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見知らぬ世界の兄弟星  作者: Pvt.リンクス
第2章 異世界の生活
32/66

2-10 初動対処隊

 突如響いた爆音に、その場は凍りついた。そして、一瞬のうちにショウヘイへと目線が集まる。


「なんや!」


「なんやなんや!」


「なんやとはなんや! 俺は無実だ!」


 レイジとケイスケのなんや攻撃になんやで返しつつ、無実を主張するが中々信じてもらえそうにもない。そんな事を考えていたら、ミランダがつかつかと歩み寄り、ショウヘイの手をガッチリと掴み、手の甲に転写された暗号を確認し始めた。


「……これはただの光を打ち上げるだけの暗号。それに発動ミスしてるからこれじゃない、他の何かよ!」


 すぐに無実とわかり、ショウヘイは肩の力を抜いた。だが、それと入れ違いになるようにレイジとケイスケがそれぞれの武器を実体化させて戦闘態勢に入っていた。


「おいパスカル! なんかラドガで訓練とかしてるか!?」


 ハミドは即座にグライアスでパスカルに連絡を取る。レイジたちもそれにグライアスを同調させた。無線機のように、うまく同調させれば全員が聴くことができる。


『何もしていないぞ。トゥスカニアも駐屯地に引きこもって……待て、ゼップのところへスペンサーからなんか報告が来た。暴動らしい。ハミド、休養中悪いがレイジたち連れて行け。トゥスカニアも即応体制取れてる小隊しか出せないと言ってる』


「40秒で支度しろよ! 皆坂スタンバイ!」


「異世界で初動対処隊に上番とはね……班長、俺も89欲しいです!」


「ミニミ使え! 火力要員だからなお前は!翔平、武器はあるな?」


「う、うん……!」


 ショウヘイは頷く。粒子化させたV-34ポルックスと、トゥスカニア一般兵用の装備がある。ショウヘイはポンチョを実体化させて纏い、ポルックスも呼び出した。白亜のライフルがショウヘイの手の中へ収まる。


「いいか、お前は皆坂とここにいろ。非戦闘員はここは残す。お前と皆坂がここを守る。いいか、破られたらみんな死ぬ。お前にかかってると思え。いいな?」


「う、うん……やれるかな?」


 そんな不安そうなショウヘイの肩にケイスケが手を置く。完全武装した自衛官としての姿になっても、ケイスケは笑顔を崩さず、安心感を与えようとする。


「大丈夫。大体のやつは俺が片付けるから。翔平くんは援護してくれればいい。パスカルがやったみたいに、暗号を込めて狙撃してよ。殺さなければ撃てるでしょ?」


 ショウヘイは少し迷いながらも縦に頷いた。自分が負うべき罪を彼は肩代わりするという。この手を綺麗に保ちたいから、他の人に手を汚させる。そんな気がした。ショウヘイはその悔しさに唇を噛みしめる。


「ハミド、指示を」


「俺とレイジで見てこよう。他の2人はここでミランダと美春を守ってやれ! アリソン嬢とルフィナ嬢は自力でどーにかなるだろ!」


「当たり前じゃない。魔術師の力を嫌という程見せてやるから安心しなさい!」


 アリソンとルフィナはどこか得意げだ。レイジは最後にケイスケへと防御の指示を達した。


「皆坂、布陣はお前に任せる。俺としては二階窓から10時方向50mの位置に見える十字路にKPを配置することを強くお勧めするぜ。FPLは機関銃手のお前の方が仕掛ける位置わかるだろ」


 KP、キルポイントとは、殺傷地点を示し、予めそこに火器を向けておくことで、霧などで視界がなくとも敵を撃破できるような設定されている地点である。今回はそこにトラップを仕掛けて敵を足止めしてやれという指示だとケイスケは理解した。


 また、FPLとは突撃破砕線を意味し、主に陣地の手前に設定される最終防衛線である。ここに鉄条網などのバリケードを敷設し、それと平行に機関銃等を設置する事で敵の突撃を効率的に破砕する。今回は鉄条網がないので、横合いから機関銃で掃射するだけだ。それでも横合いからの一撃は猛威を振るうだろう。


「了解。とするもKPは暗号を用いた地雷的なものくらいしか仕掛けられませんね。ハチヨンもLAMも二階の狭い部屋からじゃ撃てませんし」


 ハチヨンこと84mm無反動砲は後方に10m、LAMは5mほど距離をとらなければ射撃時に爆風が出るので危険なのだ。つまり、ここでは無用の長物といえよう。


「アリソンとルフィナは、何か攻撃出来そうな魔法とかある?」


「もちろんよ? 火力ならお任せ! 作戦を教えてくれる?」


 アリソンが自信ありげにしているのを見たレイジは、ここは任せてもいいだろうと判断し、ハミドとともにミランダの家を飛び出していった。


「よし、応急防御と行こう。まずはKPだね。翔平くん、さっき習った暗号で地雷みたいなの作れない? 踏んだらドカン! といくようなのを!」


「出来ますけど……大丈夫なんですか? 人が避難してる時にそれ踏んじゃったら……」


「いい着眼だよ。ちょっと聞いてみよう」


 ケイスケはショウヘイの言葉を聞き入れ、レイジへ相談することにした。即座にグライアスをレイジへと繋ぎ、連絡する。


「シュレディンガー、こちらホラティウス。問題発生。KPに暗号で地雷設置した場合、避難民が触雷する恐れあり。対応の指示を」


『ホラティウス、シュレディンガー。敷設は待て。その地雷って目標選んだり出来ないか?』


「……翔平くん、目標絞ったりできる?」


 ショウヘイは少し考える。ミランダから習ったものを組み合わせても自分には難しそうだ。ミランダやアリソンに目をやると、少し難しそうな顔をしながらアリソンが答えた。


「出来るとしても重量で選別するくらいしか出来ないわ。暗号の限界ね。細かく絞るのは難しいわ。設置して、任意のタイミングで起爆なら出来るわよ?」


「……シュレディンガー、聞こえてました?」


『直接傍受。KP地雷設置は現状、手動起爆のみ。FPLも設定だけして、そこから定点監視。暴動の原因とやらをそっちでも探ってくれ。終わり』


「だってさ。アリソン、設置やってくれるかい?」


 ケイスケが頼むと、アリソンは自信満々といった笑顔を見せた。


「まーかせなさい! 私に任せればドカン! よ! ショウヘイ、付いて来なさい!」


「え? 俺!?」


 ショウヘイはアリソンに引っ張り出され、レイジが指定した十字路へトラップを仕掛けに行くことになった。ショウヘイの役目は暗号をセットしているアリソンの援護だ。つまり、敵が来たら撃たなければならない。


 武器はポルックスからエクリプスMk-Ⅲに持ち替えている。魔術銃じゃない。当たれば相手の命を奪う銃弾が放たれるのだ。学生服には似合わない鋼鉄と木で出来たライフルに、ショウヘイはある種の恐怖心を抱いていた。


 レイジを真似するかのようにライフルを構えながら道を進んで行く。アリソンも魔術銃を構えながら進んでいる。どこからか悲鳴が聞こえ、足音も聞こえる。遠くの空が赤く見えるのは火が放たれたからだろうか。


 ケイスケが既に銃座を構え、後方から援護態勢を取って守ってくれている。それでもダメな時は、覚悟を決めなければならない。殺しの恐怖が、ショウヘイの心を満たす。殺されるより殺すことを恐れる。殺しの罪が勝っているのだ。


「しっかりしなさい、作業中はショウヘイが頼りなのよ?」


「わ、わかってるよ……!」


 ショウヘイはもう一度グリップを握りなおし、十字路をあちこち見渡す。敵らしき影はなく、避難する人の姿が散発的に見える程度だ。


「よし、作業始めるわよ!」


 アリソンが爆発する部分を、付いて来たミランダが起爆部分の暗号式をチョークで描き始める。道のど真ん中での作業だ。危険極まりない。それを守るのがショウヘイの使命。十字路ゆえに、一部はケイスケの機関銃の死角となってしまうのだ。


 ショウヘイはしゃがんでエクリプスMk-Ⅲを構えている。額には冷や汗をかき、木製のグリップも手汗で湿り始めた。足は震え、ライフル自体を構える腕もブレる。


 引き金に指をかけることも躊躇う。レバーを引いて、初弾を薬室へ送り込むだけでも手が震えたのだ。射撃準備がどれだけショウヘイにとって恐ろしいと思えることだろうか。


「アリソン、まだ!?」


「もう少し!」


 誰も来ないでくれ。ショウヘイはそう願っていた。撃ちたくない。自分が殺したという事実に心が耐えられるか分からない。


「出来た! ミランダは!?」


「終わった! 戻るわよ!」


 2人が作業を終えた。なんとか誰も来ないで終わった。ショウヘイは一先ず安堵しながら、ミランダの家へと戻り始めた。


 ※


 一方レイジはハミドと共に屋根から屋根へと飛び移り、爆発の発生地点へと向かっていた。89式小銃は粒子化しており、代わりに右手にはレイジの魔術銃、V-33"カストル"がある。


「もうすぐだ! 爆発はなんか直線というか道なりに起きてるから、辿れば見つけられるぜ!」


「何が相手なんだマジで!」


 ハミドにそう言っても埒があかないが、そう叫びたくもなる。こんな異常事態だ。トゥスカニアの先遣隊も爆発を追って駆け回っていた。


「ハミド、あれ見ろ!」


 レイジが眼下の路地に見つけたのは、人より大きな体。それはレイジには見覚えのある、オークの姿だった。オークがラドガへ襲撃して来たのだ。


「おい嘘だろう、どうやってここへ来た!? いや、それより奴を仕留めねえと!」


 爆発の正体はオークがあちこちに投げている瓶だ。中に爆薬でも仕込まれているのだろう。それにしてもオークにあんなものを作る知能があるのだろうかとレイジは疑問に思いつつ、オークへ攻撃を加えようと、89式小銃へ持ち替えた。


「クソが、民間人にちょこちょこ犠牲が出てる……仕留めよう!」


 レイジは屋根の上からオークを狙撃する。オークは逃げる人を追いかけるのに夢中で、屋根の上のレイジに気付いていなかった。まず、棍棒を振り上げていたオークが頭に銃弾を受け、がくりと体が揺れる。


 次に、あの雑貨屋の娘を生け捕りにしようとしたオークが足を撃たれ、その場にもんどりうって倒れ、追撃の弾丸を数発受ける。その内の2発ほどが脳天を捉え、その生命活動を停止させた。


 流石に銃声に気づいたオークたちがこぞって目標をレイジへ変える。だがレイジがいるのは3階の屋根の上。登る前に狙撃されて落とされるのが関の山だ。


 レイジは双眼鏡で爆薬を持っているオークを見つけ、また撃つ。数発無駄にしたが、瓶に弾丸が命中し、オーク数体を巻き込む爆発を起こした。


「ホラティウス、シュレディンガー。敵はオークと判明。繰り返す、オークだ。民間人がそっち方向に逃げるから防御態勢取れ」


『ホラティウス了解!』


「そいじゃ、俺が奴らに斬り込んでやる。レイジは民間人逃がせ。やれるか?」


「簡単。トゥスカニアもそろそろお出ましだろうしな!」


 ハミドはニヤリと笑って屋根から飛び降り、空中で2本のカトラスを抜き放ち、オークへと斬りかかる。その2つの刃はオークの両肩に深々と食い込み、肩から腕を斬り落とした。血液が勢いよく噴き出す。


 こいつはもう放置しても死ぬだろうとハミドは判断し、目標を切り替える。振り回される棍棒をしゃがんで躱しつつ、その足へ斬撃を繰り出す。巨体を支える足を集中的に狙い、機動力を削ぎ、動けなくなったところで急所に一撃を加え、仕留めていく。


「おらおらおら! 葬儀屋はここだぜ、葬られてえのはどいつだ!」


 ハミドはカトラスを握ったまま、手の甲に転写しておいた暗号を発動させる。辺りの石畳が震え、浮かび上がった。ハミドの暗号によって磁力を与えられ、それをハミドが意のままに操っているのだ。


「さて、仕置の続きだぜ豚野郎共!いい声で鳴けや!」


 ハミドは石を竜巻のように回転させる。高速回転する石の塊は最早凶器だ。頭部や足、腕、胴体へ叩きつけられた石の塊は骨を砕き、内出血を起こし、最悪内臓破裂を起こさせる。


 そんな悪夢の暴風雨に、流石のオークも為すすべはない。レイジが襲撃を受けた時にいたのは普通の傭兵だった。だが目の前にいるのは一流の箔のつく暗号屋。上手く立ち回れば格上の相手も圧倒出来るのだ。


「ハミド! この辺は大体いいぞ! 下がろう!」


「おーうよ! ちょっと分が悪いわこれ!」


 オークは仲間の死体を盾に石を防ぎ、ハミドと距離を詰めてきた。そろそろこの手を使って倒すのは限界だろう。ハミドはその場に置き土産とばかりに爆発系の暗号を残し、撤退を始めた。


 ハミドは安全距離まで逃げてから暗号を起動し、爆破する。レイジは逃げるハミドを援護すべく、その場で89式小銃を構えていた。


「ハミド! 早く!」


「わーってるって!」


 ハミドと合流するや否や、レイジも小銃に安全装置をかけて撤退を始める。黒煙の向こうからオークたちが追いかけてくる。


「ホラティウス! オークに追いかけられてる! そっちに逃げるから援護!」


『はいはーい、KPもFPLも設置完了、すぐにでもいけますよ!』


「だ、そうだ。ハミド、ミランダの家まで行くぜ!」


「ミランダにオークが近寄るのは我慢ならねえが、やられたら仕方ねえ。行くか!」


 2人は息急き切って走り、防御体制の整ったミランダの家まで、オークを引き連れて行く。捕まったら地獄だ。男なら間違いなく惨殺。女はもう想像もしたくないような目に遭わされる。だからこそ、ここで殲滅する。


「ところでハミド、オークどもの習性ってなんかあるか!?」


「あのイカれ頭のことなんてしらねーよ! 女とお楽しみは巣に連れ帰ってからとかは聞いたけどよ!」


「よし、ここで血祭りにすれば被害者なしだな」


 レイジは逃げながらもカストルを後方へ乱射して反撃し、着々とオークの数を減らしていく。LAMという切り札は限りがあるからまだ使わない。魔術銃ならいくらでも撃てるのが強みだ。


「ちょーっと俺も戦果を稼ぎますかね!」


 ハミドもトラップを仕掛け、追いかけるオークを次々と地雷型の暗号で粉砕して行く。それでも追跡を鈍らせない。物量に物を言わせて押しつぶすのがオークのやり方だ。だからこそ、どんどん繁殖しなければならない。こうして被害が増えるのだ。


「KPまで100m! ホラティウス、スタンバイ!」


 レイジは悲鳴のように叫び、足を無理矢理動かす。兵士というのはアスリートではない。訓練した一般人の集合でしかないのだ。だから高々数十メートルの全力疾走で体は悲鳴をあげる。足がもつれて息は上がり、思考も鈍る。


 それでも走らなければ待つのは死だ。だからこそ、体に鞭打って2人は走り続けた。

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