131話『研修テスト開始』
今日は全体的に長めなので、ゆっくり休憩しながら
読んで下さいませ。
この後、私達はマリク君のぶちまけられた朝食を片付ける手伝いをした。
マリク君に席を確保してもらい、朝食を取りにカウンターへ行く。
朝食はフランスパン2つにキノコと鳥肉のシチューと
キャベツのザワークラウトにシンプルなジャガイモのオムレツだった。
カウンターの係りの人に頼んで、マリク君の朝食を出してもらえないか頼む。
スープ類だけ多めに作ってあるようで、またかと言う顔をしながらも
係りの人はスープを用意してくれた。
昨日の夕食の時と同じでマリク君に朝食を分けてあげる。
フランスパン2つは多すぎるので、私とキャシーさんは1つ分けてあげた。
ベリアル様もオムレツを半分、分けてあげている。
センラ君はザワークラウトだ。君は、野菜系が嫌いなだけだよね?
マリク君は皆にそれぞれお礼を言っている。
そして今回は怪我はしていないようだ。
「エミリア様、あと、そちらの方も先ほどは、ありがとうございました」
マリク君のお礼を素直に受け取る。
「気にしないで」
「そうよ! 別に気にしなくてもいいわ。
私は当然のことをしたんだから。
それより貴方、もっと、どうどうとしなさいよ。
あんなクズ野郎の言いなりに、なんでなってるのよ」
ナナリーはツンとしながらも、マリク君を心配しているようだ。
ちなみに、席順は右端からベリアル様、私、マリク君。
向かいの右端からキャシーさんとセンラ君、ナナリーだ。
ナナリーとちゃっかり一緒に食事をしている。奇跡だね。
「ナナリー様、クズ野郎と口に出してはいけません。
実際にそう心で思っても。口に出してはダメです。
心で思うのだけは大丈夫ですよ」
私の注意に、ナナリーは口を尖らせている。
「このままでいいんです。
逆らえば、もっと酷い事をされてしまいます」
ナナリーのさっきの問いにマリク君が答えている。
「だからって……」
ナナリーはそれ以上何も言わなかった。
まるで、心当たりがあるような感じで俯いて悲しい顔をした。
なんにしても、このままではいけないだろう。
(一刻も早く、お母様にこのことを伝えないとね)
微妙な空気のまま、皆でゆっくりご飯を食べていると、
ジョシュアとシンシアが食堂にやってきた。
私とベリアル様の近くにナナリーが居る事に驚いている。
私は、2人に「大丈夫だよ」と口パクで伝える。
2人はホッとした顔で、朝食を取ってこちらに向かってくる。
「おはようございます。姉様」 「おはようございます」
「おはようジョシュア、シンシア。 皆に紹介するわね」
私は、ジョシュアとシンシアを、皆に紹介した。
紹介する時にジョシュアとシンシアはもう結婚している事も含めての紹介だ。
これにはナナリーだけじゃなく、キャシーさんもかなり驚いていた。
「お二人はまだお若いのに、すごいですね!
さすがヴォルステイン家の方です!」
キャシーさんはキラキラした尊敬の眼差しでジョシュアとシンシアを見ている。
本当の理由はナナリー避けのためだとはさすがにいえないジョシュアは
乾いた笑いで誤魔化していた。
先に食べ終わった私達の中で、ナナリーとマリク君、
キャシーさんとセンラ君は、
今日の準備をするということで、先に部屋に戻っていった。
食堂では、ジョシュアとシンシアが食べ終わるまで私とベリアル様は
待つということにして残っている。
「姉様、お母様から伝言が」
「お母様から?」
「はい。この街の近くの森で、ちょっと変わった魔物が出現したそうです。
お母様は、討伐隊に参加するという事でした」
え!?
私とベリアル様は驚く。
「なんでも、昨日の夕方に知らせが入ったようで。
しかもやっかいな事に、その魔物は変な霧を吐いて回っているそうで、
その霧を浴びた者達が次々に、
今回の症状の病気になっていっています」
そんな危険な魔物が、この街の近くにいるっていうの!?
「この事を知っているのは現在僕達と、宿舎に残る教師のみです。
お母様は、もしもの事があったらベリアル王子にも手助けを頼むかも
しれないと言っておられました」
ベリアル様は真剣な表情で頷いた。
そして、思い至ったことがある。
魔物が出現した……つまり、ゲームと同じ、イベント?
「それって、ゲームのイベントなの?」
私の言葉に、3人は深刻な表情だ。
「もしそうであるのなら、かなり難易度が上がっていることになりますね」
とシンシアがつぶやく。
「なんにしても、僕とシンシアはナナリーと同じ班分けになっています。
部屋は違いますけどね。
テスト中、ナナリーが変な気を起こさないように
見張るのは骨が折れそうです」
私とベリアル様は、ジョシュアとシンシアからの報告を聞いたあと、
部屋へ準備をしに戻った。
私の持っていく物は、ウエストバックにそれぞれのポーション類をつめ、
ベリアル様はサポーターなので、少し大きめの斜めがけの鞄に
治療道具を一通りつめて持ってもらった。
朝10時になり、私達は宿舎前の中央広場に集まっていた。
広場には、25台の帆馬車も用意されている。
先生に番号のふられた札を渡される。
私達の札には18と書かれていた。18班ということだろう。
札の裏側に留め金があり、服に取り付けるタイプのようだ。
右胸に付けるように言われたのでつける。
これから班ごとに行う実地研修は、
街の北側にある庶民街と商店通りを先生と一緒に往診に回る。
先生はもちろん、医師の免許もちの教員とこの街の診療所の医師たちだ。
1班に1人付き添ってくれる。
今回の班分けは全部で25班なので、教員兼先生たちがそれぞれ
1人は付き添える数だ。
近隣の森に出た魔物退治へは、
教員10人とこの街の兵士達が向かっている。
流行り病に侵された街の住人は、病気を広めないようにと
自宅待機が言い渡されていた。
なので、診療所の医師達は往診をして回らなければいけない。
しかし街の診療所だけでは人手が足りないのが現状だ。
学生でも人手には違いないという事で、テスト兼研修をかねているのだ。
私達の班の新しいメンバーはまさかのライナー・ホスケンスと
マリク・セドリーガンの2人だった。
ライナーは、取り巻きだと思っていた護衛を引き連れて、
マリク君とこちらに向かいながら、悪態をついている。
「ちっ……。
マック、僕の邪魔だけはするなよ?」
「……ええ。 分かっています」
ライナーは、私がいる事に気づいたのか、ニッコリ笑って寄ってきた。
「エミリア様。
おはようございます。 今日もお美しいですね」
は?
ライナーの昨日との変わり様に、私とベリアル様、
キャシーさんとセンラ君、そしてマリク君も驚いている。
「ごきげんよう。 ライナー様……」
若干笑顔が引きつってしまった。
ライナーは、私の隣にいるベリアル様に視線を向ける。
「おい、そこの護衛。
護衛は一歩引いた場所から付いてくるのが常識だぞ。
エミリア様の後ろに回れ」
そう言って、ライナーは私とベリアル様の間に割り込んできた。
ベリアル様は無言で私の後ろに回った。
「ささ、一緒に往診に参りましょう」
手を差し出してくるライナーは、エスコートする気まんまんだ。
ニッコリ? いや、よく見ると、ネットリした笑顔のライナーに、
私は嫌悪感がした。
表情に出さないように、困った笑顔でやんわり断った。
「……ライナー様、現在テスト中です。
エスコートして頂く訳にはいきません」
「そうでしたね」
ネットリとした笑顔を深めるライナーに背筋がゾワッとした。
このあと、先生の号令でそれぞれの班分けされた場所に馬車で向かった。
往診した人は、診断書を細かく書き分け、症状が酷い場合は
医師である先生に治療を施してもらう。
軽い症状の人は、学生の火傷の炎症を抑える治癒魔法と
怪我を治す治癒魔法で完治できるようだ。
優秀な治癒魔法の使い手は、一人で往診を任される事になった。
私がこの班の中で一番治癒魔法が得意で優秀らしい。
ベリアル様にサポーターをしてもらって、手際よく診察していくのだった。
ライナーとの絡みの話とか考えようかな・・・。