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ヘリコプターの音が大きくてタダシは耳に手を当てた。ヘリコプターのエンジンが止まる。
[大丈夫。何も危害は加えない。まずは身体を洗い精密検査をしよう]
黒服はそう言った。言ってる合い間にも他の大人達は簡易シャワーの準備や、よく分からない器械にコードを刺していってる。
服を脱ぐよう言われる。ナイフがバレる。が、ナイフは持ってても構わない。と言われそのまま握った。
簡易シャワーと消毒液で身体を洗われた。
シャワーは温水だった。
誰も何も言わない。
[果物のジュースだ]
と黒服は言い手にしたオレンジ色のビンからコップに少し出し飲んだ。そのビンをそのままタダシに渡した。
タダシはビンを取り飲んだ。甘かった。一気に飲み干した。
[終わったらまたあげよう]と言われ、身体にコードの付いた丸いワッペンみたいな物を次々と付けられる。頭にコードのついたヘルメットみたいなのをかぶされる。
タダシはなすがまま。
血圧と脈拍を測りたいと言われ、そこで初めてナイフを離すように言われる。
少し経ち[合格だ]と言われた。何が合格か分からなかった。
[これからここを出る。二度とここには来れないから、持ち帰りたい物があるなら今のうちに持ってきて欲しい]
タダシはその言葉に即座に首を振った。
持ち帰りたい物は何も無い。
ヘリコプターに乗ったタダシは小さくなっていく学校を見下ろす。
まるで夢の世界のようだった。
爪の先に挟まって取れていない赤い血が現実を物語っていた。
それから暖かい施設に送られた。窓もなく鍵も付いている。
好きなテレビゲーム機を与えられそこで過ごすよう言われる。
部屋からは出られなかったが、そばにはゲーム機と数十種類のゲームソフト。フードサプリ、たくさんの飲料水があった。その代わり、頭のヘルメットと胸元やお腹につけられたコード付きワッペンは外さないように言われてる。
タダシは部屋だと思い込んでいたが、コンテナだった。コンテナは密かに宇宙船に移送され、タダシは宇宙へ出たのだった。行き先はあの何も無い空間。
何もない空間に突入するとタダシの身体は徐々に消え始めていった。
タダシの肉体が完全に監視カメラから消えてもテレビゲームのキャラクターとコントローラーは止まる事なく動いていた。




