132話『診察。』
ちょっとだけショッキングな表現があります。
傷口の状態などね。
苦手な方は、ごめんなさい。
具合が悪くなったら、すぐに休憩を取ってくださいね。
最後の往診は残り4軒の民家だ。
班を担当する先生に指示をもらう。
「この班の中で一番優秀な成績のミス・エミリアと、
サポーターのミスター・ベリアル。
君達はあそこの3人家族の家へ往診へ向かってくれ。
君達の治療がどこまで出来るのか知りたい。
治せそうだと思ったなら、遠慮なくやってみなさい。
ミス・キャシーとサポーターのミスター・センラ。
君達はあそこのご老人の家へ。
彼は少し偏屈だ。
会話相手にも君達なら丁度いいだろう。
ミスター・ライナー、ミスター・マリクはあそこの大工の兄弟の家だ。
症状はそれほど深刻ではないが、気を引き締めて、
連携して治療に当たってくれよ。
一番重症の夫婦がいる家へは私が向かう。
夫婦の治療が終わったら、順番に君達の担当する民家へ向かうから、
もし、重症の患者がいた場合は適切な処置をして、私が来るまで待機だ。
ちゃんと、診断書も詳細を書くように。分かったら、行動を開始しなさい」
「「「分かりました」」」
皆いっせいに行動を開始した。
私が担当するお宅は、家族全員が病にかかっている3人の家族だった。
軽い症状の奥さんと旦那さんは発疹はまだ出ていない。
赤く火傷の様な症状だけだったので、万能治癒でサクッと治癒した。
一番重症だったのが、5歳の息子さんだった。
発症した場所は両足の太腿だ。
布を当てた上から包帯が巻かれている。
炎症を起した部分が傷になり、ばい菌が入って膿んでいた。
痛いと泣き叫び暴れる男の子をご両親に押さえてもらって、
包帯と布を取り除いていく。
汚れた布と包帯をベリアル様の持つ袋に次々入れていく。
「お父さあぁあぁん、お母さぁあぁん、痛いよおぉぉ」
傷口が化膿し、膿が包帯と布に張り付き黄ばんでいた。
痛いだろうけれど、これを剥がさなければいけない。
「破裂した傷口に直接、布を当てて、包帯を巻いたんですか?」
「そ、そうです」
綺麗なぬるいお湯をベリアル様に用意してもらい、
清潔な布も受け取る。
ベリアル様にお湯をゆっくりかけてもらって、布で傷口の膿を拭い取る。
テキパキと作業をしながら、男の子の両親に尋ねる。
「流行り病についてどの程度、知識はありますか?」
「『発疹が破裂する』と同じ症状になった人に聞きました。
まさか、自分の息子が聞いた内容と同じ症状になるとは思ってなくて、
破裂する前に、清潔な布を当て包帯を巻いて発疹を塞ぎました。
その後は、症状が悪化した人たちと同じで、発疹が破裂して……。
傷口を塞ぐために、定期的に包帯と布を交換していました」
「なるほど。
症状の段階の違いで間違った処置をしたんですね」
「「え!?」」
私は、驚く男の子の両親に、詳しく症状について説明した。
この『発疹が破裂する』というのは、発疹がばい菌で腫れ上がり、
疫病の病原菌が熱をもって弾けるものだ。
発疹の出た場所を清潔に保てば、破裂するまでいかない。
この男の子の場合は、両親が『発疹が出たから破裂する』と思い込み、、
包帯で発疹を巻いたことによって、包帯の中でばい菌が繁殖し、
破裂するまで悪化したのが原因だった。
「そ、そんな……」
私の説明で、男の子の母親は涙を浮かべて愕然としている。
父親のほうは、顔が真っ青だ。
「大丈夫です。この子は助けます」
私は、男の子の傷口と発疹周りを綺麗にして、発疹が破裂しないように
火傷の炎症を抑える治癒魔法を使う。
この魔法で、発疹の熱を抑えられるのだ。
集中して魔法を使い続ける。額の汗をベリアル様に拭ってもらう。
しばらくして、腫れが治まり発疹も目立たなくなってきた。
破裂した箇所の傷口は綺麗にして、治癒の魔法で傷口を塞いだ。
発疹と傷口があった場所に、濡らした布を乗せ、
火傷の炎症を抑える治癒魔法を、さらにかけ続ける。
母親にしがみついていた男の子は、
傷が塞がり、痛みが消えたことで強張っていた体の緊張が少し和らいだようだ。
「まだ、どこか痛い場所はある?」
私は、治癒魔法をかけ続けながら、男の子に尋ねる。
男の子は、治癒魔法がかかる自分の太腿を見て目を丸くした。
「ううん。 もう痛くないよ!」
男の子の元気な声を聞いたご両親もホッと安心している。
私は、男の子の発疹に徐々に万能治癒魔法をかけて完全に完治させる。
ジワジワと発疹が治まりつつある男の子の足を
家族3人は神秘的なものを見る目で見つめ続けていた。
「お姉ちゃん先生、凄いね! 聖女様みたいだ!」
聖女みたいだって。 ちょっと恥ずかしいね。
「ふふふ。 ありがとう」
「僕、大きくなったら、ちゆ学校に行くよ!
お姉ちゃんみたいなキラキラの魔法は使えないけど、
お兄ちゃんみたいに、お姉ちゃん先生を助けられる人になるんだ」
男の子はもう元気いっぱいになっている。
ベリアル様は、私の隣で包帯や布、お湯などを用意してくれていた。
たまに、私の汗も拭きとってくれる優秀なサポーターだったもんね。
「「ありがとうございました」」
「ありがとう! お姉ちゃん、お兄ちゃん」
ご両親からもお礼を言われ、ちょっと照れくさいね。
私とベリアル様は、お互いに顔を見合って笑顔になった。
治療が終わり、それぞれの診断書を書き記す。
診断書の写しを家族3人にも渡した。
治療が終わった私達は、先生が来るまで
家族と会話をして待機するのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
気分を害してしまった方は、ゆっくり休憩を取ってくださいね。