166話『緊急の知らせ 2』
今回のエドワード視点はこれで終わりです。
「至急、討伐隊を編成しよう」
父王の言葉に我にかえる。
父は近衛に命令し、兵士を別室で休ませるように指示を出していた。
僕は、父に声をかける。
ジリジリと嫌な予感が胸を襲う。
「父上、討伐隊には僕も参加したいです」
目を丸くした父は、難しい顔で考えている。
「陛下、進言をお許し下さい」
カインの父であるドリス・オベール宰相が進言の許可を求める。
「許す」
父の許可がおり、ドリス宰相は浅く礼をして言葉を発する。
「コルトの街には現在、ヴォルステイン領、そして王都の治癒学校の生徒達と、
王立オリジム学園の治癒科の生徒達がテスト研修として、滞在しています」
宰相の言葉にクレスが反応し、僕は父と母に視線を向け続ける。
「それは本当なの!?」
クレスの問いかけに宰相は頷く。
「事実です。
予定では、コルトの街には2日前に到着したはずかと」
焦った表情のクレスは父に顔を向ける。
「父上。
兄上が討伐隊に参加するのなら、僕も参加したいです」
「ヴェルフェボアの霧息の危険度はランクAなのだぞ?
そんな危険な魔物の討伐にエドワードならともかく、
戦う力のないお前を行かせるわけにはいかない」
危険度とは主に4段階に分けられた、魔物の攻撃に対する危険度のことだ。
Cランクは眠りやマヒ、幻惑などの外傷のない攻撃。
Bランクは軽めの毒や酸、爪や尻尾での攻撃。
Aランクが放っておくと死に到る毒や炎や冷気などの属性攻撃。
Sランクは、地形変動、即死や呪いなどの攻撃の事だ。
Sランクの危険な攻撃手段をもつ魔物が出たら、世界の危機以上の問題になる。
それこそ、ドラゴン級はみなSランクだろう。
そんな魔物の一歩前のランクの魔物だ。
何の訓練もしていないクレスでは霧息を避ける事すら
出来ないだろうね。
「僕も兄上のサポートくらいは出来ます!」
「しかし――」
父の言葉を遮るように、ドタドタという足音が聞こえた。
両開きの扉を開け放ち、バイゼイン団長が疲れた表情で足早に入ってきた。
扉から伸びる赤い絨毯の中間あたりで立ち止まり、
綺麗な騎士の所作で敬礼した。
「突然の入場をお許し下さい陛下、至急お伝えしたい事が!」
焦った表情のバイゼイン団長に、父は頷く。
「申してみよ」
「は! ありがたく存じます。
数日前ハイライト王国から魔物の群れがドルステン王国に入り込みました。
砦の兵士達は魔物と交戦し必死に食い止めようとしましたが、
砦の兵士のほとんどが魔物にやられてしまい、壊滅状態です。
現在治療を得意とする救護班を待っている状態です。
数が多すぎて、コルニクス領の医師だけでは手が足りません。
至急、救護班を送って欲しいとのことです。
そして、王国に入り込んだ魔物の群れは早い動きで東に向かい、
現在、王都近郊の街コルトまで迫っております。
一刻の猶予もありません。至急討伐隊の編成を!」
コルトの街からきた兵士と同じ情報をバイゼイン団長はもたらしていた。
バイゼイン団長はたしか、国境砦にコンラートを送り届けていたはずだ。
国境砦には、数日前にマリエラが向かった。
嫌な予感が的中して、母に視線を向けた。
頷いた母は、父に耳打ちをし、しぶしぶ頷いていた。
「編成隊を2つ用意しよう。
一つは、救護隊だ。
コルトで腕のたつ治療魔法の使い手を見繕って砦に向かわせよう。
もう一つは討伐隊だ。
魔物との戦闘経験のある兵士を至急集めよ。
討伐隊の指揮者にはエドワードを。
兵の軍配を任せたぞ?」
「謹んでお受けいたします」
僕は父に感謝を込めて頭を下げた。
「父上! 兄上が行くのなら僕も向かいます。
兄上のサポートや相談役として向かわせてください」
クレスの進言に父は渋っている。
戦場になるかもしれない場所に、跡取り息子を2人も行かせるわけには
いかないだろうからね。
難しい表情の父に、今度は近衛騎士団副団長である
マリー・バイゼイン夫人、が進言の許可を求めた。
「陛下、進言の許可をお許し下さい」
「許す」
「クレス殿下の護衛として私をお供させてください」
この発言に、謁見室のほとんどの者が驚いていた。
次回はエミリア視点に戻ります。