第七十三話 ゴブリンの使役
一見高額な買い物も、長期的に見ると安い場合がある
「使役って、こいつらを俺が飼うのか?」
「魔物の持ち込みによる使役取引も当店では行っています」
「使役に何か制限とかルールとかは?」
「特に何か決まっているわけではありませんが、しいて言うなら、街中で人間を襲わせないとか、失態は使役者の責任とか、そういう程度でしょうな。簡単でしょう?」
自分の命をやり取りする会話だとわかっているとは思えないが、きょろきょろしていたゴブリンソルジャーは俺を見つめている。
「具体的に使役ってどうやるんだ? あといくらかかる?」
「当店の販売する魔物使役用魔法道具で契約をするか、当店で魔法使いによる魔法で契約を結ぶかですな。奴隷契約のようなものですが、奴隷よりも扱いは雑でかまいません。最低限の食事を与えて、人を街で襲わないように見張っていれば、あとは何をしてもいいのです。魔法道具は少し高価で100ヘイル。魔法使いによるものならゴブリン1匹につき1ヘイルです」
「何でそんなに魔法道具は高いんだ?」
「一度買ってしまえば、あとは魔力を供給してその場で契約を結べるからですね。魔力を持つ人、魔法使いなどはこの道具を買えばいつでもどこででも魔物を捕まえて使役できます。ただ、当店のような店で頼むより道具自体が高価なうえ、それほどたくさん魔物を使役しても統率しきれないという理由で、あまり使われていません。当店を利用する方がはるかに安いですからね」
「なるほど」
説明を聞きながら、アイに問いかける。
(俺の魔力だと魔法道具は動くと思うか?)
『可能です。使役数、および統率についてもこちらで管理を行えるため、一般人より多くを使役、統率可能です』
(ゴブリンはバカらしい。ちゃんと面倒みられるだろうか)
『こちらで使役した魔物の頭部に侵入、コンタクトを取って一部の行動を乗っ取り、制限すれば問題ありません』
アイがさらっとすごく恐ろしい事を言っている気がする。魔物とはいえ生物の頭を乗っ取るって・・・。
『使役契約を結んだ魔物の脳内に私の分体プログラムを構築、個別管理をさせます。統轄を行うのはマスターであることに変わりはなく、周りからは分かりません。分体プログラムは魔物の本体からエネルギーを得て稼働させるため、マスターへの負担はほぼゼロで行えます』
(何かデメリットは?)
『見境なく魔物を使役し続けると、食料費用が膨大になる可能性があります。必要ない時間は鞄内に収納して仮死状態にすれば魔物の食欲をある程度抑制可能ですが、完全に無補給というわけにはいきません。食料だけでなく、水や、排泄も必要です』
そのくらいならペットと変わらないから心配していたようなデメリットではない。例えば、獣人に差別があったとして、魔物はもっといい顔をされないはずだ。労働力としてある程度一般的とは言え、あまり大量に連れ歩くのは大丈夫なんだろうか。
『必要時以外は鞄内へ収納すれば問題ありません』
隠しておけってことか。
「じゃぁ、魔法道具を買おう」
「よろしいのですか?」
「ユウスケ?」
「?」
俺の答えに、魔物商人の男性が確認をとってくる。透明な壁を作っていた従業員達は休憩しに行っているのか、ここに居るのは男性だけだ。アリシアもわざわざ高い魔法道具を買うと言った俺の答えに驚いているらしく、ミルも首をかしげている気配がする。
「ユウスケ、理由を教えてちょうだい」
「こいつらせっかく捕まえたんだから、アリシア達の護衛にしちまおう」
「護衛ならあなたが・・・」
「もちろん俺は全力で守るさ。でも、今回の依頼でもそうだったように、俺の戦闘中はミルもアリシアも俺からある程度離れなきゃいけない。1体相手なら通さないし、ゴブリンなら2体までは俺1人でさばけた。たぶん3.4体くらいなら何とかできるさ。でも、それ以上の数が出てきたり、1体が強くて俺でも1体相手がやっとだったりしたら、ミルやアリシアを守るのが大変だ。そういうことにならないように気をつけるけど、いざって言う時は守るやつが多い方が安心だろ?」
「ひぃ」
俺の仮説を想像したのか、ミルがさらに俺へ抱き着いてくる。怖がらせてしまったので頭を撫でつつ、アリシアとの会話を続ける。
「でも、それならここで魔法使いに契約魔法を使ってもらった方が安いんじゃないかしら?」
「今は安いさ。でも、ゴブリンは弱い。仮に武器を買い与えて武装しても、結局限界があるはずだ。俺が守り切れずに敵を通すような状況で、ゴブリン数匹がどれだけ時間を稼げるか、正直不安なんだよ」
「じゃぁ、ゴブリンを使役しても意味ないじゃない」
「ゴブリン6匹とこのゴブリンソルジャーだけだったら心もとないさ。だからもっと捕まえようぜ」
「ほう、ゴブリンに護衛をさせるのですか」
「護衛っていうより動ける壁かな。俺が守れない状況でゴブリンに期待なんかできないから、どうしても防げない1回の攻撃を、こいつらが代わりに受けてくれたらそれでいい。2回目は絶対阻止して見せるからな」
俺のちょっと見栄を張った発言に男性は少し顔色を変え、アリシアは絶句している。ミルも少しだけ抱き着く力が弱くなった。
「で、たくさん捕まえたら、その分契約が必要だ。いちいちこの店に来て契約していたら時間もかかるし、たぶん、数が増えたら将来的にこっちの方が安いはずだ。元を取るつもりでたくさん捕まえればいい。何もゴブリンに限定しなくても、強そうな魔物が護衛してくれたらアリシアも安心だろ?」
「それはそうだけど、そんなにたくさんの魔物をあなたは使役できるの?守ってもらうつもりが私達を襲ってきたりしたら・・・」
「そんな事は俺がさせないし、万が一言う事を聞かなかったらその瞬間に始末してやる」
俺の発言が理解できているかはわからないが、不合格の檻に居るゴブリンの内2匹とゴブリンソルジャーがビクッと震えた。
「そ、そう・・・。食費とかかかりそうだけど、大丈夫なのかしら?」
「そこも考えてあるから、安心しろ」
「?」
「わかったわ、ユウスケを信じましょう」
ミルは分かっていない感じだったが、アリシアは納得してくれたらしい。男性の方に向き直ると、いつの間にか男性の後ろに従業員が1人来ており、何か箱を持って立っていた。
「魔法道具をご購入いただけるという事でよろしいでしょうか?」
「話はまとまったよ。魔法道具を買おう」
「では、100ヘイルになります」
男性が差し出した手に、弾薬鞄から取り出した100ヘイルを渡す。結構な高額商品だが、元を取るためにも、アリシア達が少しでも安全でいられるためにも、じゃんじゃん使ってやる。
「確かに。では、お品物はこちらになります」
男性が従業員から箱を受け取って、俺の目の前で開けてくる。リレーのバトンくらいの太さ、長さの金属の棒があって、その先に金属の輪がついている。マジックハンドっていうか、細い羽のない扇風機っていうか、なんか変な見た目だ。
「使い方は?」
「ちょうどいいので、このゴブリンを相手に実演いたしましょう」
ものをもらっても使い方がわからなければ意味がないので聞いてみると、男性は道具を手に不合格の檻に近寄り、一番近くにいたゴブリンの手に向かって、輪の方を向け、棒の部分にあったらしいボタンを押した。すると、棒が一気に伸びて、輪の部分がゴブリンの腕をつかむ。まさにマジックハンドだ。ゴブリンは突然腕をつかまれて暴れている。
「使役対象の魔物を捕まえたら、輪の部分でこのように腕をつかみ、その状態で道具に魔力を流します。魔力が充填されるまで少しかかりますが、充填されたらこちらのボタンを押してください」
男性が手元を見せてくれたので覗き込むと、棒の一部に四角いくぼみがあり、灯油のタンクとかにある残油計のようなものが見えた。俺に魔法道具を渡してきたので、アイに命じて魔力とやらを流させる。うまくいったようで、残油計のゲージが下から徐々に埋まっていく。その上にはボタンが2つあり、1つはさっきアームを延ばしてゴブリンを捕まえたボタンだ。
「魔力の充填が終わるとここが光りますので、光ったのを確認したらこちらのボタンを押してください」
「あ、あぁ」
さっきのくぼみが少し光り、それを俺が確認した後、男性が俺に2つ目のボタンを押すように示してくる。恐る恐る押すと、伸びている棒の部分と輪の部分が光り、ゴブリンがビクッと震えておとなしくなった。光が収まった後、最初のボタンを押すと、アームが縮んで魔法道具は元の大きさに戻っていく。ゴブリンの腕には何か紋様が刻まれており、少しすると消えた。
第73話です。だいぶ久しぶりの更新ですね。12/31に更新しようと思ってたのですが、作業あれこれやってたら新年になってしまいました。パソコンが寿命を迎えたり去年はトラブル続きで、現在筆が止まっております。プロット自体はまだあるので、それを稀になってしまった更新で放出しつつ、新しいパソコンで続きを執筆する予定でいます。次回もお楽しみに




