144話『失ったもの 1』
エミリア視点です。
短いです。
ナナリーに詳しい事情を聞いた私は、自分達のことを説明した。
ナナリーは、お母様達には先に自分のことを説明済みだった。
お母様たちは、ナナリーを驚かせようと
私が転生者だということは黙っていたようだ。
ドッキリ大成功ですな!
ちょっと複雑な表情だったけれど、ナナリーは納得していた。
「そうだったのね。
ちょっとだけおかしいと思っていたのよ。
皆ゲームと違う行動取るし、妙に私に優しいし……」
しゃべり方が元に戻ったナナリーは、少しだけ余裕を取り戻していた。
だけど直ぐに思い詰めた表情になり、私を見つめた。
「まだ、エミリアには話していないことがあるの……」
ナナリーは、今回のイベントで自分がとってしまった行動を
包み隠さず話しだした。
シンシアがここに居ない理由も含めて。
話を聞いて私は焦った表情になった。
お母様とジョシュアに視線を向けると、悲しい表情だった。
「傷と病は完治しているわ。
でもシンシアは、まだ目が覚めないのよ」
お母様が詳しく説明してくれた。
頭を強く打っているらしく、
このまま目覚めない可能性もあるのだということだった。
ジョシュアもお母様の話に、今にも泣き出しそうな表情だった。
「だからね、エミリア。
貴女とアリエの目覚めを私達は待っていたのよ」
私は、自分の左肩で寛ぐ星霊アリエ様を見つめる。
両の翼を広げて、Vの形になったアリエ様はドヤ顔で言った。
「『往診しに行くのである!』」
私は頷いて、皆と一緒にシンシアの部屋へ向かった。
※星霊の声は憑かれている本人にしか聞こえません。
シンシアは、お母様が使っていた部屋で眠っていた。
頬の色は健康的なピンクで寝息も聞こえる。
脈も正常だし、問題なさそうだけれど……。
「『糸が……』」
小さな声で呟いたアリエ様の言葉がちょっとだけ気になったけれど、
今は考えている場合ではないからね。
集中して、万能治癒を発動させる。
「アリエ様どうかお力を、お貸しください」
両手を胸の前で組んで祈る。
アリエ様は私の頭の上に移動した。
手の甲に羽の模様が浮かび上がり、うっすらと虹色に輝く。
そっとシンシアの胸のあたりに両手を重ねる。
虹色に輝く波紋が、シンシアに染み込む様に広がった。
しばらくして、シンシアが声をあげる。
「ううっ……」
手を静かに離して、シンシアの様子を窺う。
目をゆっくりと開らくシンシアにホッと息をついた。
ボーっとするシンシアに声をかける。
「良かったわ。
目が覚めたのねシンシア」
私は、うれしさのあまり、涙を流してシンシアに抱きついた。
しかし、しばらくしてもシンシアは一言も言葉を発しなかった。
どうしたのかとシンシアから離れて様子を窺うと、脅えた表情で私を見ていた。
ありがとうございました。