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見知らぬ世界の兄弟星  作者: Pvt.リンクス
第3章 鬼哭恋歌
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3-15 再会の時

 ショウヘイは神社で目を覚ました。陽の光が差し込み、目を覚ましたのだ。隣で美春が丸くなってスヤスヤと寝ている。だが、もう朝だ。可哀想だが起こしてやらねば。


「美春、朝だよ」


「……もう少し寝ていたい」


「だーめ。もうすぐご飯だよ」


 ショウヘイは美春を抱き起こし、立たせる。寝ぼけ眼の美春が欠伸をしながら傍に置いてあった着替えに手を伸ばしたので、ショウヘイは部屋を出る事にした。


 縁側に出ると丁度あちこち煤けたり、返り血を浴びたレイジとパスカルがフラフラと眠そうにしながら帰って来たところだった。レイジはかなり眠いのか、縁側に突っ伏して寝始めてしまった。


「兄貴、寝るならちゃんと部屋行きなよ」


「……このまま寝かせろ。死ぬ……」


 パスカルも縁側に座ったかと思うと、うつらうつらと舟を漕ぎ始めた。2人揃って夜襲して、そのまま徹夜で追撃して来たのだ。かなり疲れているだろう。


 そこへ、シャロンがやって来た。足音に気付いたのだろう。


「あ、パスカルさん、ご飯食べます?」


「……寝る」


「そうですか、お疲れ様でした。はい、どうぞ」


 シャロンはもはや自然な流れとも言えるような動作でパスカルの隣に腰かけ、膝を叩く。パスカルもそれに促されるままに膝に頭を乗せ、スヤスヤと眠り始めた。


 あのパスカルが珍しい。ショウヘイは邪魔をしては悪いと思ったのか、美春とともにレイジを部屋まで引きずって行く。


 残されたシャロンは、まるで猫を撫でるかのようにパスカルの頭を撫でる。あの強いパスカルがこうして無防備な姿を晒してくれることが嬉しくて、シャロンはこの姿を自分だけの思い出にしておきたかった。


 ※


 夕暮れの少し前、一同は墓標の前に集まっていた。更科の慰霊の儀式が始まるのだ。


 レイジとパスカルが昨夜のうちに敵を徹底的に叩いた為、立て直しには少なくとも7日かかると予想されており、立て直しが終わる頃には既に大義名分も消えているはずだ。


 美冬が美春とともに儀式を取り仕切り、祭壇へ祝詞を唱え始める。神社で聞くような独特な声で祝詞を唱えるため、なんと言っているのかは上手く聞き取れない。


 だが、その言葉はまるでケイスケの魂へ響くかのように、頭に、胸に響いてきた。それに共鳴するかのように、断片的に記憶が戻り始める。


 ——気をつけろ皆坂! そこは急斜面だ、滑落しちまうぞ!


 ——落石来るぞ! 気をつけろ!


 ——皆坂! 皆坂! 誰か手伝ってくれ! 皆坂が落ちた! 皆坂! 返事しろ!


 ——待て神崎! ロープなしに行くのは自殺行為だぞ!


 ——うるせえ、俺のバディなんだぞ!


 嗚呼、そうだ。行軍中に落石を食らって滑落したんだった。落下途中にあちこちにぶつかり、砕けて、あたかもクラスター爆弾か、流星群のように降り注ぐ落石に、新人だった自分は対処できず、あちこちに食らったんだっけ。


 頭をあちこちにぶつけて、落石も食らって気を失って……気が付いたら、見知らぬ森の中にいた。あちこち痛む身体を引きずって彷徨っていたら、知らない村に出て……よく顔を思い出せない、あの女性に助けられたんだ……


 その先はよく思い出せなくて、次に思い出したのは戦っている時だ。なんで戦おうと思ったのかは忘れた。それでも、空砲で必死に威嚇して、突撃してきた騎兵に射撃して、馬を驚かせて落馬させた。


 敵が退いて、更科とともに夜空を見上げたのを覚えている。何の話をしただろう。彼女は笑って、聴き入っていた。魅力的な女性だと思っていた。


 強さを、優しさを併せ持つ彼女に、戦いの中で、その中の平穏の中で惹かれたのを覚えている。


 借りた刀で何人か斬り伏せたのも覚えている。そして、忍び装束の男たちと相対した。いくら斬りつけても、空砲を押し付けて射撃しても死なない。傷が治ってしまう、厄介な奴がいた。


 どうにかして倒した気がする。どうやったんだっけ? そもそも倒せたのか?


 ——ここに1人だけでも守るべき人がいて


 ——どんな時も僕らを信じてくれる


 ——だから僕はまだ立てる


 ——優しさは強さ


 ——強さは優しさになるから


 どうして、あの歌が聴こえるんだろう。眼に浮かぶ光景はあの敵を前にした時。そして、歌っているのは俺自身だろうか? 何故?


 景色が変わる。死屍累々としか言えない光景。倒れた人や妖の中、俺の腕の中にいる女性は弱りつつある。更科雪葉の最期だろう。


 血を流し、弱っていくにも関わらず、その顔は穏やかに見える。やめてくれ。そんな顔を見せないで、力足らずな俺を責めてくれ。


 ——もっと、俺が強ければ……


 ——もっと、俺が戦えたのなら……


 そんな嘆きの言葉が頭を反響する。響き渡る後悔の念、思い出されるは懺悔の言葉。皆坂啓介は、無力だった。


「ありがとうございます。私たちのために、戦ってくれて」


 記憶ではない。確かに聞こえた。ゆっくりと目を開けると、そこには着物に身を包み、腰まで伸ばした長い黒髪、穏やかな顔立ちで額に角のある女性——更科雪葉が、そこに立っていたのだ。


「ゆき……は……?」


「あなたの眠っていた記憶を媒体に、一時的にですが現界したのです。お久しぶりですね、啓介」


「更科様じゃ、更科様がおいでになられたぞ!」


「奇跡だ、奇跡としか言えん!」


「鈴城の巫女の力か!」


 鬼たちから歓声が上がる。ケイスケの隣にいたレイジは、呆然としていた。我に帰っても、2人の邪魔をするのは良くないと判断し、黙っていることにした。


「鬼たちが生き残れたのは、あなたが身を挺して戦ってくれたからです。私が怨霊にならなかったのも、あなたが最期まで抱きしめて、看取ってくれたからです。そんなに自分を責めないで」


「……俺、記憶があまり残ってないんです。時空の歪みを越えた影響か、崖から滑落したからなのか……断片的にしか……自分のことなのに、鬼哭恋歌の伝承を聞くまで思い出せなくて……!」


 記憶が戻るにつれ、自責の念にかられるケイスケを、更科はそっと抱きしめた。幽霊なのに、感触がある。神の奇跡だろうか。


「あなたは悪くない。忘れても、思い出してくれたならそれでいいです。また、会えたのですから」


 穏やかな笑みを向ける更科が、ケイスケには救いに見えた。例え、目の前の更科が霊だとしても、構わない。


「教えて欲しいことが山ほどある。思い出さなきゃならないことが」


「ええ、しかし……無粋な者たちが近寄っているようです」


 更科が森の方を睨む。それと同時に、ハミドがグライアスを同調させてパスカルへの連絡を試みていた。


『森の方からなんか来やがった! 早い!』


「落ち着け。俺とレイジで行く。持ちこたえられるか?」


『交戦はまだだがやりあえる自信がねえ! 早くしてくれ!』


 歴戦のハミドが戦う前から勝てる気がしないとはどんな相手なのだろう。パスカルは警戒しつつ、レイジの肩に手をやる。レイジも聞いていたようで、戦闘態勢を整えていた。


「皆坂、お前はここにいろ。時空の歪みが出たらちゃんと調べてこいよ!」


「班長……すみません」


「適材適所だ。健闘を!」


「はい!」


 レイジとパスカルはハミドとの頃へ向かう。ショウヘイも、2人を追いかけるように走っていった。ショウヘイも戦う気なのだ。


「追いかけますか?」


「……時空の歪みがいつ出るかわからないから動けませんよ」


「私が伝えます。大切な人なんですよね?」


 行って、とでも言いたげな雪葉の言葉に、ケイスケの心は揺れる。そして、ミニミ軽機関銃を実体化させると、てっぱちを被り、立ち上がった。


「俺も行って来ます。必ず戻りますから」


「ええ、お気をつけて」


 ケイスケは雪葉に見送られ、レイジたちを追って走って行った。


「ルフィナ、行くわよ。あいつら絶対怪我するから」


「全く、手がかかるね」


「私も行きます!」


 アリソンとルフィナ、シャロンも後方支援のために追いかけて行く。いつも通りに勝てる。そう思っていた。

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