表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に響く銃声  作者: レコア
第2章 召喚された高校生銃士
8/74

第七話 初戦闘

戦う時は大変だ。死に物狂いで、命をやりとりする。しかし、本当に大変なのは戦中より戦後だと思う。

『注意! 前方12時の方向に敵が感知されました。数5、魔物と思われます。詳細は情報が不足しています。距離100m』

びっくりしたが、どうやら商隊を挟んだ反対側、俺の正面の方向から魔物が来るようだ。出会わないなと思っていたし、商隊の人達も魔物が居ないと言っていたが、単に運が良かっただけだったらしい。周りはすっかり暗くなっているから、焚火の明かりが目立っているのだろう。商隊の人達は気がついていないらしいが、行って知らせるか? でも何で分かるんだって聞かれたら・・・。

「どうすれば敵の情報が分かる?」

『目視するか、前方の商隊から情報を得てください』

「見なきゃダメなのか」

俺は岩から顔をのぞかせて商隊の方を見る。魔物集団が商隊まで1mを切った頃、魔物に一番近くて、俺から一番遠い人の反応がレーダーから消えた。同時に悲鳴が上がり、よくわからない謎の鳴き声が聞こえる。商隊の人達が一斉に悲鳴がした方へ振り向き、何事かとあわただしく動き出した。俺はゆっくりと茂みを進んで商隊との距離を詰める。魔物が見えた。2mくらいの木に目と口が付いたような外観をしている。すぐにアイに情報を求めた。

『ウッドマンです。枝による鞭打ち攻撃をしてきます。射程に入らないようにご注意ください』

木人ウッドマンか、なるほど。納得している間にも一人逃げ遅れた人が鞭打ちを食らって馬車に叩きつけられた。レーダーから点がまた消えたのでおそらく死んでしまったのだろう。護衛と思われる剣を持った人が10人ぐらいいて対処しているようだが、倍の数が居るにもかかわらず3体のウッドマンに苦戦しているらしい。他の2匹はまだ見えていない。レーダーによると道側に回って商隊の前後の道を塞ぎに1匹ずつ回っているようだ。そんな高度な連携が取れるのかと感心したが、レーダーの人の動きから考えて単純に追いかけて行ったら結果的に退路を塞ぐ形になったらしい。3方を塞がれた商隊の人達は魔物と反対側、つまり俺の居る方に向かって逃げてきた。とっさに岩の裏に戻ろうとしたが、近くを走っていった奴がそこに隠れたので断念し、少し離れた草場に移動する。あの岩はそれなりに大きいので何人か逃げ込んだようだ。商隊の居た場所に残っていた逃げ遅れの人達は次々につかまって殺されていく。このままだと全滅しそうだ。人が死ぬのを黙ってみているのも問題があるし、銃があるのだから撃ってみよう。そう考えて俺は装填を始める。太い木の幹の裏で装填を終わらせて魔物を狙う。最初に現れてから暴れまくっている奴をまず狙った。護衛はいつの間にか4人に減っている。2体のウッドマンに挟まれて絶体絶命だが、残りの1体にさっきから追いかけまわされている商人らしき男の方がやばいのでそちらを優先した。ウッドマンの目のある高さに照準を合わせて射撃のタイミングをうかがう。アシストのおかげなのか、いつ撃つべきかがなんとなくわかった。感覚に従って発砲すると、少し遅れて衝撃が来る。弾は見事命中し、ウッドマンの顔のあたりを吹き飛ばした。顔が吹っ飛んだために上下真っ二つになったウッドマンの残骸は、下は前のめりに倒れ、上は逆方向に落ちた。発砲音よりもウッドマンがいきなり爆発したことに驚いたらしく、助けた商人は腰を抜かして座り込んでいる。素早く装填を終わらせて護衛を挟み撃ちにしてにらみあっている奴の片割れを撃った。やはりいきなり目の前で敵が爆発したことに驚いているが、その隙をついてもう一方のウッドマンが攻撃、護衛が一人やられてしまった。装填中だった俺は舌打ちをしつつ、すぐに3匹目も始末する。護衛の安全を確保して装填しながらレーダーを見ると、村方面の道を塞いでいた奴が商人を追いかけながらここへ戻ってきているようだ。逃げる商人側も2人に減っている。装填して待っていると商人が見え、その後ろにウッドマンが見えた。まっすぐこっちへ来るので正面から顔を狙う。目と目の間を狙って撃ち、大穴が開いたウッドマンは前のめりに倒れた。村と反対方向の道を塞いでいた奴は仲間の死を知って逃亡を始めたらしい。もう敵意感知レーダーの端っこまで離れている。敵が居なくなった事を確認して息を吐くと、不意に後ろから声をかけられた。

「あ、あの、すみません」

「うわっ」

「ひっ!」

思わずびっくりして飛びのいてしまったが、相手も同じだったようでしりもちをついていた。さっき岩の裏に隠れた奴らの一人だろう。銃を肩に担ぎ、ゆっくりと近付く。その姿が怖かったらしく、相手の男はガタガタと震えだした。

「お、お許しください。どうか、どうか命だけはお助けを・・・。金なら、いえ、必要な物なら何でも持っていって構いませんから・・・」

「悪い、怖がらせたな。別に殺さないから落ち着けよ」

「ほ、本当ですか?」

「嘘であってほしいのか?」

「め、滅相もない。命を救っていただきありがとうございます」

そう言って男は土下座っぽいポーズをとる。大げさすぎるので慌てて立たせたら、他の隠れていた奴らもゾロゾロと出てきた。彼らに連れられて商隊の野営場所に戻ると、あちこちに死体が転がり、焚火が燃え移って馬車が1台燃えていた。

「ああ、俺の自慢の商品が・・・」

「くそう、護衛のくせに何してやがる」

そう言って商人の一人が生き残った護衛を殴る。護衛は疲れ切っているのか無抵抗だったが、殴られて地面に突っ伏した。

「その辺にしておいてあげてください。見ていましたけど、彼らもちゃんと戦っていましたよ」

「うるさい! あんたの馬車が燃えていたら同じことをするくせに!」

別の商人が止めに入るが、殴った商人はその人にも噛みついてくる。周りが押さえてようやく静かになった。

「そもそも20人規模の商隊を襲ってくるなんて考えてなかった我々が甘かったのです。金を惜しまずにもっと護衛を雇うべきでした。彼らを責めるより仲間を埋葬しましょう。他の馬車は燃え移らないように移動をしてください。商品の状態チェックと、誰が生き残れたかの確認もお願いします。護衛の方は埋葬用の穴掘りをお願いします。川辺だとよくないので埋めても大丈夫な場所を探してきてください。さあみなさん、動いて動いて。いつ魔物が戻ってくるかわかりませんよ」

止めに入った商人が仕切って全員に指示を出し、それぞれが動き出す。

「くそう・・・」

殴った男も悔しそうな顔をしながら燃えている馬車へ向かって行った。火を消すのだろうか、それとも商品を取り出すのか?

「聞いたな? 馬車を移動させるから手伝ってくれ」

「分かった。あんたも助けてもらったのにすまないが手を貸してもらえないか? 後で金は払うから」

俺の近くにいた商人が俺に手伝いを頼んでくる。金がもらえるのはいいことだと思うが、何を手伝うべきなんだろうか。

「手伝うのは構わねえけど、手伝うって言っても何をすればいいんだ?」

「ありがたい。ついてきてくれ」

彼についていくと、馬車の近くで2人ほど人が死んでいた。腕があらぬ方向に曲がっている以外は特に外傷の無い遺体だが、レーダーに映らないので間違いなく死んでいる。彼は死体に向かって何か言った後、服のポケットを探りだした。

「何してんだ?」

死体を見ている事とその行為に若干不快になって尋ねると、彼が困ったような顔で答えてくる。

「持ち物を集めているのさ、金になる物は売って、ならない物はそのままこいつらの家族に返すんだ。つまり遺品だな。服は取らないのが暗黙のルールだが、それ以外は埋めても意味がないから、遺族に渡したり俺達で再利用したりするのさ、商人や冒険者、傭兵、軍人や船乗りなんかの連中は大抵その点は理解している。こいつらもそうだ。このカバンは使えるから俺が引き継ぐし、この手帳は使えないから遺族へ渡すんだ。おれはこいつを見るから、あんたはそっちの奴を見てくれ。取る前に一度詫びを入れとけよ。助けられなかった事への詫びだ。しっかりと伝えておきな。あんたが助けてくれなければ俺達も死んでいただろうし、そいつが死んだのはあんたのせいじゃないが、それが礼儀だ。死者へ対する礼儀は重要だからな」

「なるほど、分かった。・・・失礼します」

死体に触れるというのが若干躊躇いを覚えるものだったが、血も出てないし眠っているようにしか見えないので大丈夫だった。服がみすぼらしくてポケットが無かったが、カバンがあったのでカバンを外し、他に何も持っていない事を確認して男に伝える。彼はカバンの中身を確認し、折りたたまれた紙束を出した後、俺にカバンを差し出してきた。

「そいつの遺品はこれでいいから、あんたはこのカバンをもらいな。中に水入れと食べ物が入っているぜ。布はいろいろ使い道があるから俺が欲しいが、あんたが受け継ぐものだ。あんたに決める権利がある」

「俺は使わないから、おっさん使えよ。布もらっても俺は何もできないし」

「そうか、悪いな。じゃあ遠慮なくもらおう。護衛の阿保どもが墓穴を掘ったらこの2人も埋めるから、その時は運ぶのも手伝ってくれ。あんたが魔物を倒したんだから、核を採って来いよ。俺が扱っているから、助けてくれた礼も兼ねて高めに買い取るからよ」

やっぱり何か魔物から採れるようだ。核ってどういう物なんだろうか?

「核はどうやって採るんだ?」

「ありゃ? 兄ちゃん冒険者じゃないのか? あいつはウッドマンだから体のどっかに青い石が入っている。そいつを採るのさ。たぶん体の真ん中あたりに埋まっているから、探してみろよ」

「探してみろって言ったって、素手じゃどうしようもないんじゃねえか?」

さすがに素手で木をバキバキと破壊できるほど俺は怪力じゃない。そう思っての返答に、おっさんが思案顔になる。

「ああ、確かにそうだな。これを使いな。こいつが持っていた採集用のナイフだ。切れ味は良くないが、素手よりは取るのが簡単なはずだ。あんたは恩人だから、それはやるよ」

「ほう。分かった。とりあえず見てみよう。いろいろありがとうな、おっさん」

俺はおっさんに礼を言ったあと、もらったナイフを持って魔物に近づいて行った。野営地の真ん中で商人っぽい男を追い回していた奴が一番近かったのでそいつから始めることにする。確かこいつが最初に倒した魔物だ。上半分にある顔周辺は粉々だったが、下半分は無傷で、単なる倒木にしか見えない状態になっている。ふと気が付いて断面を見てみると、単なる木の断面の中に青というか、黒に近い藍色っぽい石が見えた。周りの木をナイフで削って石を取り出す。おっさんは青い石だと言っていたが、どこが青なんだというくらい黒に近い色の石だ。とりあえずもらったカバンにしまって、今度は傭兵達の下へ向かう。他の場所でも死者の体や服のポケットを探る姿が見られたが、本当に涙を流しながら謝り続ける普通の人もいれば、手に入れた物を見てゲスな笑顔でニヤケてる奴も居てやはり不快だった。護衛の傭兵達も仲間の装備を引き継いでいるようだが、剣を巡って争いをしている。足元には持ち主であろう仲間の死体が転がっているというのに、その上で掴み合いの喧嘩になっていた。周りの白い眼を見ればこれは異常なのだと分かるが、本人達は平気で喧嘩を辞める様子はなく、もう一人の傭兵も止めずにほかの仲間の遺体を探っていた。死体の上で喧嘩とか日本ならあり得ないと思うが、異世界の傭兵が無法者なのはアニメやなんかの設定そのままらしい。たぶんこいつらは不謹慎という言葉を知らないのだろう。俺が銃で魔物を吹っ飛ばしたせいで隙ができて殺されてしまった傭兵の下に近寄り、さっきの遺体より丁寧に助けられなかった事を詫びた。横で喧嘩している2人はもちろん、他の傭兵から遺品回収をしている奴も特に何も言ってこなかったが、近くで商人風の男の遺体を探っていた奴には驚いた顔をされた。俺のせいで死んだのだから謝るのは当然だと思うのだが、そんなに変なのだろうか? 他人だからなのか、涙が出たり耐えられないほど罪悪感がまとわりついてきたりはしなかったが、遺体の苦しそうな表情には心が痛んだ。後で冷静に考えて恐ろしいほど冷めていたと不思議に思ったが、本気の殺し合いを目の当たりにして自分も余裕が無かったのだろうという事で納得するしかなかった。

第七話です。ついに対魔物の初戦闘です。あっけないかもと感じましたか? 銃撃とは一方的な物だと私は思っています。近接攻撃しかできない敵ならなおさらです。しかし、戦いに勝ってやっふーで物語は終わりません。アニメではエンディングになってごまかされますが、戦後処理が精神的に最も負担が大きいと思うのです。次々回は主人公の第1ターニングポイントを、次回はその前置きを描く予定です。次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ