139話『愚者 3』
ナナリー視点です。
どうして? なにが起こっているの……? なんで……?
私は、兵士に言われるままシンシアを抱きかかえ中央広場に向かって走る。
後ろから聞こえる兵士の声と、次々にばたばたと倒れる音が聞こえる。
涙を流し、必死に足を動かした。
しかし、しばらくするとシンシアから流れ出る血液のせいで手が滑り、
抱きかかえるのも困難になり、その場で動けなくなった。
真っ赤に染まるシンシアを抱きしめて、必死に治癒魔法を施した。
しかしシンシアの傷は弾けて、次々に新しい傷が出来てくる。
私は転倒イベントの時に、治癒科の授業をサボってしまっていた。
その時に習うはずだった火傷の炎症を抑える魔法を習い損ねている。
やり方が解らないから、癒す事だけしかできない。
いくら傷を癒す能力が高くても、これじゃあ意味がなかった。
私は涙を流しながら、祈る気持ちでシンシアに治癒魔法をかけ続けた。
しばらくしてベリアル王子と、見覚えのあるオレンジ色の髪の女性が
こちらに向かって駆けて来ている。
「た、たすけて……」
私は、真っ赤に染まる自分の手を、女性に伸ばした。
「ベリアル王子。 魔物は任せます」
「承知した」
ベリアル王子は、私の横を凄い勢いで通り過ぎ、
女性は、私の前で座りシンシアの様子を確認する。
「私が合図をしたら思いっきり、治癒魔法を使いなさい」
「はい……」
女性の言葉に頷く。
女性は、シンシアの服をレイピアで破り、
ボコボコと発疹が浮き出し、破裂を繰り返す肌を露出させる。
シンシアは、顔半分と鎖骨からヘソの辺りまで赤黒く肌が染まっていた。
無数の発疹が次々に破裂し新しい鮮血が流れ出る。
涙があふれて、視界が滲んだ。
「わ、わたしがここにきたから……
シン、シアは……わたしを……かばったの……。
わたしの……せいなの……」
私は、私自身の罪を吐き出さずにはいられなかった。
オレンジ色の女性はどことなく彼女に似ていたからだと思う。
―脳裏を掠めた彼女は、私に優しくしてくれたエミリアの姿だった―
女性は静かに私の話を聞きながら、シンシアの腹部に両手をかざした。
「わ、わたぃは……ヒクッ……
ヒロイン……なん……かじゃ……なかった……!」
心のどこかで理解していた――
この世界はゲームじゃない――。
私は、ヒロインなんかじゃないって――。
「そうね。 貴女はヒロインなんかじゃない。
でもね、それは私に言うべきことではないでしょう?
もっと他に、話すべき人達がいるのでしょう?」
「……でも、シンシアがぁ……」
テスト中、炎症を抑えることが出来ない私を
文句も言わずに助けてくれていたのはシンシアだった。
やさしくしてくれた。
魔物からも、庇ってくれた。
それなのに、私はシンシアを邪険にしてしまった。
「シンシアにも、伝えるべき言葉もあるのでしょう?」
女性の言葉に私は頷く。
女性の両手から出た暖かい緑色の炎がシンシアをやさしく包む。
「それを伝えるために、今は彼女を助けてあげましょう」
「うぅう……はぃぃいぃ」
私はボロボロと涙を流して頷いた。
「治癒魔法を使って!」
女性の合図に、私は泣きながら白の治癒魔法を全力で使った。
ナナリー視点、一旦終了です。




