165話『緊急の知らせ 1』
エドワード視点です。
星教会から数日。
マリエラ嬢に書き写してもらった文献の楽譜のページを3枚並べる。
なぜ、写生した楽譜が揃っているのかというと、
星教会の文献で重要な楽譜部分だけを覚えて帰るという
荒業を使ったに過ぎないからだ。
大司教との会談時、
中身の確認と称して、開いたページは楽譜のページを開いた。
そして、マリエラに暗記してもらったのはいいんだけど……
もし、前世の楽譜を読める者がいなかったら、
あのままマリエラ貸し出しに到っていそうだった。
もしそうなったら、きっと教会大量虐殺事件とか起きそうだよね。
残りの文献はあと2冊。
1冊はエルフの森のエルフ達が住む集落にある。
けれど、マリエラが言うにはエルフの森には
人間は勝手に入れないという事だった。
そもそもゲーム内でのナナリーとコンラートはエルフ族との取り決めた
森への不可侵条約を破って強行突破して文献を手に入れている。
ここはゲームの世界ではないのだから、そんなことは出来るはずも無かった。
なので、こちらの文献はエルフの森に入る方法から探さないとだよね。
そして最後の一冊は、なんとコルニクス領の国境砦に
有るかもしれないという情報が入ってきた。
なので、優先すべきはコルニクス領の文献になったよ。
ちなみに、この情報を持って来てくれたのは、
母上の暗部『ラビット』からだった。
手紙には母上の印も押されていたので、間違いないだろう。
コルニクス領ということは、マリエラが養子縁組で引き取られた家の領だ。
マリエラ自身が砦まで取りに行くということに決まってしまった。
決定も行動も早いマリエラはさっさと準備をして昨日、王都を出発したよ。
マリエラにはエルフの知り合いを作って置くようにと言われてしまったからね。
なんとも、彼女は本当に頼もしいよね。
僕も見習わないと。
できるだけ、茶会と夜会に参加してエルフの森に入る情報を集める。
だけど、なかなか情報は集まらなかった。
そもそも、学園に在籍するエルフのほとんどは、森への入り方を知らなかった。
森の集落への道を知るのは、動物と会話ができる生粋のエルフだけだという。
在籍するエルフのほとんどは街育ちが多く、人間とのハーフが多い。
運良く、森から出てきたばかりのエルフに出くわす確率は低すぎるのだった。
あとは、エルフモス族との商会繋がりのあるケヴィンにも頼んでみたんだけど
エルフモスとの取引も間に問屋がいるらしく、
その問屋に頼んでもらったけれど、良い返事はもらえ無かった。
そして、あっという間に数日が過ぎていった。
つい先日エミリアもテスト研修と言う事で王都を発っていった。
そんな夜会や茶会に参加する日々を過ごす中、
国王である父上に呼び出しを受けた。
王宮の謁見室で父と母の隣の椅子に座る。
珍しいことに、僕の隣の席には普段、部屋から出てこないクレスの姿があった。
疲れた表情の兵士が1人、謁見室に入室してきた。
足取りは速く、礼儀なんてかなぐり捨てて、
懇願するように頭を床にこすりつけている。
平伏というより、土下座だった。
近衛達が慌てた様子で近づいて、兵士を立たせようとするが、
兵士は動かない。土下座したまま、声を張り上げた。
「なにとぞ! われわれコルトの民を救って下さい!
なにとぞ! どうか!!」
父上は手をあげ、近衛を下がらせた。
「聞こう」
父の一言を聞き、深呼吸した兵士は顔を上げた。
「魔物が……
それも魔物の群れが、我々の街コルトを襲っています!
魔物の種類はヴェルフェボア。
霧息の危険度はAランク相当です。
ボアの討伐を手伝っていただいた、ヴォルステイン領の聖女エレノア様が
ボアの不意打ちを受け、重症の怪我を負いました。
現在、街に入り込んだ魔物は、兵士のみで足止めをしている状態です!
このままでは、街だけじゃ―――――――」
コルトの街からやってきた兵士が継げた内容に僕達は絶句した。
母に到っては目眩で父に支えられている。
コルトの街には、現在エミリアが滞在しているはずだ。
僕は続く兵士の言葉が、まったく脳に入ってこなかった。
アスト陛下の言葉使いがおかしいって?
それは、臣下の前と家族の前とじゃ使い分けをしているからです。