138話『愚者 2』
ナナリー視点です。
今日の投稿はこれで終了です。
「ナナリーさん! いけません!!」
後ろから私を追ってくるのはシンシアだった。
私は、振り返りシンシアに言葉を投げかける。
「ついて来ないで!
私が行かなきゃいけないの!!」
そう、私にしか魔物を倒せる手段を持つものはいない。
なにせ、私はヒロイン。この世界に選ばれし者。
このイベントで雪の星霊に認められた力がなきゃ、今回の魔物は倒せない。
シンシアを振り切る勢いで、スピードを速めて走る。
大通りを馬で走る兵士に見つからないように走り続けて、
15分くらいだろうか。
ようやく西門が見えてきた。
閉じられた西門の前には、兵士達が数名倒れていて、
2メートルくらいの黒く禍々しい姿のイノシシが佇んでいた。
魔物の周りには、取り囲む兵士達の姿もあった。
魔物の姿を見て私は驚いた。
なにあれ!? あんな魔物ゲームではいなかったじゃない!
ゲームでは確か、白いサルとゴリラを足した様なやつだった。
私は、魔物を取り囲む兵士達の最後列までたどり着いた。
魔物に飛び掛る兵士達は、魔物のトッシンを受けて吹っ飛ばされている。
その兵士の一人に近づき、治癒魔法を発動した。
「あ、ありがとう……
なっ!? き、君は学生か!?
こんなところに居てはいけない!!」
兵士は治癒魔法で回復してあげたのに、私に向かって怒っていた。
「大丈夫です。
私は傷を癒すだけですから!」
「そういう問題じゃない!!
早く、安全な場所に行きなさい!!」
兵士とのやり取りをしている間に、シンシアが追いついてきた。
「すみません! 連れて行きます」
シンシアは私の腕を掴んで、来た道を戻ろうとする。
「離しなさいよ!」
「ナナリーさん、いい加減にして下さい!
貴女は、どれだけの人に迷惑をかければ気が済むのですか!?」
シンシアが怒っている内容が私にはサッパリわからない。
私とシンシアの怒鳴りあう声を聞いた兵士達が、私達に気づき始めている。
私は、傷を癒すだけ。
そして、雪の星霊の力を借りて、兵士達に魔物を倒す力を
宿さなければいけないのに!!
このままじゃ、シンシアのせいで私まで邪魔者にされてしまうわ。
私は、シンシアを振り切って、他の倒れている兵士に駆け寄り、
治癒魔法を使う。
白い光を発して、次々に癒していく。
シンシアも、しぶしぶ私の癒す兵士の炎症を抑えていった。
私の治癒魔法は強力なんだから、一人でも十分なんだから!
傷が癒えた兵士達は、複雑そうな顔でお礼を言って、
魔物に挑みに戻って行った。
だけど、白く輝く治癒魔法を使う私は魔物からしたら目立ち過ぎたんだと思う。
魔物のトッシンが私の場所に迫ってくるなんて、思ってもみなかった。
ドドッ!! ドドッ!! ドドッ!!―――
蹄の音が聞こえるほうを見つめる――
庇いに来た兵士達が次々に蹴散らされ、吹っ飛ばされていく――
迫り来る魔物の脅威に、短い悲鳴を上げて私はその場ですくみ上がった。
「ヒッ!」
魔物が迫る瞬間、
視界いっぱいに青い何かが見え、私は思いっきり突き飛ばされた。
体を強く打ち付けて、地面に転がった。
痛みに耐えて目を開け首だけで周りの様子を窺う。
私の目の前には、兵士達の後ろ姿が埋め尽くされていた。
「逃げなさい!!
その子はまだ助かる!!」
「その子を連れて……早く逃げなさい!!!」
首だけこちらを向けてボロボロの姿の兵士達に怒鳴られる。
その子と差されたほうを向いて、私は戦慄する。
そこには、血に染まった真っ赤な祭服に身を包んだ、
シンシアの無残な姿があった――。
「い、いやああああああああああ!!!」
私はシンシアに駆け寄り、その場で声を張り上げていた。
次回もナナリー視点。