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見知らぬ世界の兄弟星  作者: Pvt.リンクス
第2章 異世界の生活
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2-19 死線を越えて

 夜明け頃、宿営地はにわかに慌ただしくなった。いよいよオークの住処へ進撃するのだ。ショウヘイは緊張を隠しながらも荷物をまとめ、美春を連れて自分の乗る馬車へと向かう。


 美春と繋いだ手は緊張のあまりじっとりと汗ばみ始めた。緊張しているのを悟られたかもしれない。ショウヘイは美春にまで情けないところを見せてしまうのかと思いながらも、やはり背中に吊り下げたライフルを撃てそうにはなかった。


「……翔平、怖い?」


「まあね……怖くないといえば嘘になるよ」


 ショウヘイは戦争なんて経験もしたことない、ましてや喧嘩すらも殆どしたことのない一般の学生なのだ。これで怖いと思わないわけがない。覚悟を決めたレイジですら、時折恐怖を感じるのが戦場なのだから。


「……私も、怖い」


「俺が守る……のは無理かな。兄貴が守ってくれるさ」


 自分の身を守ることすら怪しいショウヘイが守るといっても、不安しかない。レイジはきっと前線にいるから、後方支援の方まで助けに来ることは不可能だろう。それでも、自分が守るというよりは効果あるだろうとショウヘイは情けないと思うと同時に考えていた。


「……死なないよ。私も、翔平も、零士も」


「分かるの?」


「……なんとなく」


 ショウヘイはクスリと笑って馬車へ乗り込む。ショウヘイたちが乗る馬車は以前のものとは違い、よくある軽トラックの荷台のような馬車だ。野ざらしとなる代わりに見晴らしはいい。


 ショウヘイと美春が乗り込むと、他に報道陣だという人たちも乗り込んできた。シャロンやミランダもショウヘイと同じ馬車へ乗り込んだ。


「あ、ミランダさん。どうも」


「あら、お久しぶり。ショウヘイだったかしら?」


「そうですよ。ハミドと一緒にこの前……」


「言わなくても、あんな時にいたなら覚えてるわ」


 それも当然だろう。あれだけドンパチ派手にやったし、一緒に行動したのに忘れるわけもない。撃てなかった事でさえも。


「大丈夫、今度こそ撃てるさ……」


 ショウヘイはもう一度エクリプスMk-Ⅲを握りしめる。殺しという禁忌。相手は人間ですらないのに、どうして躊躇ってしまうのか。相手が、人に近い形をしているからだろうか?


 人じゃないなら殺してもいいというのならば、美春はどうなるのか。ショウヘイは思考を深めるにつれて、やはり殺しへの恐怖を深めるばかりだ。


 かつて、レイジから教わった事がある。とある心理学の本によると、第二次世界大戦以前の米軍の最前線での発砲率は10〜15%と言われいる。しかもそれは敵を殺すという意図の有無も含めての数字であるのだ。残りは敵を撃とうとすらしない。


 そして、朝鮮戦争では訓練法を変えた結果、50%、ベトナム戦争では90%に達したが、代わりにPTSDを患う者が増えたという。


 人は殺されるより殺すことを恐れる。そういうことなのだろう。牛や豚は食べるために平気で(直接では下さないが)殺しているのに、人同士は殺せない。種の保存のために遺伝子に組み込まれでもしているのだろうか?


 ショウヘイは物言わぬ鋼鉄と木の武器へ問いかける。お前はなぜ生まれてきたのかと。なぜ、こんなに苦しいのに戦わなければならないのか。ショウヘイは天を仰いだ。視界に入る木々が流れていく。いつの間にか、馬車は走り出していたのだ。


 ※


 レイジはとある建物に突入し、89式小銃を構えて建物の制圧にかかる。2階の部屋という部屋を徹底的にクリアリングして、安全を確保する。ケイスケも拳銃を持ってクリアリングし、部屋を確保にかかる。


 レイジたちは道中の市街地へ突入した。ここはオークたちが近くに住み着いたことにより、遺棄された市街地なのだ。人がいなくなって久しい建物はあちこちガタがきて、埃をかぶっていた。


「リール10、リール10! リンデン配置に付いた。指示を待つ!」


 リョーハが前衛部隊に連絡を取ろうとグライアスで呼びかけるが、何も返答が来ない。どういうことだとパスカルへ目をやると、パスカルが代わりにグライアスで前衛部隊との連絡を試みた。


「リール10、リール10、リンデン配置に付いている。指示を待つ……クソ、グライアスが通じねえぞ」


 しかし応答はない。魔術にかけてはこの分隊トップクラスのパスカルですら通じないとはどういうことだろうか。レイジとケイスケはとりあえず双眼鏡で窓の外を観察する。8倍双眼鏡はこちらへ向かってくる馬車の縦隊をしっかりと捉えていた。


「パスカル、友軍車列発見。縦隊でこっちに来てるぞ……おい、あれお前の彼女じゃねえか?」


 後ろで地図を広げてリョーハと話をしていたパスカルが飛びつくようにレイジから双眼鏡を奪い取り、車列を見る。そこには、ショウヘイや美春、ミランダと一緒に馬車に揺られるシャロンの姿があった。


「あいつマジで来たのかよ……」


「愛されてるな」


 ちょっとからかってみたレイジは、パスカルにケツを蹴られてよろけた。パスカルが軽く睨んでくるが、パスカルが悪いとレイジは思っていた。


 パスカルは少し横を双眼鏡で見回す。そこに、ゴブリンの姿を見つけたのだ。何か木製の杖を持って、あちこちに指示を出しているかのようにも見える。指揮官であろうか。


「ハミド、アーロン。あれ見ろ。ゴブリンメイジじゃねえか? アリソン嬢、ちょっと見てくれ」


 ハミドはパスカルから、アリソンはケイスケから双眼鏡を受け取り、アーロンは吸血鬼の視力でその方向を見る。ゴブリンメイジに聞き覚えのないレイジとケイスケはとりあえず銃を構える。


「あら本当にゴブリンメイジね。あいつがグライアスを妨害してるみたい。他にいるかはわからないけど……あら、あれって待ち伏せ?」


 ハミドとアーロンもその周辺を見る。そこには、ゴブリンたちが集まっていた。しかも、その手に持っているのは弓矢ではなく、よく見知ったライフルだった。


「奴ら、ライフル持ってやがるぞ! それにあのいびつなのはなんだ?」


 アーロンの言葉に反応したケイスケはミニミの照準眼鏡を使って見てみる。3倍率の眼鏡にぼんやり映ったのは、弾倉給弾式の短機関銃(サブマシンガン)。この世界にはまだないと思っていた銃が握られていた。


「やべえ、なんか知らないけどあの野郎サブマシンガン持ってる! ピーンチ!」


「なんだとこの野郎!」


 リョーハはハミドから双眼鏡を奪って観察する。確かにそこにはサブマシンガンを持ったゴブリンがいた。


 サブマシンガンとは、拳銃弾を使用し、抱えて使用できる小型機関銃と定義される。ライフルに比べれば有効射程は劣るし、初期のものは命中精度も酷い。それでも、ボルトアクション式のライフルに比べて短時間に大量の弾幕を張って制圧ができる。


 つまり、トゥスカニアはまだサブマシンガンの存在すら知らず、下手をすればこのまま待ち伏せで接近された上に、圧倒的な弾幕を受け、地獄の惨状を見せることになるだろう。


「リール10! リール10! こちらリンデン! 待ち伏せだぞ! ……ああもう! グライアスがダメだ!」


「リョーハ、狙撃するか!?」


 ミーシャが既にその辺にあった机と椅子を持って来て窓際にセットし、狙撃態勢を整えている。サンヤもその隣で双眼鏡を使い、観測者として構えている。


「やれ! レイジ、ケイスケもここに置いてくれ!」


「あいよ。皆坂! どっか適当なところにミニミ設置して、奴らに掃射してやれ! サブマシンガン如きが軽機関銃に勝てると思うなと思い知らせろ!」


「あーらほーらさっさー!」


 ケイスケも適当なところへミニミを固定し、射撃準備を整えた。もうすぐ待ち伏せ地点へ車列が来てしまう。


「撃てばラースあたり気づくだろ。撃てミーシャ! 他は下に降りろ!」


「皆坂ァ! やられたら痛そうな奴片っ端から仕留めろ!」


 リョーハとレイジは指示をするなり他のメンバーを連れて建物から出る。


 ミーシャは周りの木の揺れから風向きと風速を割り出し、さらに目測で大体の距離を測って弾道の落下を計算。その分修正して、ゴブリンメイジを狙撃した。


 銃声が響く。銃床に押し当てていた頬骨が衝撃で痛む。そして狙撃眼鏡に映ったのは、頭から血飛沫を撒き散らしながら倒れるゴブリンメイジの姿だった。それを見ていたサンヤは車列に連絡を試みる。


「リール10! リンデンは観測位置にいる。その先ゴブリンの待ち伏せ! 武装はライフルと未知の銃! 警戒されたし!」


『リンデン、やっと通じたか! 待ち伏せ了解、こちらは攻撃を行う。援護してくれ!』


「もうやってる! ミーシャ! さっきの奴から左に20のところ! 例の銃持ってる奴!」


「了解!」


 サンヤはさっきの騒ぎからして、『見たことのない銃を持ってるのがヤバイ奴』と認識し、それを的確にミーシャへ伝える。ミーシャはそれを見つけるなり、片っ端から狙撃するが、やはり移動目標は狙いにくいし、大勢集まっていると、ボルトアクションゆえに連射が利かず、上手く倒せない。そんな時はケイスケの出番になる。


「ゲッサムゲッサムゲッサムベイベー! 逃げる奴はゴブリンだ! 逃げない奴はよく訓練されたゴブリンだ! いいゴブリンは死んだゴブリンだけだ!」


『おいコラ皆坂ァ! 今度はイかれたガンナーとどこぞのイかれ大司教猊下が混ざってやがるぞ!』


「グライアスが回復するなりツッコミに使う班長もどーかと思いますがね! というか元ネタ知ってるのかよ!」


 ケイスケはミニミで密集する敵へ掃射を行い、レイジたちはその辺の建物に隠れながら待ち伏せ中のゴブリンたちの横っ腹を殴りつけるように襲う。さらにはアリソンが高火力の魔法の詠唱に入っていた。


 サブマシンガン持ちのゴブリンがレイジたちへ突撃を仕掛ける。有効射程まで近寄り、一気に制圧する心算のようだ。


『皆坂ァ! 突撃してくるアホどもに我らが軽機関銃の威力を味わわせてやれ!』


「あいあいさ! 21世紀の武器を喰らえ! まったく、異世界でまでなんでこんな夢のない戦いしてんだ俺はァ!」


 ケイスケは指示通りに突撃してくるゴブリンに掃射を浴びせて倒し、足止めする。もし恐怖で足を止めようものなら、レイジやリョーハの正確な射撃にやられることとなる。


「そーいやアーロン。パスカルとハミドはどーしたよ?」


「伝令ついでに彼女を助けに行ったよ。ほらレイジ、弟はいいのか?」


「あいつは死なないさ。それに、俺はどの道ここを突破しなきゃ行けないしな」


 レイジは少しでも早くゴブリンを制圧し、ショウヘイの元へ行きたい。そんな思いがにじみ出ているのをアーロンは察していた。


「準備できたわ! 隠れて!」


 アリソンの詠唱魔法の準備ができたらしい。レイジたちはその辺に身を隠したり、伏せたりして防御態勢をとる。それを確認したアリソンは待機状態の詠唱魔法を発動させた。


「こういうのよね。月に代わってお仕置きよ!」


 どこで仕入れたんだそのネタは!? というレイジのツッコミは爆音にかき消された。見ると、前方70mほどのところを中心に、半径3、40mほどのクレーターが出来上がっていた。


「わーお……アリソン、さっきのセリフ誰から聞いた?」


「え? アレならショウヘイが『魔法使いはこう叫ぶといい感じ!』って教えてくれたんだけど……」


「翔平貴様ァ! モノホンの魔法少女になんちゅーこと叫ばせとるんじゃお前はァ! というかアレ魔法少女じゃねーだろアホンダラー!」


 レイジは腹の底からアホな弟への文句の言葉を吐き出していた。


「とりあえず今ので打ち止めのようだな。本隊と合流しよう。ミーシャ! 降りて来い!」


 リョーハはミーシャに降りてくるように指示して、合流を待つことにした。

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