120話『エレノアの怒り 1』
エレノア(お母様)視点です。
ラナーのお茶会から数日、エミリアに頼まれた件を実行するため、
私はオベール家とバイゼイン家の夫人へお茶会の招待状を出した。
内容は、王都の屋敷にある我が家の温室で開くお茶会への招待状だ。
私はこれでも社交界の『聖女ルティー』と呼ばれている。
私のお茶会に参加するのは、社交界での一種のステータスだ。
ヴォルステイン家との関係を築ければ、家族や自分が病気になった時に
優遇してもらえるという噂もあるくらいだものね。
お茶会といえど、コネを作る絶好の機会。
誘われてこない訳にはいかないでしょう。
私は手早く手紙を書き終え、侍女に渡して手紙を送ってもらう。
お茶会に必要なものを家令に用意するように頼む。
お茶会では、エミリアが開発したスクロールを多用させよう。
目ざといオベール夫人はきっとスクロールに興味を持つはずだ。
バイゼイン夫人にはエミリアが開発した新薬を
お茶会の目立つ位置に飾り付ける。
温室に植えてあるブルーベリーやイチゴ、ハーブ類の近くに飾り付ける。
オレンジは植木の場所を変えさせるつもりだ。
これで、温室のものを使ってますよアピールをしつつ、
ポーションを飾っても問題ないように魅せるつもりだ。
全ての準備は完了し、あとはお茶会の返事を待つだけだ。
ちなみに、オベール家とバイゼイン家の開催するお茶会は不参加にした。
不参加の返事の手紙は、このお茶会の後に送る予定だ。
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お茶会当日。
お茶会に参加するメンバーは、
目的の相手、オベール公爵夫人とバイゼイン伯爵夫人、
そして、元同級生のアーチェ・アローズ侯爵夫人と
アローズ侯爵の妹のテティーア・アローズ婦人の4人だ。
開始時間より2時間早くアーチェとテティーアを招いた。
「エレノア!お久しぶりね!」 「お久しぶりです。 エレノア」
長い金色のふるふるの髪をそのまま背中に流し、
青いフリルのついたドレスと同じ色のキャペリンハットのアーチェと
黄緑色の髪を高い位置でお団子にし、
落ち着いた黄緑のドレスを着たテティーアが温室に入ってくる。
「お久しぶりね、アーチェ。 テティーア」
礼儀正しいテティーアに対して、義姉のアーチェのおてんばは健在だ。
アーチェはこう見えても、社交界の『青薔薇の君』と呼ばれている。
私達親子も『聖女ルティー』と『ソニアの君』という名称を陛下に賜った。
私とアーチェが揃い、オベール夫人とバイゼイン夫人に圧力をかける。
内容は学園でのご子息達の粗暴についてだ。
テティーアは学園ではマナー講師を務めているので、信憑性も増すだろう。
と言っても、テティーアには真実を伝えてもらうだけだ。
私は、2人に娘のエミリアの事について説明した。
「湖の一件については私よりも、アーチェのほうが詳しいのではなくて?」
という私の言葉に、薄く笑ったアーチェは頷く。
「ええ、そうね。認識阻害のフードを被った男性2人と赤いマフラーの少女が
貴女の娘、ソニアに剣を向けたわ。
フードの男の1人は剣を使っていて、剣の太刀筋は、バイゼイン家の
流派だったと報告を受けたわ」
アーチェの言葉にテティーアも頷いた。
実はこの2人は、王族専用の目と耳、暗部の『ラビット』である。
学園でのエドワード殿下とエミリアを監視する役目もある。
監視と言っても、手は出さない決まりだ。
学園の学生にも『ラビット』は在籍している。
どこにでもいるが、誰にも気づかれない存在。それが『ラビット』であった。
「両陛下から、貴方達の手を借りていいと言われたの。
お願いしてもいいかしら?」
「こちらにも、両陛下から貴女に手を貸すように言われたわ。
まかせてちょうだい」
2人は頷いてくれた。
私の考えた作戦を2人に説明する。
もうすぐお茶会の開始時刻だ。そろそろメンバーが揃うだろう。
私達は、お互いに頷きあい、気を引き締めたのだった。
エレノア(お母様)視点続きます。