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見知らぬ世界の兄弟星  作者: Pvt.リンクス
第3章 鬼哭恋歌
56/66

3-7 祇園の街に

改稿作業が予想より早く終わりましたので、最新話を投稿します!


変更点は、ハミドの彼女を諸事情あり、ミランダ・バスカヴィルへ差し替えています。


また、ネット小説大賞1次先行通過しました! あわよくば2次通過も目指して執筆に取り組んでいきますので、ごゆるりとお付き合いください!

 やがて、馬車の窓からの景色は移ろう。紅く染まった山麓から、情緒溢れる街並みに景色は変わった。教科書で誰もが一度は見た事があるだろう。明治時代、文明開化の頃の日本の街並みのようにも見える。


 "散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする"そう言われた文明開化の時代。恐らく、他の国からの文化が入り始めてきた頃なのだろうか。元の世界の日本と違うのは、外国人が自由に街を歩けるということか。


 ガス灯の代わりに暗号灯が立ち並び、線路を走る馬車、鉄道馬車も走っている。そんな中でも、神社は近代化の波を受けることなく、その伝統を受け継いでいる姿が見えてきた。やはり神社のような、静かで心穏やかになれる場所はいつの時代でも必要なのだろう。


「班長、見てくださいよこれ。面白そうって感想しか出ないですよ!」


「見てる、目を疑ってる。時期って大政奉還とかその辺?」


「それよりは後っす。廃藩置県辺り?」


「兄貴も皆坂さんも、それはどっちも明治維新だね。多分、それよりは少し後くらいがちょうど合うんじゃないかな? 大体1880年代頃から無分別な西洋化に抑制がかかったし、その辺りだと思う」


「翔平くん、文系?」


「理系の物理履修ですよ。使い所がなくて泣きそうですけど」


 ショウヘイは苦笑いしながら答える。何かの役に立ちたい。自分には知識がある。そうはいっても、その知識を役立てるというのは思いの外難しいことだったのだ。知っているだけではダメだということを肌で感じ、ショウヘイは難しさをどう乗り越えるか悩んでいるのだ。


「そういうものさ。俺も学校で学んだことなんて自衛隊で全く使わないから、何のために勉強したんだろうって思うことはよくあったのさ。みんなそんなもんだよ」


「じゃあ何の為に勉強するんでしょうかね」


「さあね……」


「生きる為、だろ」


 答えの出ない2人に助け舟を出すかのようにレイジが口を挟んだ。どういうこと? とでも言いたげなケイスケに対し、レイジは忘れたのか? というように続けた。


「忘れたか? お前行軍中に滑落して行方不明になったじゃねえか。その時レンジャーで学んだことが役立ったんだろ?」


「あー、そんなこともありましたね……少なくとも学校の勉強ではないっすけど」


「何があったの皆坂さん?」


「実はね……」


 ポツリポツリと話したのは、かつてレンジャーを卒業してからの演習の事。演習場での夜間行軍中、前方警戒員だったケイスケは、茂みで見えなかった道と坂の境目を踏み抜き、滑落してしまったことがあったのだ。


 急斜面を夜間に滑落してしまったこともあり、捜索、救難は夜明けまで行われることはなく、夜が明けてからの捜索でもケイスケを発見できず、3日後に自力で演習場入口の駐車場まで帰り着き、助かった。


 だが1番不思議なのが、帰り着くまでの記憶が曖昧であることだ。落下の際に失神していたとも、頭を打って朦朧としていたが条件反射よろしく体が動いて帰り着いたなど、憶測が飛び交っているが本人ですらも理由がわからないという。滑落した場所は、確かに捜索したはずなのに、だ。


「そんなことがあったんですね……」


 いつの間にか、ケイスケの昔話にパスカルたちも食いついていた。別世界での出来事に興味でもあったのだろうか。理由はどうあれ、求められるならば応じよう。ケイスケはそう思って話を続けていたのだ。


「そんなところさ。俺も本当に記憶が霞んでね。覚えているのは、誰かに"生きて"って背中を押されて歩ききったって事だけ。うん、本当に何があったのかな」


「……まさかとは思うが、時空の歪みを越えた影響による記憶障害じゃないのか?」


 パスカルが指摘する。当時であればそんな可能性に至ることは無かっただろう。だが今ならばどうだ。その可能性も、十分にあり得るのではなかろうか。


「どうかな……だとしたら、俺はその間に何をしたんだろう」


「パスカルさん、もう着きます。話は宿に着いてからにしませんか?」


 シャロンが言う。馬車は既に停車していた。ここからは徒歩で宿へ向かうのだ。


「……そうするか。忘れ物するなよ」


「おいおい、荷物は全部粒子化したの忘れたか?」


「……忘れてた」


 ハミドはしっかりしろよと笑う。珍しくパスカルがそんなうっかりをしたのだ。ケイスケの話に気を取られていたのだろう。シャロンもくすりと笑い、パスカルは苦い顔をしながら馬車を降りた。


 ※


 到着した宿は和風な情緒溢れる旅館だ。久しぶりに畳を見たレイジたちは思わず心躍り、美春も尻尾を振っていた。パスカルたちは初めて見る畳の部屋を何だ何だと見回し、ミランダは記事にでもするのかメモを取っていた。


 街から離れているため、障子を開けば渓流が見える。のどかな自然の中にある宿で、とても心安らぐ景色がそこにある。荒んだ心を癒すにはもってこいと言える景色だ。


「凄い……これが異国の景色……! パスカルさん! あそこ! 魚ですよ!」


「お前飛鳥に来た目的忘れてないか? ……まあいい。折角の飛鳥だ。楽しむか」


 シャロンは直接外を見に行こうと、パスカルを連れて玄関へ向かう。和風建築故に、入り口で靴を脱ぐのだ。ショウヘイや美春には普通だが、洋風建築に馴れたパスカルたちには新鮮であり、課業中は半長靴を履いたまま、課業後もランニングシューズかサンダルで歩くレイジとケイスケには久しぶりの靴を脱ぐ部屋である。


「いやー、これなら半長靴で水虫にならずに済むわな」


「兄貴、ちょっと隔離でいい?」


「ふざけんなこんにゃろー!」


「だって水虫怖いもん!」


「自衛隊の風呂が悪いんだよ!」


 レイジとショウヘイの次元の低い言い争いが始まる。それも、この兄弟にはまたいつものことなのだ。早速始まる兄弟の取っ組み合いに、アリソンとルフィナは座布団を投げて援護というより横槍を入れる。


 ケイスケはその取っ組み合いを見て、仲裁のタイミングを計り、ハミドとミランダは興味がなかったのか、旅館内の探索に行ってしまっていた。


 ※


 パスカルとシャロンは渓流にいた。川べりから自然の景色を眺めるだけでも心安らぐ。シャロンは水辺に近付き、少し水を掬ってみた。


「見てくださいパスカルさん! すごく綺麗な水ですよ!」


「カレリアより綺麗だな。自然も残ってる。カレリアとはまた違っていいのかもな」


 遠くで魚が跳ねる。またシャロンははしゃいで川縁を走り、砂利に足を取られて転び、川へ倒れ込んでしまった。パスカルは少し焦ったのか、急いでシャロンへ駆け寄る。


「うう……冷たいです……」


 シャロンはずぶ濡れになっていた。この時期の川の水はとても冷たく、風がさらに体温を奪う。パスカルは何も言わずにシャロンの手を掴んで助け起こすと、自分のポンチョを着せた。


「少しはマシだろ。戻って着替えるぞ」


 パスカルのポンチョは特に暗号が仕込まれているわけでもないが、シャロンの体をすっぽり包み込み、風から守ってくれている。パスカルがずっと着ていた事もあり、ほんのり残る温もりがシャロンを温める。


「……暖かいです。やっぱり大きいですね」


「体格が違いすぎるだろ。それだけダボダボなら全身覆えるから寒くないだろうな」


「ええ、あの時着せてくれたものと同じですよね、ランブイエのアサシン、そのポンチョですね……」


 パスカルは何も言わない。いつのまにかつけられていたランブイエのアサシンの名。パスカルは何も言わずにシャロンの手を握り、宿へと帰ろうとする。


「……パスカルさん、何か聞こえませんか?」


 シャロンがあちこちを見回す。パスカルも目を閉じ、暗号を使って周囲の音を増幅し、目を閉じて耳をすませる。


 川のせせらぎ、森の葉擦れの音に混じり、確かに聞こえてきた。それは泣き声のようにも聞こえる。山から聞こえてくるものだろう。


「……何かいる。だが遠い。一度引き上げるぞ。時空の歪み絡みかもな」


「歪みの出現予想は5日後です。誤差でしょうか?」


「この世界が刻んできた時に比べたら5日なんてほんの一瞬だ。その程度の誤差はあっておかしくないかもな」


 パスカルはシャロンの手を引き、時々声のする方向を鋭い目で警戒しながら、宿へと引き上げていった。


 ※


「山から泣き声?」


 パスカルから泣き声の話を聞いたミランダが反応する。常日頃から読書に勤しみ、知識を深めているミランダなら何か知っているのではないかと、周囲の期待が集まる。


「うーん、祇園の資料は読んだけれども、泣き声はわからないわね……ここに伝わる伝承の類いかしら? だとしたらわからないわね。聞き込みしかないわ」


 ミランダはそう言って首を横に振る。代わりに、美春に目線が集中し始めた。


「鬼哭恋歌……かな。祇園に伝わる、おとぎ話なんだけど……」


「鬼哭恋歌……? なんだそれは?」


 パスカルは首をかしげる。鬼が泣く恋の歌。それはどのような物語なのか。実在する何かの伝承なのか。それが気がかりなのだ。


「昔、飯盛山に鬼と人が暮らしていた。ある時、鬼退治をして名を上げようとある大名が攻めたの。鬼たちの頭領は美しい鬼女で、鬼たちを率いて戦ったけど……負けて死んだの」


「それと恋歌、なんの関係あんだ?」


 ハミドは分からない、と言った風に訊く。美春はこれから話すと言わんばかりに縦に頷いた。


「人々は大名を恐れ、手出しできなかったのだけれども、ある1人の風来坊が現れ、村人を率いて巧みに戦い、最後には傷ついた鬼女を必死に手当てして……助けられなかった。それでも、鬼たちは彼に感謝して、散り散りになっていった。その鬼女の霊がどこかへ消えた風来坊の事を想って泣く声。それが鬼哭恋歌」


「風来坊、ね……どんなヤツなのか……」


 ケイスケは鬼哭恋歌の話に聞き入っていた。まるで祖母が子供に聞かせるようなおとぎ話。だけど、それは確かにそこにあるもののようにも思えるのだ。


「お母さんなら何か知っているかも。飯盛山……この宿の反対側にある神社にいるはず……」


「そこ、時空の歪みの発生予想地点近くです……!」


 シャロンが言う。そこで浮かび上がる可能性は、風来坊が時空の歪みを越えてきたクロノスの招き人である可能性。視線がパスカルへ集中する。


「……明日、神社へ行く。時空の歪みの特定が最優先だが、そのついでに鬼哭恋歌も調べてみるか?」


「いいわね、コラム埋めるのにちょうどいい記事になりそうだわ。時空の歪みが絡むならさらに大ニュース……!」


 ミランダは編集者として燃えている。ハミドは苦笑いしつつ逃げようとするが、ミランダに首根っこを掴まれてしまう。編集作業の手伝いをさせられることはもはや逃れられない。


 そんな中で、レイジとショウヘイは目を合わせる。美春とこれでお別れになるかもしれない。だが、もし美春が帰ることを望んでいるのなら、笑顔でお別れをしよう。2人はそう決めていた。

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