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異世界に響く銃声  作者: レコア
第2章 召喚された高校生銃士
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第八話 異世界でも不幸は起こる

人は団結する時、集団行動を円滑にするため階級や役職を決める。しかし指導者はこれが与える権力に目と心を奪われ、労働者層は圧政に苦しみやすい。革命の原因だ。

傭兵の男はすでに仲間が遺品回収をしたようなので、謝るだけでその場を離れ、魔物の下へ向かう。他の核も回収したが、やはり黒っぽい藍色で、どう考えても青くなかった。1体だけいたデカいやつも若干大きいだけで色は変わらないようだ。大きさだってドングリの背比べレベルの差しかない。とりあえずナイフをくれたおっさんのところに戻り、核を見せる。

「クズ核か。こんな奴らに殺されるなんてこいつらもついてないな。護衛が如何に役立たずだったかがよくわかるぜ。あんたは命の恩人だから、普通ならこんな物買い取らないが、約束通り買い取るよ。4つで4フルかな」

「買い取ってくれるのはうれしいんだけどよ。その4フルってどのくらいの価値なんだ?」

「フルは王国の通貨だ。今王国は物価が高めだが4フルあれば安宿に1晩泊って飯を食う分には問題ないと思うぞ」

4フルで宿に一泊できるなら、1フル1円じゃないよな。1000円くらいの価値があるのだろうか? あるいは1万くらい?

「そっか、サンキュー」

「さんきゅー? まあ、とりあえず穴が掘られたらしいから遺体を運ぶ作業も手伝ってくれ。護衛の連中が一番身分低いから、あいつらから先だな。身分の低いやつを下に、こいつらは商人見習いだから護衛より上に入れて埋めるんだ」

別々の墓を掘るわけじゃなくて集団で一つの墓なのか。しかも上下関係が決まっているらしい。

「護衛はどうして身分が低いんだ?」

「そりゃ兄ちゃん、あいつら少し前の村で雇った民兵だからだよ。騎士様みたいな軍人とかは俺達商人より身分が高いし、冒険者の傭兵は俺達と同等か少し下なくらいだが、金で雇う民兵はそれ以下なんだぜ」

「身分か、複雑なんだな」

やっぱり騎士とかいるようだ。冒険者というのも気になるが、身分制度は結構めんどくさそうだ。

「死んじまえばみんな変わらないとは思うが、そこはきちんとしないとあとでもめるからな。バレなきゃわからないし、俺にとっちゃ民兵なんてどうでもいいんだが、遺体は可能な限り埋めないと魔物や野獣の餌になって交通路が危険になるからな。結局は俺達商人の首が締まるわけで、こういうのはしっかりやる方が得なのさ」

「なるほどな。やっぱり魔物がはびこるのはめんどくさいよな」

護衛達の遺体に向かいながら、おっさんとそんな会話をした。いくら命の恩人とはいえ、見ず知らずの俺にいろいろ話してくれるのはありがたい。職業上の階級ではなく、立場的な意味での身分も存在するあたりはやはり異世界だ。護衛の遺体を生き残った護衛といっしょに運ぶ。喧嘩は終わったのか、ピリピリした空気が漂いつつも遺体を運ぶ時は護衛もおとなしかった。穴は結構深く、俺の身長でも立った状態で隠れられるほどだ。ゲームの塹壕を彷彿とさせたが、横幅は人二人がぎりぎり横に並べるほど、長さは一番背の高い遺体より少し大きいぐらいに掘られていた。一番背の高い男が護衛の一人だったようで、彼の遺体が最初に入れられる。感想があるとすれば、雑の一言だ。まるでゴミでも埋めるかのように勢いをつけて放り込まれたり、穴のふちに置いて蹴落とされたりしていた。商人の見習いも似たようなものだったし、商人に至っては穴へ入れられる時に顔が笑っている奴が居る始末だった。生前に確執でもあったのだろうが、いくらなんでもひどすぎると思う。遺体は全部で10体、元が22人だから、半分弱が死んだ事になる。穴も一つでは収まりきらず、2つめが掘られ、全部の遺体が入ったのを確認して土がかけられた。完全に土をかけた後、草木を少し乗せていたのが気になっておっさんに聞いたら、あまりに周囲と違うと不思議がってそこを調べたり掘り起こしたりする魔物が居るそうで、カモフラージュの役目を果たすそうだ。名前は聞き忘れたが、葉に魔物が嫌がる臭いを出す効果がある草らしい。結局、燃えた馬車は焼け落ちてどうしようもなかったらしく、邪魔にならないように大きな破片を道からどかしてあとは放置するそうだ。残った馬車は3台、馬は各馬車に1頭ずつと、護衛が乗ってきたものが4頭、焼け落ちた馬車用の牽引馬が1頭だった。本来はもっと馬が居たそうだが、魔物の襲撃と火事で逃げ出し、森の中へ消えてしまったらしい。夜の森に探しに行くのは危険が多すぎるし、3人しか居ない護衛に探しに行かせてその間にまた襲われても困るので馬はあきらめるそうだ。商人達の損失はひどい物だと思うが、おっさん曰く魔物5体に襲われてこの被害ならまだ軽い方だという。普通魔物に襲われて護衛が役に立たなかった場合、護衛を放置して馬車で逃げ出すしかないらしく、今回のように挟まれた時は走って散り散りに逃げ、バラバラになった所を魔物に襲われてほとんどの人が助からないらしい。馬車が3台も無事に残り、半分近い人がケガ程度で済んで生きている状況は幸運なんだとか。後で生き残っていた商人全員と商人見習い、下男などからお礼を言われた。護衛達は反対に商人達から散々に罵倒されていて気の毒だったが、彼らも生き残れただけで幸運と思っているらしく、特に反論したりはしていないようだ。また、異世界の定番、奴隷の存在も確認した。おっさんとは別の商人が連れていたが、イメージと違って別にみすぼらしい恰好だったり、首輪が付いていたりするわけでもないようだ。おっさんに聞いてみると手に契約による魔法陣が付いており、それがいわゆる首輪の役目を果たすらしい。魔法でロックがかかっており、命令に従わなかったり主を殺害しようとしたりすると罪の重さに応じて体に痛みが走る仕組みだと言っていた。魔法があるという発言に若干テンションが上がりかけたが、体に痛みが走る魔法陣の話である事に気がついてすぐテンションが下がる。とりあえず護衛達に見張りをさせて、俺はおっさんの厚意で馬車の中に寝場所をもらって寝る事が出来た。硬い木の床に上から薄い布一枚で寝心地なんて全くよくなかったが、戦闘で張り詰めた緊張感が溶けた事や、休憩を挟んだとはいえ長い距離を走った疲れが出てすぐに眠った。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


翌朝、振動で目が覚めると、馬車が動き出していた。おっさんは御者台におり、他の馬車は前を走っている。護衛は前に一人いるらしく、一人は俺が居る馬車の後ろで最後尾を警戒し、最後の一人が余った馬を引いてその後を追っていた。

「おはよう。おっさん、ここはどこだ?」

「おお、兄ちゃん遅いお目覚めだな。今は昨日の野営地から少し離れた位置を走っているぜ。死体の臭いは埋めたぐらいじゃ消えないから、昨日話した草の効果が切れる前に早いとこ離れるのさ。出発する前に起こして護衛をやってもらおうって話もあったんだが、兄ちゃんが疲れた顔して寝ていたから、命の恩人に無理をさせるのも問題があるだろうって事になったんだ」

「気を使わせて悪かったな。護衛とかやった事無いし、馬にも乗れないが、とりあえず後ろの見張りだけでも手伝っとくから」

それくらいなら俺にもできるだろう。後ろには護衛が2人いるが、1人は馬を引っ張っているのでとっさに対応できるやつは1人だけだろうし、昨日の一件を見る限りこの護衛は役に立たないはずだ。馬車で走っているんだから逃げるという選択もありだろう。

「助かる。2日くらいこの道を進んだら小さいけど町に入れるから、町に着いたらみんなで話し合ってちゃんと助けてもらった恩と護衛の分のお返しをするよ。今は手持ちが少ないから、護衛の連中が乗ってきた馬を売った代金から支払うって事にしてくれないか? 商人は信用が命だ。踏み倒したりしないからよ」

「わかった。それじゃ後ろを見とくわ」

「おう、頼むぜ」

おっさんとの会話を終了し、馬車の後ろへ移動する。荷物の隙間に座り、馬車の後ろをとりあえず見ておく。護衛の2人以外は人が見えないし、馬車の音と時々聞こえる馬の息使い以外は音が聞こえなかった。相変わらず静かすぎて不気味な森だが、朝という事もあって一応日差しはあるし、道の上はそれほど木が生い茂っていないので、まだ明るい分マシだった。せめて鳥の鳴き声があればのどかなのだと思うが、全く聞こえないままだ。3時間ほどだろうか、何も変化が無くて居眠りをし始めたころ、アイが突然話しかけてきた。ハッと顔をあげ、一応人に見られても怪しまれないように荷物の陰に隠れる。

『前方に人の集団が感知されました。詳細は情報が不足しています』

(敵意は?)

『敵意感知レーダーの有効範囲外です。距離300m』

一応おっさんの下へ向かう。

「おっさん、この先って休憩所とかあったりするのか?」

「いや、無いけど、なんでだ?」

「あ、いや、何か人の気配がしてな」

理由を聞かれて困り、とっさに気配と答えてしまった。おっさんは怪訝な顔をした後、少し考えてから俺の方を向く。

「別の商隊か?」

「分からねえけどさ、まだ町は先なんだよな? だったら休憩する場所があるのかと思ってさ」

「いや、普通はねえよ。この辺りは川が近くに無いし、この道で一番森が深い部分だから魔物も出やすいしな」

「そうなのか」

おかしい。おっさんの言う通りならレーダーに映っている集団は怪しい。アイに言われるまで気がついていなかったが、確かに確認すると道の先に人が何人も固まっている場所があった。別の商隊がいる可能性もあるが、一応装填をやっておく。荷物の間で行ったので後ろの護衛にも前に居るおっさん達にも見られていないはずだ。しばらくして敵意感知の範囲に入ると、集まった人のほとんどがレーダーに引っかかった。

『前方から敵意を感知しました。数20、距離90m、その他敵意の無い人物が5人ほど居ます』

(やっぱり、何かがおかしい)

そうは思ったが、いきなり前に敵が居ると言っても信じてもらえないだろうし、どうしてわかるのか聞かれた時に説明できない。アイの事を説明している時間は無いし、どうしたものかと悩んでいる内に、先頭の馬車が到着してしまった。

「止まれ! 王国の王命により、検問を行う。全員馬車から降りろ!」

「なんだ? なんでまたこんなところで検問を・・・」

おっさんのそんなつぶやきが聞こえた。前の馬車の商人達が降り始めたのでおっさんも降りようとしている。迷った挙句、俺はおっさんだけでも引き止められないかやってみる事にした。

「おっさん、あいつらなんか怪しくないか?」

「怪しいって、怪しいも何も検問するなんて騎士様だろ? 確かにこんな所でどうしてとは思うが、騎士様の命令に従わないと首が飛ぶから、兄ちゃんも早く降りな。身元を気にしているなら、俺達の恩人って事で何とか話をつけるように努力するからよ。交渉はまかせな、さ、兄ちゃんも早く」

「いや、でも・・・」

「おい、何をしている。早く降りろ!」

「申し訳ありません騎士様。客人は体調がすぐれぬようでして、ご容赦ください」

おっさんが必死にかばってくれている間に俺も降りる。銃は肩に担ぎ、一応警戒は解いていない。おっさんを睨みつける男は確かに騎士っぽい鎧を着ているが、何か違和感を覚える男だった。腰の剣も、鎧も、錆びてこそいないが、どこかボロボロなのだ。他の騎士っぽい連中も似たようなもので、動きやすそうな服に棒を持っただけの奴も何人かいた。馬車の後ろにも何人か回り込まれており、完全に包囲されている。周囲を見回していると、おっさんと話していた騎士がこっちを見て顔をしかめた。

「ふん、変わった護衛を連れているな。異邦人か、向こうの農民出身の民兵や後ろの2人とは違うようだな」

「はい。こちらのお方は魔物に襲われた我々を助けてくださった命の恩人でございます。この先の町で護衛料金などをお支払いするお約束でして、怪しく見えているかもしれませんが、どうか、ここは穏便に・・・」

俺との会話が嘘のようにかしこまった態度で胡麻をするおっさんに若干驚いたが、騎士の返答をもらう前に事件は起きた。いきなりアイが警告を発してくる。

『危険、後方に注意し・・・』

「がは・・・」

その声に後ろを振り向こうとしたとき、後ろから頭を強く殴られた。衝撃で前のめりに倒れた俺を見ておっさん達が驚いている声が聞こえたが、俺は意識を失ったのでその後何があったのか分からなかった。

第八話です。生前の確執は死後の行動にも影響するのでしょうか? 祖母の葬式では多くの人が泣いていましたが、商売敵の葬式で笑うほど意地の悪い商人もいるのかもしれませんね。いきなり襲われた主人公、不自然な場所で検問をする怪しい騎士達、主人公に何が起こるのか、次回もお楽しみに

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