3-14 嵐の前に
翌日から作業が始まった。それは更科の慰霊祭のための準備だ。
ショウヘイは美春と共に祭壇を準備している。木組みの祭壇に布を敷き、見栄えをよくするのだ。
「翔平、本当に備えなくていいの?」
「兄貴とパスカルが、俺たちに任せて慰霊祭の準備しろ、って言い出したんだから何かあるんだよ。美冬さんも納得させたらしいからね」
実は、今朝になってレイジとパスカルが美冬に何かを話したらしく、陣地を張って徹底抗戦の予定が変更になったのだ。
「あーもー! レイジもパスカルもその内容は話してくれないで昼まで寝て、さっき出かけたのよ!? 何したいのあいつら!?」
炊き出しから戻って来たアリソンは2人への文句をぶちまける。何も言わずに行ったのは、情報が漏れることを警戒してのことだろう。そういう事には手練れた2人だ。
「お姉ちゃん、ずっと心配してる……」
「うるさいわね! ハミド、何か思いつかない?」
「俺かよ? あいつらのことだから、夜襲仕掛けて退却せざるを得なくするか、時間稼ぎだろ」
「どういう事?」
「お姉ちゃん、やっぱりアホの子……」
ルフィナはハミドの言葉を理解できて来ないアリソンを小馬鹿にする。怒ったアリソンはルフィナにアイアンクローをお見舞いしつつ、ハミドの説明を待つ。
「つまり、奴らの大義名分は妖怪を倒すことだろ? さっさと儀式が終わって鬼たちが帰ったら奴らが攻めてくる理由ねえだろ。理由なしに攻めて来たらそりゃ侵略よ。民草は従わねえ」
「そういうものなの?」
「ここは由緒ある土地なんだろ? そこの住民っつーのは帰属意識が強いもんだから、侵略なんかされたらレジスタンス活動開始よ。工作の依頼で一番苦労した類だぜ」
ハミドの工作とやらは気になるがそれは置いておいて、アリソンは理解した。討つべき相手がいなければ攻めてくる理由がなくなる。レイジとパスカルはそれを理解していたからこそ、攻撃に向かったのだ。
「……俺たちの問題は、時空の歪みがいつ現れるか、だね」
「まあな。だけどよ、美春の嬢ちゃんに相当甘いレイジが、調査が終わったからあと帰りまーすなんて言うか? 野郎は1人でも徹底抗戦の構えだろーよ」
「そりゃ俺だって同じさ。ただ……」
「兄貴に比べて技術も戦闘能力もねえから、付いていけないってか」
「うん。だから、秘密兵器渡すくらいしかできなかったよ」
ショウヘイが準備したある秘密兵器。何を作ったんだとハミドは訝しみながらも、2人を信じて待つ事にしていた。
※
夜の帳が下り、辺りは宵闇に包まれる。飯盛山へと歩を進める敵先遣隊は野営の体制を取っていた。
その手前の森の中。闇が歪み、レイジとパスカルは不可視の暗号を解いてその姿を表す。時間制限付きで、時間になると勝手に解除されてしまう上に、暗号を書いた時点でカウントが始まってしまう為、使うには1から書かなければならない。その為、先に解除したのだ。
篝火の無いところへ歩哨が立ち、辺りを警戒している。パスカルは適当なところへ石を投げ、音で歩哨の注意を逸らさせると、グラビライト石の反重力を利用して跳び、ポンチョのはためく音だけを響かせ、距離を詰める。
歩哨が気付く頃にはもう手遅れ。その首をリストブレードが切り裂き、声すら出せずに歩哨は絶命した。それを確認し、レイジはV-8越しの視界を頼りに進む。どれだけ電池が持つか分からない。だが、使うしか無いのだ。
野営地は鉄条網で囲われている。蛇腹式の鉄条網は広げるだけでいい、構築のしやすい障害だが、柵型に比べると突破されやすい。
レイジは銃剣の鞘についている鉄線鋏の出っ張りを銃剣の刃の穴に合わせる。ワイヤーカッターとしても使えるように設計された多目的銃剣(実は栓抜きもついている)が役立つとは夢にも見ていなかった。
1箇所を切断し、少し持ち上げるようにして鉄条網を退ける。それで1人分の侵入口の完成だ。跳べばいいかもしれないが、着地の音でバレたら面倒だと判断したのだ。
天幕が立ち並んでいるところから、兵士たちは休んでいるのだろう。兵士たちの天幕は無視して、2人は武器や食料が貯蔵されているであろう場所を探す。
個人火器は兵士たちが持っているだろう。だが、予備弾薬はどこかにまとめてあるはずだ。それを探して爆破する。それが役目だ。
「レイジ、お前ならどこに置く?」
「そうだな。外から攻撃されず、侵入されにくい……中央、本部のあたりに配置するね」
レイジとパスカルは闇に紛れて進み、天幕と天幕の間を通る。そんな2人の行く手を、動哨が阻むかのように巡回している。ライフルを持った2人組だ。
レイジは89式小銃を粒子化し、代わりに右手に拳銃、左手に銃剣を握る。
まず、パスカルが物陰から飛び出し、まずは手前の敵の首をリストブレードで貫く。もう1人。声を上げられる前にレイジが組みつき、喉笛を掻き切って声を奪う。声を出せなくしてから頚動脈を切り、トドメを刺す。
レイジとパスカルはアイコンタクトで意思疎通を図り、また前進する。形の違う天幕があり、そこだけ篝火が炊いてある。怪しい。
レイジが接近し、銃剣で天幕を切って中を覗く。思った通り、木箱が天幕の中に積まれていた。弾薬の類だ。火を付けたらよく燃えるだろう。
「パスカル、準備するから援護頼む」
「ああ」
パスカルはオリオン2丁を両手に持ち、周囲を警戒する。その間にレイジは爆薬を実体化させ、準備にかかる。
予め5分で燃え尽きるようにしておいた導火線に雷管を取り付け、TNT爆薬へ差し込む。一般的な爆薬で、威力はお墨付きだ。この弾薬庫を吹き飛ばすにはもってこいだろう。
雷管と反対側へ点火具を取り付け、ピンを抜いて点火する。あとは腕時計のタイマーをセットし、残り時間を計る。
「よし、逃げるか」
「待て、あの天幕だけ明るい」
パスカルが指差す、一際大きな天幕からは声が聞こえ、隙間から明かりが漏れている。もしかして指揮官の会議だろうか。
2人が近寄り、耳を澄ませると、作戦会議のようだった。どうやって廃村を攻めるか話し合っている。そんな話し合い、無駄にしてやる。レイジはもう一つTNT爆薬を取り出した。
「パスカル、俺がこいつを準備してる間に、さっきの弾薬庫から弾薬箱一つとって来てくれ」
「何に使う……ああ、分かった」
察したパスカルは弾薬箱を取りに行き、その間にレイジは爆薬を用意する。残り時間3分。1分で爆発するよう導火線を切り、雷管と点火具へ接続。雷管を粘土のような爆薬にねじ込む。
ちょうどパスカルが弾薬箱を持って来た。レイジは箱を開け、弾薬が詰まった箱の中へ爆薬を入れて蓋をする。爆薬そのものの爆発に加え、誘爆した弾丸や箱の木片が飛び散り、殺傷力が増すのだ。
最初の爆薬が爆発するまで1分。それに合わせて点火具のピンを抜いて点火し、タイミングを待つ。もし計算を間違えていたら吹き飛ぶのは自分たちだ。しかし、大丈夫だと、レイジには自信があった。
残り30秒。天幕の下端を持ち上げ、弾薬箱を蹴り入れる。それを合図にレイジとパスカルはその場から一度離れる。隠密はおしまいだ。どう騒ごうが構わない。あと30秒で騒がしくなるのだから。
爆音が轟く。さらに誘爆した弾薬が飛び交い、あちこちへ被害を拡大していく。陣地は一瞬にして騒がしくなった。
「よし、突入して戦果を確認して、引っ掻き回してから帰るぞ」
「おうよ、明るくなったから肉眼でも見えるわ」
レイジとパスカルは弾薬庫の爆発が収まるまで待ってから、再び突入する。起きて来た敵兵士たちが消火作業に当たっているのが見えた。やらせるわけにはいかない。
レイジは手当たり次第に射撃を開始した。ようやく敵を見つけたと、相手も反撃しようとするが、連射速度が違いすぎる。撃つ前に次々と撃たれ、倒れる有様だ。しかも、消火を優先したために武器を持ってない者までいる始末だ。
その間にパスカルは会議中だった天幕の様子を見る。階級章を見るからに、士官クラスの死体が砕け散って転がっていた。士官を失った軍勢が統率を失い、混乱に陥るのはもう時間の問題だ。引っ掻き回せば撤退せざるを得なくなる。
パスカルはレイジに気を取られている敵の真後ろから襲いかかった。2丁のオリオンを実体化させ、敵へ向けて薙ぎ払うように撃つ。
挟撃を受けた。そう気付いた敵はもはや混乱状態に陥っていた。あと一押し。ダメ出しが必要だ。パスカルは暗号を書いたメモを取り出し、文字を書き入れる。これがダメ押しになるはずだ。そう確信して、敵のど真ん中に投げ込んだ。
「大変だ! 士官が全滅してるぞ!」
書き入れた文字を読み上げるスピーカーの暗号。それが敵のど真ん中でこんな事を再生したものだから、敵兵に動揺が走り始めた。
「引け! 引け!」
ついに敵が撤退を始めた。これでいい。だが、ただ帰すわけにはいかない。しっかり恐怖を植え付け、もう一度攻めてくる事を躊躇させる。心理作戦も大切なのだ。
パスカルとレイジは森へ逃げていく敵を追い、木から木へと飛び移って撃ちまくる。たった2人の追撃にも関わらず、あっさりと勝負は決まった。




