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見知らぬ世界の兄弟星  作者: Pvt.リンクス
第2章 異世界の生活
24/66

2-2 人の器の有り様は

 グナイゼナウは予想以上の都市であったとレイジとショウヘイは身を以て思い知らされた。まるで祭りでもやっているような活気が大通りを包んでいる。道を歩けば商店がひしめき、盛んに客を呼び込んでいる。道端では大道芸人が玉乗りを披露し、何かの料理のいい匂いが食欲をそそる。ラドガとはまた比べ物にならない。さすがは首都だ。ショウヘイはそんな感想を抱き、目を輝かせながら歩く。


「謁見の後に見る時間があるから、今は我慢してくれ」


 ゼップがショウヘイの心を読んだかのように声をかける。顔には出さないが、レイジとケイスケも見学したくてたまらなかった。せっかく異世界に来たのだから、学べるものは学びたい。情報はあって困るものではないのだ。知は力なり。


「と言っても、今見てるだけでも相当だよね、ここ……」


 ショウヘイは思わず声を漏らす。東京とはまた違う熱気に包まれたグナイゼナウに、感嘆の声を漏らすのは当然とも言えよう。


「中に入ればもっとすごいさ。ハミドは迷子になって出てこられなくなったからね」


「おいゼップ、それを言うなよ!」


「俺に見つけてもらうまで路地裏で小さくなってた奴がよく言う」


 どうやら、パスカルが迷子のハミドを探し出したらしい。まさか護衛が迷子になるなんて誰も思いはしなかっただろう。そして、案外ハミドは寂しがりなようだ。隅っこでガタガタ震えている姿を想像したら笑えて来てしまう。


「とりあえず、謁見もだけどやる事もあるからね。王立魔導研究院に口添えするように頼むんだし」


 ゼップのその一言にレイジ、ショウヘイ、ケイスケが反応する。ゼップはレイジとの約束を守り、帰還のための方法を探す手伝いをしてくれるようだ。相手は王族である。かなりのアドバンテージといえよう。


「良かったな、3人とも。帰れるなら帰ったほうがいい。心配されてる事だろうからな」


 アーロンが微笑みながら言う。これが吸血鬼だから世の中わからない。ショウヘイはそんなことを思いつつも、アーロンに対し好感を持っていた。穏やかで、常に余裕を持っている大人な姿に、ショウヘイは憧れを抱いていた。


「行方不明になったら捜索になるしな。城まではどれくらいかかる?」


「空中回廊を通ればすぐだ」


 パスカルが指差したのは、長い橋だ。都市に放射状に伸びる橋は王城に行くための通路で、関係者以外の通行が制限されているため、町の混雑に悩まされることなく辿り着けるようになっているのだ。


 一行は空中回廊の階段を上り、橋から街を見渡す。あちこち混雑しているのがよくわかる。まるで、都市の空撮写真でも見ているかのように、街の全容が一望出来る。見晴らしのいい場所だとショウヘイは感じ、思わず持っていたスマートフォンで写真を撮った。


「凄いんだな、グナイゼナウ」


「首都だからね。国の威容を見せつけているのさ。外国の使節に見くびられないためにもね。もちろん、他の理由もあるんだけど」


 ゼップは空中回廊から景色を見渡しつつ、レイジの呟きに答えた。ゼップにはこの街に何か思うところがあるのかもしれない。王の器と兵士の器では大きさが違いすぎて、レイジには計り知れずにいた。


「あれが見えるか? 赤レンガの建物で、尖塔が一つ横についてる。あれが、王立魔導研究院だよ」


「……横浜の赤レンガ倉庫?」


「そんなわけないだろ……」


 レイジは苦笑いしながらショウヘイにツッコミを入れる。尖塔だけを除けば確かにそうも見えなくはない。ショウヘイのせいで本当に横浜の赤レンガ倉庫に見えてきてしまうから勘弁してほしいとレイジは思った。第一、ここに海はないのだから。


 空中回廊を雑談しながら歩いて、いつの間にか城の門へたどり着いた。歩哨がライフルを構えるが、ゼップに気づくとすぐに捧げ銃をして敬礼した。トゥスカニアとは違い、黒の戦闘服に身を包んでいる。


「ゼップ、あの歩哨はどこの部隊だ?」


「王国近衛師団だよ」


 レイジはふーんと唸る。王がいるのだからやはり近衛はいるのかとレイジは納得していた。


「で、ゼップ、待ち時間はどれくらいだ? いつも謁見には時間がかかるからな」


「いいや、今日は1番乗りさ。パスカルが飽きるからね」


「俺はガキか」


 パスカルが少し不満そうにする姿がなんとなく面白いとショウヘイは思った。まるで友人同士の掛け合いのように見えた。


「どっちでもいいさ、早く用事が終わるならそれでいいよ」


 レイジが言う。早く仕事が片付くに越したことはない。ダラダラ長く効率悪く仕事をしたところで、やる気が削がれて行くだけでなんの成果も上がらないのだから。


 城の中は赤い絨毯が敷かれ、高い天井にはシャンデリアが吊るされている。壁には絵画が飾られ、歩くたびに違う景色が目に入ってくる。透明な窓の外には豪華な庭園が見え、みる人々を楽しませている。


 見る者を圧倒する豪華な景色。外国から来た使節に対し、最初に見るこの景色でこの国の凄さを見せつけている。侮られないためにも、こう言うのは必要なのだろう。


 ショウヘイは思わず景色をスマホのカメラで撮影する。記憶に残しておくだけの価値のある景色だ。こんな体験ができるのはもう無いだろう。生きている間に異世界転移なんていう超常現象に巻き込まれただけでも貴重なのだ。見れるものは全て見ておきたい。


 長い廊下を越え、控えの間を通過してやっと謁見の間の扉にたどり着く。人の背丈よりもはるかに高く、王家の紋様と思わしき刻印が刻まれている。


 内側から扉が開けられる。赤い絨毯の続く先にはかなり高くまで続く階段があり、その先に玉座がある。痩せた、白ひげの王がそこに座り、絨毯を挟むように各大臣たちが整列していた。


 ゼップが前へと進む。レイジたちもそれに付き添うように前へと進んで行く。大臣たちが隣とヒソヒソ話をしている。クロノスの招き人とやらが気になって仕方ないのだろう。迷彩服なんて独特すぎて、何かのまじないかと思われているのかもしれない。


 それでもレイジは何も恥じることなく、臆することなく歩みを進める。ケイスケも同じだ。ショウヘイは異様に飲まれそうになりながらもレイジの背中を追い、震えることなく歩き出した。


 ある程度のところまで接近し、ゼップは歩みを止めて跪く。王に対する礼らしい。ショウヘイもそれに倣い、パスカルたち護衛も跪く。


「捧げー! (つつ)!」


 レイジは声高に号令をかけ、ケイスケとともに捧げ銃をする。銃を地面に垂直にして、顔の前に銃口あたりが来るように持つ。これも立派な敬礼である。それに対し、王は黙礼する。


「楽に」


「立てー! 銃!」


 レイジが再び号令をかけ、立て銃の姿勢に戻る。銃口あたりを持ち、銃床を地面に立てるこの姿勢はなんだかんだ楽なのだ。ミニミでの捧げ銃はなかなかに辛いので、ケイスケは早いうちに立て銃の号令がかかった事に安堵を覚えていた。


「はるばるご苦労、王子。ようこそ、クロノスの招き人。此度の活躍は既に聞き及んでいる。ご苦労であった」


「お褒めに預かり恐縮至極……ゼップ、ごめんあと頼んだ」


 話がこれ以上続けられそうにないレイジは小声でゼップにバトンタッチする。察したゼップがレイジに代わって話を始める。


「此度は彼らの活躍が著しく、報告にあった通り異世界へ反逆者が逃げ込んだ際には彼らの道案内のおかげで見事斃すに至りました。彼らは軍人と一介の学生です。元の世界への帰還を望んでいます。今回の働きの対価として、王立魔導研究院に協力を要請したいと存じます」


「いいだろう。私から口添えする。異国の者が我が国に尽くしてくれたというのに、対価もなしでは面目が立たん。各大臣と協議して、追って連絡しよう。すまんな、折角なのにあまり時間が取れなんだ」


 レイジはチラリと周囲を見渡す。特に反対の声を上げる者はいないようだ。得体の知れない連中にはさっさとお帰り願いたいのかも知れない。なおさら好都合というものだ。


「いえ、お気遣い恐縮至極。失礼します。行くよ、みんな。レイジ、ちょっと話があるから来てくれ」


「了解、皆坂と翔平はパスカルと行動してくれ」


 レイジたちは謁見の間を後にする。その後ろ姿を王は物憂げに見送っていた。


「ご心配なのですか?」


 王の側近が声をかける。王は目を伏せ、それに答えた。


「ああ。私はそう長くない。ヨーゼフは、彼らから何を学び、どのようになるかが心配なのだ」


「カリニスの呪い……お言葉ですが、今ならまだ間に合います。退位して余生を送られては?」


 それに対し、王は目を伏せたまま薄く笑みを浮かべ、首を横に振った。


「これは私の過ちに対する罰なのだ。私はこの国の王として、自らの過ちを生きているうちに正し、それから次に受け継ぐ。これは、私が背負うべきものなのだよ」


 臣下たちは目を伏せる。かつて、世間知らずのままに即位し、悪臣の言うがままに暴政を振るったお飾りの王は更生した。だがもう遅かったのだ。暗愚な王は早死にするという、カリニスの呪いが王の命を蝕む。自らの死を知り、逃げる術を知りながら向き合う姿勢に、古い臣下たちは感激と後悔を覚えていた。


 ※


 レイジはゼップと廊下を歩いている。ショウヘイたちが通る道とはまた別なところだ。一体何を話そうというのか、どこへ行こうというのかレイジには想像がつかなかった。


「ゼップ、話ってなんだ? というか謁見短くね?」


「仕方ないさ、スケジュールがぎっちりだから時間が確保できなくてね。とりあえず軽いのから。この前ショウヘイが回収して来た女の子なんだけど、身寄りが見つかっていなくてね。トゥルク駐屯地で保護してるけど環境が環境だ。レイジ、面倒見てやってくれないか?」


「兄妹増える程度に思っていいなら、な。養育費そっち持ちで頼む。俺ら無一文なんだから。予算以外のところはお兄ちゃんのプロに任せろ。なんとかする。というか、あの子人間じゃないよな?」


「彼女は妖狐っていう種族で、東の島国"飛鳥"にいるはずなんだけど……ロクデナシの奴隷商人に連れてこられたらしい。そっちの方も今調べてる」


「家族が心配してるはずだしな。それまでのケアなら。で、もう一つなんかあるだろ?」


 ゼップは気づかれたか、とばかりに苦笑いを浮かべ、打ち明ける。


「スペンサー卿の息子がレイジの話を聞きたいらしい」


「は?」


 レイジはフリーズしてしまった。何かまた厄介な事に巻き込まれそうな気がしてならなかったのだ。そんなレイジをゼップは無理矢理引っ張って行く。考える時間を与えないとばかりにだ。


 ゼップはとある部屋のドアを開け、中にレイジを引きずりこむ。レイジはどんな奴が相手でもヘマをしないようにと、様々なパターンを脳内でシュミレートしている。最悪なのは、相手が下手にプライドとやらに凝り固まっている場合。まともに取り合ってもらえないと見て間違いない。見下したいだけで呼んだという可能性に行き着く。


 そして、レイジはあれよあれよという間にある一室に引きずり込まれた。そこにはスペンサー卿とその息子、金髪を短く切りそろえた細身の青年がいた。彼もまた赤い軍服に身を包み、腰にサーベルを提げている。


「やあ、君が例のクロノスの招き人だね。僕はアドルフォ・モラティーノス。士官学校4年兵だ。会えて嬉しいよ」


「久しいな、レイジ。あの馬鹿でかい鉄の塊で化け物を吹き飛ばしたんだとな?」


 アドルフォと名乗ったスペンサー卿の息子はどうやら話のわかる人物らしい。身なりもしっかり整えている。士官学校でしっかり躾けられたのだろう。


「初にお目にかかります、アドルフォ4年兵。そしてお久しぶりです、スペンサー卿。先日は援護ありがとうございました。陸上自衛隊中央即応連隊所属、カンザキ・レイジ3等陸曹です。以後お見知り置きを」


「そう堅くならなくていいよ、僕が無理無理呼んだんだからさ。それでまあ、聞きたいことというのが、君の世界での戦術なんだけど……大丈夫かな? 卒業論文で題材にしたいんだ」


「まあ……ある程度なら」


「本当かい? 助かるよ!」


 アドルフォは本当に喜んでいるように見える。スペンサーも興味があるようだ。レイジはこの世界に来て、仲良くできそうな人物と出会えたことに少しだけ、胸を躍らせた。

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