125話『治癒科のテストとイベント』
よろしくおねがいします。
次の日の早朝、ベリアル様が迎えに来てくれるまで、
私は2人の侍女にテスト期間の予定を話し合っていた。
治癒科のテストは実地研修型の実技テストだ。
侍女は連れていけない決まりなので、
それぞれ侍女の2人には何をして過ごさせるのか相談するのだ。
カーラは王都に実家があるので、あいさつをしたら、
私の寮部屋の管理をするそうだ。掃除などね。
ちなみに、カーラはホスケンス伯爵家の次女だ。
上に兄と姉がいて、下に弟がいる。
元々は王妃様付きの侍女だったカーラは、礼儀作法は完璧。
お妃教育を習いに来た私の侍女にと王妃様からの言葉があり、
私の侍女になった。
メーデの実家はヴォルステイン領にある孤児院だ。
今まで働いて貯めていたお金を持っていくという。
メーデとの出会いは、母の孤児院への往診について行った時だ。
孤児院の子供達と遊んでいたメーデが転んで怪我をしたのを、
私が治したのがきっかけだ。
往診に着いてきていた、侍女長に直談判した結果、
侍女見習いとしてうちで雇うことになったのだった。
方針を決めたあとは、メーデから合鍵を受け取る。
ベリアル様が迎えに来てくれたので、学園の校舎へと移動する。
馬車の中でベリアル様とテストについて話すのだ。
「今年の治癒科のテストは少し変わっているそうです。
なんでも、流行病がハイライト王国から伝染しているようで、
王都の西寄りの村や街が被害にあっているようです」
「テストを行う場所は王都近郊の街だったか?」
「そうです。
今日は、ほぼ移動になるのでしょうね。
3日かけて現場で治癒魔法の実地経験を積ませるのが目的だと思います」
この情報はお母様から聞いた内容で、
学園の治癒科の生徒達は実地研修テスト、として組み込まれるようだった。
病気の内容は、前日の授業の時に説明された特殊継続型の炎症だ。
普通の回復魔法をかけても、浮き出る発疹が破裂して
弾けたような傷が出来てしまう、厄介な症例だった。
私達、治癒科の生徒がすることは新しい布で傷口を綺麗にして
火傷の炎症を抑える治癒魔法か、
じわじわ回復させる魔法をかけ続けることだった。
その間に、治癒院の医師が炎症を治す治癒魔法をかけるというもの。
傷の具合を見て、魔法の強さにも気を使わなければいけないのだった。
そして、話を聞いて思い出したのだけれどこのテスト、実はゲームの中の
イベントとして出てくるのだ。
ゲームの中では学園に治癒科なんてないのだけど、ヒロインのナナリーは
学園でもたびたびコンラートの訓練の怪我を癒すシーンがあったので
治癒の力を持つものを1人でも多く必要とした政府の医療班が、
ナナリーに頼んで、エドワード殿下とコンラートを護衛にして、
村に向かわせるのだ。
村には魔物が暴れまわっており、それを退治するのもイベントの内容だ。
ナナリーの白魔法の祈りに答えた雪の星霊が魔物を弱らせて、
エドワード殿下とコンラートの剣に星霊の力が宿り、
激闘の末、倒せるのだ。
その後は、雪の星霊の力で白魔法の効果も全体回復魔法と化し、
村全体を治癒して、聖女と崇められるナナリーなのであった。
しかし、ゲームのときは大規模な魔物が暴れまわったせいで、
村人はただの怪我のみだった。
現実は流行り病だ。
病気の内容の違いはあれど、ちゃんとイベントは発生しているようだった。
「エドワード殿下とコンラートが居ない状態のナナリー様が
どういった行動を取るのかが心配ですね」
私の深刻な表情にベリアル様も頷いた。
「最近のナナリー嬢の奇行は、エドワードのおかげで礼節を弁えた
行動を取っているからな。
エドワードが居ないことで、その奇行を止めに入るものがいないわけか」
そうなのだ。
最近のナナリーは、エドワード兄のおかげでちゃんと淑女の振る舞いを
心がけている。
お茶会で、私に言われた言葉が気になったナナリーはエドワード兄に相談した。
エドワード兄は、遠慮なくナナリーが無作法を取ると近くにいる者や
もちろん、ナナリー自身の貴族からの評判は悪くなるとズバっと言ったんだと。
ショックを受けたナナリーは、エドワード兄に礼儀作法を細かく
習い直している。
最近は、私にもちゃんと淑女のあいさつをしてくれるようになったしね。
ナナリーの振る舞いが、礼節を弁えてきたことから、
最近のナナリーの教養の成績も上がってきている。
それだけじゃなく、サロンにも呼ばれるようになったようだった。
「今回のイベント……じゃなくて、テストではナナリー様が
一人で暴走しないことを祈りますわ……」
「そうだな」
私とベリアル様は、さっそく気が重くなったよ。
ありがとうございました。