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見知らぬ世界の兄弟星  作者: Pvt.リンクス
第2章 異世界の生活
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2-24 突撃

『兄貴、突撃準備射撃最終弾行くよ!』


 レイジへは正規の指揮系統とは別にショウヘイがグライアスで状態を伝えてくれる。レイジはもう一度89式小銃の外観をチェックし、異常がないことを確認する。


「それじゃ、行ってくるわ」


『死なないでね。弾着5秒前!』


「5秒前!」


 ショウヘイの声とリョーハの声が重なる。レイジの隣にいるのはケイスケと、草負け防止のためかいたって普通な戦闘服を着たベラたちアマゾネスだ。


「行くぜ皆坂。準備いいな?」


「オーケーですよ、やったりますぜ!」


 アマゾネスもエルフも準備万全だ。風切り音が聞こえ始めた。始まる。


「小隊、攻撃開始! 行進!」


 リョーハの声とともに、パスカルがプロテクトの暗号を発動、バリアで覆う。小隊は窪地から飛び出し、横隊で前進を開始した。


 軍人はアスリートではない、訓練した一般人の集合でしかない。だから、数百mの全力疾走でも体は悲鳴をあげる。


 だからこそ、敵の射程までは確実に行進して体力を温存すべきとリョーハは判断し、まだ速度はあげない。通常のライフルなら、有効射程は700mあるとしても、狙撃眼鏡なしでは当てられるとしても300mがいいところ、拳銃弾を使用するサブマシンガンは100mが有効射程といったところだ。


 敵が撃ってきた。塹壕の方から光が見える。だが、全然当たってすらいない。500m先の人間だ。簡易照準器(アイアンサイト)では狙うのは無理がある。


 当たったとしてもプロテクトの暗号がそれを防いでくれる。外のを防いでくれる代わりに内側からの攻撃も防ぐのが難点だが、こういう時には重宝する。


 300m、射程圏内。来る。リョーハの予感と同時に、バリアへの命中が増え始めた。


「速足前へ!」


 ここから一気に速度を上げて接近する。とりあえずギリギリまで接近していきたいところだ。だが、リョーハは違和感を感じていた。


 ここは偽陣地と言われていた。それにしては、当たる弾が多すぎる。ボルトアクション式ライフルは次弾装填に手間がかかるので、敵が少なければ射撃回数は少ないはずなのに、かなりの量が一度に当たっている。まさか、と嫌な予感がした。


「リョーハ! プロテクトの耐久6割減! なんかおかしいぞ!」


「なんだと、どんだけ削られてるんだよ!?」


 パスカルが珍しく焦っている。まだ100m進んだだけで6割もパスカルのバリアの耐久力を削られるとはおかしい。考えられるのは、予想以上に敵がいたということだ。


「ここって偽陣地じゃねえのかよ!」


 グリーシャが叫ぶ。その次の瞬間、グリーシャが消えた。よく見れば、転んで窪みに落ち、背の高い草に隠れていた。


「そうか、この前の砲撃の弾痕か! リョーハ! 一回伏せて隠れよう!」


「ナイスレイジ! 全軍伏せ! 弾痕に隠れろ!」


 リョーハが叫ぶ。アマゾネスもエルフもそれに従い、弾痕に伏せて身を隠した。そして敵の射撃が止む。全滅したと勘違いしたのだろうか。レイジは匍匐でリョーハに近寄る。


「ここ、主陣地だったか?」


「かもな……リール1、リール1、敵戦力多数、支援要請!」


『予備兵力は殆どない!』


「くそ!」


 本部に支援を要請しても、こちらに回せる戦力が無い。最悪の状況だ。逃げるに逃げられず、進むほかない。その進んでも地獄が待っていることには変わりないのだが。


「あと少しなのに……どうやって進む?」


 ベラは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。エリックたちエルフも自慢の弓の射程まで近づけず、もどかしそうだ。


 もう一回バリアを張って突撃したとしても、さらに濃密になる弾幕で今度はさらに早く破壊されるだろう。さらに、パスカルのプロテクトが1番強力なのだが、再使用まで時間がかかるのだ。ハミドとアーロンは広範囲に張る事は出来ないし、他は自分を守る事しかできない。


「こうなりゃアレだ、草に隠れながら進むか!?」


「懐かしの新隊員の突撃じゃないですかー!」


 ケイスケは思い出す。雨降りの戦闘訓練で匍匐しているときに水たまりが進路にあり、避けた結果、班長に足を掴んで引きずり戻され、結局水たまりダイブする羽目になった昔を。


「それ採用! 各人陣前100mまで草に隠れながら進め! プロテクトで守りながら行けよ!」


 リョーハが叫ぶ。レイジとケイスケはプロテクトの暗号をパスカルから一つ貰っていたので、それを使い、さらには身を低くして草の間を進んでいく。


 4秒、低姿勢で早駆けし、伏せる。それを繰り返してジリジリと接近していく。だが、見えないとしても草を掻き分けたなら草が揺れる。やはりそれで居場所がバレてしまう。さらには、慣れていない者は草から顔を出してしまい、集中砲火を受けることもあった。


「1人やられたぞ!」


「こっちも負傷者!」


 アマゾネスやエルフからそんな悲鳴にも似た報告が飛び交う。戦闘慣れしているリンデンは軽傷は負ったとしても戦闘不能はまだ出ていない。


「負傷者は手当てしてやれ! 死んだ奴は今は置いて行け! あとで回収する! 各個前進! バディ同士で支援しながら敵陣前100m、あの立ち木の線を目指せ!」


 リョーハは即座に指示を出し、前進を継続させる。時間との勝負だ。各バディの判断で前進させ、狙いをつけさせないようにするのだ。


「ホラティウス! 前方15mまで早駆け! 援護態勢よし!」


「了解!」


 レイジはバリアを解いて敵陣へ射撃し、その間にケイスケは前進する。当たっているかどうかはわからないが、相手を怯ませることができればそれでいい。


「ホラティウス到着! 射撃支援態勢よし! 来てください!」


「了解!」


 レイジはケイスケが射撃を始めると同時に、89式小銃の安全装置をかけ、低い姿勢で全力疾走する。見えない死があちこちを飛び交う。その下をかいくぐり、レイジは進み続ける。


「到着! 生きた心地しねえやこれ!」


「そんなのみんなですよ! どうせなら煙幕でも張りましょう!」


「……ハチヨンの発煙弾、あったよな? 使うぞ! 装填頼む!」


 レイジは84mm無反動砲(ハチヨン)を実体化させる。ケイスケは発煙弾を実体化させると、隠れながらレイジの持つハチヨンへ素早く弾を込めた。


「信管着発、発煙弾装填!」


 砲尾をスライドさせて、そこから砲弾を突っ込み、砲尾を閉じて完全閉鎖する。


「完全閉鎖よし、後方よし! 発煙弾装填完了!」


「おっしゃ、リョーハ! 陣前に煙幕張るぞ!」


「やっちまえ!」


「後方よし、発射!」


 レイジがトリガーを引くと同時に、バックブラストが噴き出す。LAMが詰め物を噴き出すのに対し、ハチヨンが噴き出すのは爆風だ。強烈な爆炎が後方へと吹き、発射された砲弾は狙い通りにゆるい放物線を描いて飛んでいく。


 それは塹壕手前に狙い通りに着弾し、白煙を吹き出し始めた。これで敵は狙いがつけられない。こちらが見えにくくなったはずだ。乱射して来ているが、狙えていない。


「うっし、狙い通り!」


「今だ、小隊一気に進め!」


 リョーハが叫ぶ。狙われにくい今ならばと、一気に前進し、立ち木の辺りで止まり、伏せる。ここからはサブマシンガンの射撃やオークの投石がくる。だから、突っ込む前に下準備が必要なのだ。


 煙幕が散り始める。草むらに伏せているので、相手はこちらの姿を見失っただろう。チャンス到来だ。


「砲兵隊、こちらリンデン! 突撃支援射撃要求!」


『了解、5分間その塹壕に落としまくる。巻き込まれるなよ!』


 要請から少し遅れて、遠くで遠雷のような音がした。さらに遅れて風切り音が聞こえ始める。


「小隊、50m匍匐で前進! 突撃支援射撃最終弾弾着と同時に突入する!」


 いよいよ時が来た。同時に、砲弾が落下して塹壕の辺りで炸裂する。それが無数に、雨のように降り注ぎ始めた。


 砲撃が激しさを増す。密度の濃い砲撃があちこちにクレーターを作り、オークやゴブリンを吹き飛ばして行く。轟音とともに聞こえる肉や骨の潰れる音。悪夢のようなその光景。それでも、レイジたちは躊躇うことはない。これが、負うべきものだから。


 レイジは匍匐で指示されたところへ到着すると、素早く銃剣を抜き、89式小銃に取り付ける。そして、半端に弾が残っている弾倉を抜いてマグポーチに戻し、30発入っている新しい弾倉を差し込んだ。


「着剣よし、弾倉交換よし。リョーハ、突撃準備よし! 皆坂は!?」


「装填よし、いつでも行けます!」


「行くぞ! レイジ、突撃の合図はお前に任せる!」


「いいのかよ俺で!」


「お前の方が向いているわけさ。頼んだ!」


 状況が目まぐるしく動く。最終の決を与えるのが歩兵の役割。これからその本領を発揮するのだ。レイジは思わず、グリップをありったけの力で握りしめていた。


『最終弾弾着もうすぐだよ!』


「いいぜ翔平! 小隊、突撃にぃ〜!」


 ショウヘイからの最終弾の合図。風切り音が迫る。グローブが汗に濡れ、額を一筋の汗が伝う。来る。勝負はこれからだ。


『弾着!』


 ショウヘイの声と同時に砲弾落ち、弾けた。破片が頭上を飛び越えて行く。レイジは腹の底から叫んだ。


「前へ!」


 一斉に立ち上がり、全力で陣地へ迫る。雄叫びを上げながらその足で駆ける。装備の重さが体を軋ませる。行きは上がり、足はもつれるが止まるわけにはいかない。オークどもが待ち構えているのだ。砲撃が終わったとみるや、隠れていたオークどもが顔を出し、投石の構えを見せた。


 エルフは突撃せず、後ろから弓で援護する。銃と違って放物線を描いて飛ぶので、突撃する味方を誤射する危険が少ないからこそできる芸当だ。


「制圧射撃!」


 リョーハはその場で横一列で前進しながら射撃を命じる。走りながらではもちろん精度に欠けるが、的が大きい上に虎の子の機関銃がいるのだ。十分補える。


「うおおおおおおおおおおおお!」


 ケイスケのミニミが吠える。激しいマズルフラッシュと反動に耐えながら横薙ぎに掃射する。次々オークたちの体から血しぶきが上がり、斃しきれなかったオークへ兵士たちが的確な射撃をお見舞いし、蹴散らしていく。


「よし、進め! ただし気をつけろ! 隠れてるかもしれないぞ!」


 また横に列を揃えて進む。全力疾走だ。塹壕からはオークが頭を出し、棍棒を構えている。


「やあぁぁぁぁぁぁぁ!」


 レイジは思い切り銃剣を取り付けた89式小銃を槍のように突き出し、オークの喉元に突き立て、追い討ちとばかりに発砲する。3点バーストに切り替えているため、一回トリガーを引いただけで3発連射される。


 喉を貫かれ、更には小銃弾を3発も食らったオークは頸動脈から鮮血を撒き散らし、倒れた。


「おらぁ!」


「死ねやコラ!」


 あちこちから兵士たちが銃剣を突き立て、オークと必死の格闘を繰り広げている。塹壕に飛び込み、突いて、斬りつけて、殴り合う地獄の白兵戦が始まった。


 ゴブリンが数で押し寄せ、オークは圧倒的な力で暴れ回る。その中でも、精鋭の暗号化部隊の兵士たちはよく善戦している。まともにやり合わず、グラビライト石の力で跳んで離脱してはチャンスを見つけて一撃離脱に徹する。パスカルにおいてはグラビライト石の反重力を垂直方向ではなく水平方向に作用させることで、まるで瞬間移動のような高速移動とリストブレードの一撃で敵を圧倒し始めた。


 ハミドは狭い中でも2振りのカトラスを自在に操り、左右から迫るゴブリンを血祭りにあげていく。嵐のようなハミドの剣撃についていけるゴブリンはなく、次々と襲っては斬り倒された。


 着剣したエクリプスMk-Ⅲを槍のように扱い、オークと対等に渡り合うアーロンは吸血鬼としての本領を発揮していた。優れた動体視力でオークの攻撃を紙一重で回避しては鋭い反撃で次々とオークに傷を与え、じわじわと命を奪う。その3人が最もこの戦場で猛威を振るっているようにも見えた。


 アマゾネスたちも、負傷者を出しながらも善戦している。どうやらオークはアマゾネスを生け捕りにしたいらしく、その攻撃にキレがない。殺してはならないから手加減をするのだが、それが殺す気でかかって来ているアマゾネスたちから手痛い反撃を受ける原因となっていた。


「数が多すぎる!」


 レイジはなんとか人間の力でありながらも、銃剣道で鍛えられた着剣小銃捌きでゴブリンをいなし、突きを、斬打撃を、銃床打撃を繰り出して払いのけていく。だが数が多く、疲れで動きが鈍り始めていた。それはレイジだけではない。


 近接武器を持たないケイスケにおいては、死んだゴブリンから奪ったナイフで必死に応戦していた。格闘訓練の賜物か、突きを払ってはカウンターを入れ、なんとか戦っているが、傷が目に見えて増え始めていた。


 レイジを影が覆う。振り向けば、オークの姿があった。死の足音が聞こえる。レイジは咄嗟に89式小銃を粒子化させ、黒ノ呪縛【零ノ式】を実体化させ、先制しようと斬りつける。それをオークは棍棒で防ぎ、跳ね返した。


 レイジはよろけ、後ずさりつつも、鎖を飛ばし、オークの腕をからめとろうとする。それをオークは掴み、引き千切って振り回し始めた。最早手に負えない。リョーハたちが善戦してやっと葬り去れるオークに、レイジは太刀打ち出来ずにいた。


 オークが突っ込んでこようと姿勢を低くし、タックルのような構えを見せた。嗚呼、死ぬのか。レイジはボンヤリと自らの死を受け入れようとしていた。


『リンデン! 支援に来た! 後ろの塹壕を破ったから、そっちにいくぞ!』


 誰かの声が聞こえた。グライアスで全員に呼びかけていたのだ。オークが振り向くと、次の瞬間にはその首にラプトルが噛み付き、首を噛みちぎっていた。


「第1大隊隷下、竜騎兵中隊到着! 待たせたな!」


 次々と押し寄せるラプトルの群れが、まるで天からの救いのようにも見え、レイジはその場にへたり込んでそれを見つめていた。

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