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藪枯らしの家  作者: 森中満
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僕と日向さんはゆっくりと山道を歩く。お互い、アウトドア派ではないから、とっとと歩きたくても歩けないのだ。


「森山くんは、やっぱり恋人いないの?」

「いませんよ。やっぱり僕にはいませんので。」

「僕もいた試しがないんだ。だから、恋人っていう関係は少し僕にとって異質なものに感じられるんだよ。いつも一緒にいたいって思える人なんて今までいなかったし、これからもきっといないんだろうなって思うよ。聞いてるかい?」


僕の敬愛する夏目先生の『草枕』にもある通り、本当に人の世は住みにくい。どうして、イマドキの大学生というのは恋バナがあれほど好きなのか?日向さんは大学生ではないけども。夜になったら、(夜にならなくても)飽きもせず恋の話をしている。猫が好きで何が悪い?「彼女いるの?」「いないよ。僕は猫と暮らすことが唯一の人生の確定事項だからね。」「あ、そうなんだ…。」もういいかげん聞き飽きた。


「あ、そこ蜘蛛の巣あるから気をつけてください。」

「そこは砂利道なので、滑らないように。」


「森山くんはなんでここにいるの?」

「バイトです。」


「はい着きました。」


僕たちの目の前には小山のような家が建っている。相変わらず藪枯らしに覆われてはいるが、もはや穴ぐらではなく、別荘のように気取った建物でもない。獣道を見下ろしていると、夏の澄きとおった風が僕たちを包んでいく。周りの木々は風にふかれ、ざあっと揺れてびろうどのような愛宕山を形作っている。


「綺麗な場所だね。」

「この前やっと綺麗にしたんですよ。佐藤さんは随分とほこりっぽい場所がお好きなようで、僕が最初にここへ来た時には足の踏み場もありませんでした。」

「いや、そこじゃなくて。この愛宕山だよ。」


思わず、早とちりしてしまった。僕は思ったよりこの藪枯らしの家が気に入っていたようだ。


「愛宕山にはニニギノミコトとコノハナノサクヤビメの伝説があるんだよ。知ってた?ここにいる2人には、二人とも彼女がいないなんて、ちょっと面白いよね。愛宕山は、デートスポットの一つになっているんだけど、もうそのことはこの辺の人しか知らないんじゃないかな。森中くんは知ってた?」

「伝説があることは知っていましたが、デートスポットのことは知りませんでした。」

「南京錠をカップルで山の上に取り付けるんだよ。そんな関係、重すぎると思うけどなあ。まあ、自分が南京錠の鍵を管理しているんなら、まだマシだけど。いつでも離れられた方がいいと思わない?」

「それは一理ありますね。僕も南京錠なんて取り付けたくないし、拘束感が増しそうで嫌ですけど。」

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