達するまで距離があるので当然、避けられてしまう。
2匹の子ベアが炎の犠牲になり、親玉も子ベアもそれぞれ散り散りに逃げる。
「残念だわ。もっと数を減らしたかったのに」
つい本音を呟いてしまった私に、隣で聞いていたシュゼルツ殿は
困惑した視線を一瞬向けていた。
「2匹も倒されたのです。 十分かと」
散り散りになった子ベアの悲鳴が別の場所で上がる。
隠れていた兵士達が、子ベアを攻撃しているのだろう。
今回彼らに持って来させた武器は槍だ。
体に触れたらアウトな魔物に対してはリーチの短い剣より
槍が有効なのだとエドワード殿下の提案だ。
子ベアの悲鳴を聞いた親玉は、興奮しているのか
体から紫色の靄を纏う。
「シュゼルツ殿、貴方は槍を使ってできるだけ魔物を翻弄してちょうだい。
無理はしなくてもいいわ。
敵の動きを見て、隙がある場所を突いてくれるだけでいいの。
あまり、近づき過ぎないようにね。
魔物が突進を開始したら、例の場所に」
「承知しました」
私は、シュゼルツ殿の了承を聞いて駆け出す。
早めに決着をつけなければいけない。
他の場所からも、魔物の悲鳴は聞こえてきている。
その声を聞くだけでもヴェルフェボアは力を増す恐れがあるからだ。
レイピアの切っ先に炎を纏わせ、鼻先を撫ぜるように払う。
注意をこちらに向けつつ、背面に回り込む。
私に気をとられた魔物の隙を狙って、シュゼルツ殿の持つ槍が
魔物の足に浅く刺さる。
足を振り払う大きな動作の魔物から、槍を引き抜いたシュゼルツ殿は
距離を取り、あらかじめ指定した場所に移動する。
魔物は、シュゼルツ殿を追いかけて突進を開始した。
ドドッ!! ドドッ!! ドドッ!! ドチャッ!!
プギュギューーーーー!??
魔物の足が、油を撒いた場所で滑って動きが乱れる。
その隙をみのがさず、シュゼルツ殿が油の詰まった袋を取り付けた槍を
魔物の太腿に向かって突き刺した。
ブギイイイイイ!!
「ぐぅぅぅうううぬぅうぅうぅぅ!!」
突き刺さった槍を握り締めるシュゼルツ殿は
暴れる魔物に振り回される形になっている。
魔物の注意がシュゼルツ殿と槍に向いた隙に、
私は魔力回復ポーションを素早く飲んで、魔法を発動する。
「――シュゼルツ殿!! 離れて!! ―プロミネンス―!!」
私の掛け声と共に、シュゼルツ殿は地面を蹴って転がりつつも魔物から離れた。
ジュボボボボ!!!
プギュオオオオ!!
剣先から炎の柱が一直線に噴出する。
私が放った炎の魔法は魔物の腹部から尻部に当たる。
刺さった槍にぶら下がった油の入った袋が弾け、
魔物の体に纏わせる炎の威力を一気に上げた。
クセの強い肉の焦げる匂いが辺りに充満する。
両足をやられた魔物は、前足だけで立ち上がりこちらを睨みつける。
(外側からの攻撃じゃ、決定打にかけるか……ならばっ!)
私は、止めを刺すために駆け出した。
魔物の鬣が奮い立ち、背中が紫色に点滅する。
「エレノア様!! 霧息が来ます! 危険です!!」
シュゼルツ殿の忠告を無視し、私は魔物に突っ込む。
足に魔力を貯め、魔物が霧息を吐き出した瞬間に上空に飛ぶ。
ベリアル陛下の戦い方をマネした戦法だ。
魔物の背中に向かってレイピアを突き立てる。
レイピアに込めていた炎の魔力を開放し、そのまま跳躍して魔物から離れた。
突き刺さったレイピアから魔物を中心に炎の柱が上がった。
プギャウウウウウウウウウゥゥウ――!!
体の内側から焼き尽くす炎に、魔物は断末魔を上げる。
体を震わせ炎を蹴散らそうとする魔物の動きは、だんだん衰えていく。
やがて全身を炎に飲まれて灰となって消え去った。
「……た、倒した……」
茂みから様子を窺っていたシュゼルツ殿の声が聞こえた。
「倒したぞ……!!」 「倒したんだ……やった!!」
「エレノア様が、親玉を倒したぞー!!!」
いつのまにか、子ベアを倒し終えた兵士達がこちらに来ていたようだ。
兵士の1人が叫び、それを聞いた兵士が次々と同じ言葉を繰り返す。
耳を済ませると、他の場所での戦闘の音が止んでいた。
どうやら、私達の戦闘が最後だったようだ。
「エレノア様、お疲れ様でした。
よろしければ、手を上げて勝鬨を」
シュゼルツ殿の言葉にしぶしぶ頷き、私は腕を上げる。
正直恥ずかしいけれど、これをやらないと絞まらない。
「魔物の親玉は、このエレノアが討ち取った!!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」
瞬く間に森周辺に兵士達の声が響き渡った。
こうして、森の魔物討伐戦は終了したのだった。
ストックに追いつきました。/(^o^)\