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そうしてわずかな荷物をまとめて、僕は親戚の裏山に向かった。そこは僕のいた、K大学や、ビジネスホテルの窓から見えるちっぽけな山とはまるで異なる山だった。僕は決して山登りが好きではないし、山登りなんて今までしたこともないが、その山の麓に立つと、なんだか思わず登って見たくなる。そんな山の名は愛宕山というそうだ。
愛宕山は、天鵞絨のように色が広がり、木々が柔らかにさざめく山で、一歩踏み込めば、もう木々のざわめきしか聞こえないような辺鄙なところに立っていた。僕の家出生活はここから始まるのだ。
「こんにちは。森山です。これから、山の管理人としてよろしくお願いします。」
「あ〜。大きくなったね。大学生は夏休みも早いの?」
「はい、僕の大学は特に早いんですよ。」
大嘘である。善良なおじさんに嘘をつくのは、とても心苦しいが、それと引き換えに家出先が見つかるならば、まあ、必要な犠牲だろう。