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綺麗になった家の外に椅子を置いて、ゆっくりと風に耳を傾けてみれば、木々がさわさわさざめき、鳥がぴいとさえずる音が聞こえてくる。僕が住むのは、愛宕山の中腹。ここまでは、世間の喧騒も、便りも届かない。ただ、聞こえるのは、自分の生きる音と喋らないものたちの息遣い。
僕はいつのまにか眠ってしまったようで、気づけばもう夕方だった。そして、外でゆっくりとしていたら、僕の足は一面蚊に刺されていた。いてほしくないものは、自分がどこにいようと、いるものだ。
そうして、のんびりと過ごしているうちに1週間が過ぎていた。やがて、おじさんの差し入れてくれた食料も底をついた。僕は一度山を降りることにした。
「あ、森山くん。そっちに僕の知り合いが静養しに行くんだけど、大丈夫?」
「知り合いですか?」
随分と唐突な電話をかけてきたのは、僕のおじさんだった。ちなみに、まだ、僕の友達からは一本の電話もかかってきていない。もうあいつらに期待するのはやめたが、やはり、寂しい。
「…森山くん、大丈夫?その僕の知り合いは、哲学者で、ちょっと周囲が疲れてるみたいだから、僕の山で少し静養したらって言ったんだ。」
「僕は別に大丈夫ですよ。ただ、僕は男なので、そちらの方は、僕と共同生活でいいんですか?」「大丈夫だと思うよ。そいつも男だし。名前は日向って言うんだ。とりあえず、顔合わせだけはしたいから、今から、僕の家まで来られる?」
「はい、そうしたら、今から麓まで向かいますね。」
「気をつけてね」
一週間前通った道を今度は一人で歩く。もう一週間も経つのに、まだ山道には慣れない。所々で躓きながら、下山した。木々は麓に近く慣ればなるほど閑散として、小さく車の走る音が聞こえてくる獣道には以前よりも草が生い茂っていた。頭上には蜘蛛の巣が張り巡らされ、アゲハチョウが大きく羽を広げて引っかかっていた。思わず助けてあげたくなるけれど、それはただ僕のエゴでしかない。引っかかった蝶に蜘蛛がゆっくりと近づいて行く。