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日向さんが、珍しく内容のある話をしてから、数日後。とうとう、愛宕山にも秋の気配が漂うようになった。びろうどのようだった山肌は、フランネルのように毛羽立ってきた。さわさわと揺らいでいた木々は、ざわざわとした乾いた音を立て始め、肌や心まで撫でるような、冷たい風が吹き抜ける。
「そろそろ秋だね。森山くんは、今週の日曜日でここから出て行くんだっけ?」
「日向さんもでしょう?おじさんに怒られますよ。まだ何も片付けとかしてないじゃないですか。」
「めんどくさいなあ。森山くんやってよ。」
「そんなわけにもいかないでしょう?」
「下界に帰るのかあ。佐藤が羨ましいなあ。引きこもってても、仕事ができるんだから。」
そうこうしているうちに下界に降りる日がくる。カイは僕が引き取ることになった。いつも引きこもっていた日向さんよりも僕の方に懐いていたから。
帰りの道は、どちらもこけることもなく、普通に歩くことができた。『山道を歩く』僕や、日向さんにとって慣れなかったそんな動きも、体は記憶する。不思議なものだ。動きの前にある、思いより動きの方が記憶されやすいなんて。
「いい休暇だったろう?何か小説とか書いてたの?」
「そういう日向さんこそ、何か論文とか書いてたんですか?」
「そういうなよ。携帯電話は一切使ってなかったんだ。編集者とは、連絡もとってないんだ。」「いつか見放されますよ?」
「それならそれだけの自分だっただけだよ。もしそうなったら、佐藤のところで雇ってもらおうかなあ。」




