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見知らぬ世界の兄弟星  作者: Pvt.リンクス
第2章 異世界の生活
47/66

2-25 ウサギの穴に落ちて

 突撃の様子をショウヘイは見守るしかなかった。突撃支援射撃最終弾弾着をレイジに伝えてからというものの、双眼鏡の向こうにはまるで映画のような白兵戦が繰り広げられていた。


 リョーハは地面に倒したゴブリンを自らのヘルメットで殴りつけ、グリーシャやセリョーガはナイフを巧みに操り、オークの懐深くに潜り込んでギリギリの戦い振りを見せる。ミーシャは負傷したアマゾネスを庇いながらリボルバー拳銃で敵を迎撃している。


 レイジとケイスケはすぐに見つかった。はっきり言って押されている。だが、助ける術はない。魔術銃を使ったとしても、乱戦だから誤射の危険があった。


『こちらリール1! 砲兵隊、すぐに退却せよ! そこは危険だ!』


 突如、グライアスでアドルフォの声が響いて来た。ここが危険? 何故だろうとショウヘイが振り向くと、その瞬間、地面が吹き飛んだ。まるで火山の噴火。降り注ぐ土を振り払い、そこを見ると、ぽっかりと空いた大穴からゴブリンが這い出してきた。


「敵だ!」


「この野郎どこから来やがった!?」


「非戦闘員を下げろ!」


 あちこちで怒号が響く。指揮が一時的に混乱を見せるが、各指揮官は近くにいた部下を取りまとめ、散発的に応戦を始めた。


「ショウヘイ! こっちだ急げ!」


 シュターレンベルグが叫んでいる。ショウヘイは本隊より少し前にいるので、早く戻らなければ孤立の危険があった。一緒にいる美春まで危険に晒してしまう。それだけは避けなければ。


 まっすぐ合流しようとすれば射撃に巻き込まれるので、ショウヘイは美春を連れて大きく迂回して本隊に合流しようとする。


「今救援が向かっているとのことだ、ここを持ちこたえるぞ!」


 だんだん指揮が回復し始め、まとまって応戦し始めた。非戦闘員を逃がすために横隊に展開して盾となり、射撃で応戦する。ゴブリンが白兵戦の構えで、銃を持っていないのが幸いとも言えた。


「美春! 後ろに!」


「翔平、呪符を!」


 ショウヘイは美春の呪符を思い出し、手に取る。そこへ、ショウヘイを見つけてゴブリンが走って来た。けたたましい、耳障りな笑い声。丸腰なショウヘイを獲物と見ている。


 ナイフを持って殺しにくる。美春もいる。美春を守れるのは、最早自分しかいないが、背中の銃をどうしても取ることができない。


「翔平! 早く呪符を使って!」


 ゴブリンが跳ね、ナイフをふりかざす。剣道で面を打たれた時、こんな感じだったなと、スローモーションに見える光景の中ショウヘイは思い、無意識のうちに腕を横に振っていた。まるで、竹刀で胴を打つかの如く。


 その時、手の中の呪符が光を帯びた。白い光はとても眩く、手から溢れ出て、純白の刃を現した。突如現れた純白の刃は、ゴブリンの腹を切り裂き、その体を2つに分けた。


 血飛沫が遅れて飛び散る。純白の刃は汚れの一つもない。無意識だった。何も意識せずに体が動いた。まるで、相手の隙を見て胴を打ち込み、一本取ったかのようで……


 そして、ショウヘイは気付いた。剣道という競技の中で、剣で相手を斬るという動作を幾たびも繰り返し、体に染み付けた動作なのだ。


 レイジとケイスケが射撃訓練で人の形をした的へ弾を撃ち込むように、防具をつけて取っ組み合いの格闘訓練をして、反射的に戦えるように訓練されたのと、なんら変わりはないのだ。


「そういう……ことか……」


 ショウヘイは白刀を握りしめ、美春を連れて再び走り出す。もう走るしかない。火炎瓶でオークを焼き殺しもした。目を背けて、逃げていただけだったのだ。レイジは、まっすぐ向き合っていたというのに。


「体が動くなら、やれるよな……これが、俺の罪。俺の……やるべきこと!」


 また気分が悪くなりそうな鳴き声をあげながらゴブリンがダガーで襲いかかってくる。だが、ショウヘイの体は脊髄反射かのように素早く反応し、刀でその刃を受け流し、即座に反撃に出た。鋭い太刀筋にゴブリンは反応できず、頭を叩き割られた。


 頭蓋骨を叩き割ってもその刃に刃こぼれはない。羽根のように軽く感じるその刀を手に、ショウヘイは血路を開く。叫び、思考を停止させる。恐れすらも忘れた。反射で体が動くばかりだ。


 本隊の方は竜騎兵が支援に到着しており、既に片がついていた。腹ペコのラプトルたちがその辺に転がるゴブリンを食い漁り、腹を満たしている。


「ベルグ軍曹!」


「来たか! 全く、銃も撃てないチキンと思ったらいきなり立派に戦いやがって……」


「そんなことよりこれからどうするんです?」


「決まってるだろ、穴に突っ込むんだよ。ショウヘイと5人、俺と来い! この穴を探れとメリニコフからの命令だぞ!」


 シュターレンベルグは部下を募る。そして、ゴブリンが出て来た穴を覗き込む。


「なんなんだよこいつは? まあいい。行くぞ!」


 シュターレンベルグは穴倉に飛び込み、ショウヘイや兵士たちもそのあとに続いた。


 ※


「ほら、大丈夫?」


 ヘタリ込むレイジへベラが水筒を差し出す。レイジはそれを受け取ると、グビリと水筒をあおり、喉を潤わせた。


「悪い、助かるわ」


 レイジは飲み口を拭いてからベラへ返す。ベラもその水筒の蓋を開けてグイッと飲んだ。今更間接キスだのなんだの気にするほど余裕があるわけでもない。


「で、あんたはどっち行くのさ?」


「洞窟。閉所戦は心得があるからね。ベラは?」


「この奥。お互い健闘をね。帰ったらうちの店でご馳走してあげるよ」


「はは、今度はジュースで頼むわ」


 レイジは紙箱に入った弾薬を取り出し、空の弾倉へ込めて行く。一休みしたら掃討戦だ。気合いを入れていかなければ。


「班長、リョーハが呼んでます」


「今行く。皆坂、準備いいな?」


「ええ、覚悟完了ですよ。これが終わったら帰れるんですから。行きて帰りましょう?」


「馬鹿野郎、わかりやすい死亡フラグ建てんじゃねーよ!」


 レイジはケイスケの頭を小突く。これがいつものやりとり。楽しげないつもの会話。不安も吹き飛ばしてしまえる。肩の力を抜いて、余計な不安も吹き飛ばして、また、任務に向かうのだ。


「リョーハ、洞窟殴り込みかいな?」


「そういうことだ。行くぞ。もうひとつの目標は竜騎兵とアマゾネス、エルフに任せる」


「あ、洞窟といえば……」


 レイジは入り口に近寄る。斥候の時に仕掛けた罠を見るのだ。手榴弾を固定した辺りを見てみるが、固定したはずの手榴弾は無く、破片と爆発でできた窪みが残っているばかりだった。


「やっぱここから出てきたか、入ったかしたな。罠に引っかかってる」


「この中にまだいるのか? リンデン、突入するぞ」


 レイジは89式小銃を構え、先頭に立って洞窟へ入る。中は暗号灯が灯され、明るく、V-8を使う必要もなく思えた。


 洞窟の中は広々している。オークが通れるようになっているようだ。足元には埋まりかけているが、線路がある。元炭鉱ということは、掘ったものを運び出すためのトロッコがここを通っていたのだろう。


「ここ、まだ続くな……もしかして、ここって北の陣地と繋がってたのか?」


「さあな、遺棄された炭鉱だからわからん。奴らがそれをさらに掘り進めて北の炭鉱と連結させたとか、な」


 だとしたら、相手は相当有能だ。北に戦力を集めて敵を誘い、いざ攻撃というタイミングで連結させた炭鉱を移動し、戦力が少ない方を迎え撃ったのだ。入り口もしっかり塞ぎ、追いかけられないようにまでしていた。


「……オークとゴブリンだけにしてはまた不可解なことをしやがるな」


「裏で手を引いている奴がいるとでも?」


「反乱軍だったりしてな」


「この前ライプシュタンダーデって名乗ってた奴らか」


 後ろでパスカルとアーロンは何か違和感がして、それを少し話していた。ゴブリンが悪知恵に長けているとはいえ、この坑道を使った作戦をゴブリンの能力で出来るかどうか怪しいところだ。しかも、この様子からするとなぜか炭鉱の内部まで知っている。つまり、協力した誰かがいる可能性が高いのだ。


「班長、なんすかこのベトコンが潜んでそうな洞窟?」


「ゲームのやりすぎだぞ。お前がゲッサムベイベーやったせいで本当にベトコンが出てきたらどつき回すからな?」


「ひええ、くわばらくわばら」


 レイジもケイスケも軽口を言うが気は緩めない。洞窟に響く足音が緊張を煽り立てる。何か物音がしようものなら引き金を引いてしまいそうなほどだ。


 曲がり角は慎重に確認しながら進む。曲がり角は1番待ち伏せの危険がある場所なのだ。下手に飛び出したら横合いからやられかねない。


 左への曲がり角が見えた。レイジは止まれと手信号で合図する。そして、ケイスケへこっちへ来いと手で合図する。ケイスケは拳銃に持ち替え、レイジの背後について援護態勢をとる。


 レイジが3回頷く。3回目が突入の合図だ。レイジは角を飛び出してしゃがみ、ケイスケはその後ろに立って構える。目の前には触れ合う距離に人がいる。相手も銃を構えているが、よく見ればそれは味方の兵士とショウヘイ、美春だった。


「味方か……驚いたよ」


「兄貴! 皆坂さん!」


「なんだ味方か……」


 先頭のシュターレンベルグは安心したように銃口を下ろした。とはいえ鉢合わせということは、進路を間違えたのだろうか?


「軍曹、やっぱさっきのところ右だったんですよ」


「うるせえぞヤーリ。味方と合流しようとしたんだよ!」


「はいはい、軍曹殿には深い考えがあったということで」


 味方の兵士、ヤーリがシュターレンベルグを茶化す。ヤーリは砲兵隊の護衛要員に引き抜かれていたのだ。ラースの姿がないところを見るに、またどこかの部隊に引き抜かれて指揮にてんやわんやしているのだろう。


「そっちに道が?」


「ああ、二手に分かれてたから片方ずつ潰すことにしたんだ。引き返してそっち行こう」


「レイジ、前衛」


「うーす」


 レイジがシュターレンベルグから脇道の存在を教わるなり、リョーハはそっちへ行くことを決めた。元来た道は一本道だ。何かあるとしたらそっちのわき道だろう。


「リンデン、前進するぞ」


「砲兵隊、こっちは本職じゃねえが行くぞ」


 レイジとケイスケが前衛に立つ。閉所戦に慣れた2人は全員を守る盾として、1番に敵を倒す矛として、不安も何もを忘れ、静かな殺意となりて進み出す。


 身についた動作で規律的に安全を確認する。進路には何もない。パスカルは罠を警戒しているが、何もないのが不気味だった。


『パスカルさん、聞こえますか?』


 パスカルに突然、グライアスでシャロンが話しかけてくる。何か急ぎの用事だろうか。


「何の用だ?」


『今、古い坑道の中ですよね? そこにもしかしたら、時空の歪みがあるかもしれないです!』


「何でわかる?」


『卒業研究でちょっと予想して……』


「あとで詳しく聞かせてもらう。何だ、答えあわせしろってか?」


『それもあるけど……気をつけてくださいね?』


「ああ」


 パスカルは再び意識をこの戦場へ向ける。王立魔導師養成学園で首席争いをするシャロンの助言だ。無視するにできない。なかったらなかったで良し、あったのならば、それなりの対応をしなくてはならない、頭の痛い事態だ。


 前方でレイジとケイスケの動きがあわただしくなった。どうやら曲がり角かどこかの部屋へ出るらしい。2人が連携を取り合っている姿を見て、パスカルたちも身構えた。


 レイジとケイスケは同時に突入する。そこは広い円柱型の空間だった。直径は見た限り300m程、高さはわからない。見上げてもまだ先が見えない。そして、中心は太い鉄柱が建っていて、そこから壁へ足場が蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。


「クリア!」


「クリア!」


 2人の声とともに全員が突入し、展開する。どうやら掘り出した石炭をここに集め、エレベーターで上へ運んでいたらしい。全ての方向へとトンネルが伸びている。


 ふと、レイジは上を警戒しようと上を向いた。エレベーターと思わしき鉄柱の上で、何かが光っているのが見える。同時に、その光より奥で何かが光を反射して光ったかのように見えた。同時に、レイジは危機を感じ、その場を跳びのきながら叫んだ。


「スナイパー!」


 カキン、と金属音がした。レイジの戦闘吊りバンド(サスペンダー)の方の金具を弾丸が掠めたのだ。まさに危機一髪。同時に分隊は散開し、敵狙撃手を探す。レイジは光を見つけた場所を狙い、3発撃ち込んだ。


 何かが動く。そして、飛び降りて来た。エレベーターからあちこちに伸びる足場からこちらを狙って来ていたのだ。


 レイジと同じく戦闘服、官品の装具にてっぱち。レイジと違う点は、持っている銃が、自衛隊では対人狙撃銃という名前で納入されているM24であることと、バラクラバで顔を隠していることだろう。


「……久しぶりだな、シュレディンガー」


「誰か! 何で俺のコードネームを知ってやがる!」


「わからないか? テセウス」


「……! カルネアデス……合言葉まで知ってるのか……」


「そりゃそうさ。俺だって陸上自衛隊に所属していたんだから……な!」


 レイジは横に飛び退く。目の前の相手が突如M24をレイジへ向け、照準器も狙撃眼鏡も使う事なく狙い、撃ってきたのだ。至近距離かつ、その銃を長い間使い、あたかも自らの手足のように扱えるからこその芸当だ。


「銃撃戦は1番分が悪いパターンだなこれ!」


 レイジは89式小銃を粒子化させ、代わりにその右手に実体化させたのは、美春からもらった黒刀"黒ノ呪縛【零ノ式】"だ。狙いをつけさせる前に肉薄して仕留める。


 銃は点で狙う武器だ。至近距離は当てやすそうだが、少し横に動かれただけで当たらない、ピーキーな側面もある。だからこそ、レイジは至近距離戦に持ち込んだのだ。M24もエクリプスMk-Ⅲと同じくボルトアクション式で、1発撃ったら次を撃つまでに時間がある。


 レイジは一気に距離を詰めて斬りかかる。狙撃手は衝撃で銃身が歪み、照準が狂うことを嫌がるから、銃で防ぐ事はしないだろうと見ていたのだ。


 だが、レイジは驚愕に目を見開くことになる。その男はM24を粒子化させると同時に、赤い刀身を持つ刀でレイジの黒刀を弾いたのだ。


「お前に、勝てると思うか?」


「ほざけ!」


 レイジはバックステップで距離を取り、黒刀を構え直す。向き合い、お互いジリジリと時計回りに動き、睨み合う。


 同時に動いた。レイジは地面を蹴って跳躍するかのように推進し、体重を乗せて刀を振り下ろす。それは相手にあっさり弾かれ、躱される。刀身に刀身を添えるようにして制御しつつ、体を横にそらして線をずらすのだ。


 レイジはそのまま推進しつつ、横に蹴りを繰り出し、脇腹をとらえる。足に伝わる衝撃が当たったこと、相手にダメージを与えたことを伝える。


 相手がよろける。レイジは再びどっしりと構え、今度は斜めに袈裟斬りを仕掛ける。弾かれ、返す刀で切り上げ、また躱される。


 敵もやられてばかりではない。ここぞで際どい一撃を仕掛けてくる。レイジに隙が出来ればどこからでも斬撃を繰り出し、レイジはそれを紙一重で防いでいる。


「やばいな……班長は銃剣道の経験はあるけど剣道の経験なんてないはずだ……」


 ケイスケは不安を覚える。撃って援護するわけにもいかず、見ているだけのもどかしさを感じている。


 お互い押し返しあい、距離をとる。相手はエレベーターの外側を垂直に走り出す。暗号か何かで吸着しているのだろうか。


 レイジは足場と足場の間を跳んで敵を追跡する。パスカル、ハミド、アーロンは先に行く、と一言残し、レイジの横をすり抜け、時空の歪みへと飛び込んでいった。


「……兄貴だけにやらせるわけにはいかないよね」


 ショウヘイは魔術銃、ポルックスを実体化させた。白亜の狙撃銃がその姿を現わす。殺すのが怖いなら、殺さなければいい。パスカルからもらったディレイの暗号をこめ、ショウヘイは仰向けに寝転がり、上へと構えた。

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