第七十二話 ゴブリンの選別
仕事人は慣れているが、作業が楽なわけではない
「先に夕食を食べるか? それともとっとと依頼を終わらせるか?」
「おなかは空いたけれど、先に依頼を終わらせましょう。時間が経ちすぎるのもきっとよくないわ」
「ミルは?」
「ど、どちらでも・・・」
「じゃぁ魔物商人のところへ行くか」
アリシアの判断に従って、魔物商人の居る店へ向かう。南門から直接行った事がないので一度冒険者ギルドのある大きな十字路へ向かい、そこから移動した。もうすっかり真っ暗になっているし、建物の窓から明かりが漏れているけど薄暗い場所もあれば、屋台がにぎわっていてちょっとした夏祭りのような感じになっているところもある。ギルド周辺も、魔物商人の店周辺も比較的屋台が多くて明るかったので、夜でも問題はなかった。ミルも人込みではやっぱり服をつかんでくるが、少し慣れたのか回数や強さに変化がある。こうやって少しずつ慣れて、最終的には俺が離れても大丈夫になってくれるといいが。
「おや、あなたは夕方の。どうぞ」
始めて店に来た時に案内してくれた男性にまた出会えたので、依頼内容を聞いた部屋に案内してもらった。しばらくして反対側のドアから依頼説明をしてくれた男性が入ってくる。
「こんな夜分に、どうされました?」
「迷惑か?」
「いいえ、夜にもお客様が来られることはありますし、まだ大丈夫です。ですが、依頼をしたその日の夜に冒険者の方が訪ねてくるのはあんまりないもので」
「一応50匹くらい捕まえてきたので、これでいいのか確認してほしいんだ」
「もう終わったというのですか? ゴブリンの集落でも発見されたのですか」
「いや、普通に出会ったやつを片っ端から捕まえてきただけだ。多くても2匹以上は同時に相手してないな」
「という事はすごい遭遇率ですね。幸運というべきか、不運というべきか悩ましい所です。ここでは危険ですので、こちらへどうぞ」
男性について行って、男性が入ってきた扉の先へ進む。扉を何枚かくぐった後、檻がたくさんある部屋に着いた。ミルがこっそりと左側に抱き着いてくるし、アリシアも右側で服の袖をつかむ。なんとなく異臭のするその部屋は、奥が見えないほど広く、いたる所に檻が並んでいて、中に何かが入っている。金属っぽい分厚い扉の向こうからうなり声が聞こえる部屋もあるし、檻の中で目らしき何かが光っている場所もある。なんかやばそうだ。通路は広く、檻に使われる支柱の幅も狭いので、真ん中を歩けば安全そうではある。ただ、左右からものすごいプレッシャーと敵意を感じる他、レーダーが赤い光点で埋め尽くされているこの部屋は、長居はしたくないと思う。男性は少し部屋の奥へ進んだある檻の前で立ち止まり、近くで作業していた従業員らしい男性を5人ほど呼んで、俺達へ向き直る。相手が多人数で、ほとんどが強面で屈強そうな男性なので、アリシアが自然と俺の後ろへ隠れた。
「では、ゴブリンを1体ずつ出してください。こちらで品質を確認致します」
従業員の男性が何か魔法を詠唱したようで、俺達と男性の間に半透明の壁っぽいものがいくつか出来上がった。高さは天井目いっぱいまで、位置は俺達の前から檻の入口へ通路を作るようにできている。幅は従業員の男性がぎりぎり通れるくらい、俺達なら普通に通れるが少し窮屈さを感じるくらいの狭さだ。別の従業員が檻の入り口を開け、また別の従業員は通路を挟んだ反対側の檻も開ける。さっき魔法を詠唱したらしい人とは別の従業員が同じ魔法を詠唱し、反対側の檻へも半透明な通路をつなげた。これで俺の目の前から2つの檻へ向かって魔法の通路ができた形だ。一番俺達に近い場所、2つの魔法通路がつながる場所には、半透明の壁で四角く箱型の部屋が出来上がっている。電話ボックスくらいの広さだ。
「1匹ずつその部屋へ出してください。こちらで品質を確認、評価後、依頼達成できるゴブリンと、そうでないゴブリンへ分けます」
「基準はどうなっているんだ?」
難癖をつけられても困るので、判断基準について質問してみる。
「主に判断材料は3つ。ゴブリンは種類が豊富ですので、どんなゴブリンかが1つ、オスかメスかが1つ、傷がある、弱すぎるなどの問題が無いかが1つです」
「弱すぎるってどうやって確かめるんだ?」
「この壁は魔法障壁の一種ですので、叩けばそのうち割れます。通路へつながる壁だけ他の壁より薄くできておりますので、それを攻撃何回で壊せるかで試験します。一般取引されるゴブリンは3回以内に割れるなら問題ないでしょう」
「じゃぁ始めるぞ」
5人いる従業員の内、2名は半透明の壁維持に集中しているらしい。手をこちらに向けて固まっている。檻のカギを開けた従業員2人は木でできた警棒のようなものを出して警戒しているようだ。最後の1人は試験用の壊させる壁だけを専門で作っているらしい。マジックバックに手を突っ込んでゴブリンを思い浮かべると、手にゴブリンの手が当たったので掴み、透明な壁の中へ向かって引きずり出す。完全に出た衝撃でゴブリンは部屋の中へ入り、周りに居る俺達に襲い掛かろうと周囲の半透明の壁に攻撃を仕掛け、最終的に2回で試験用の壁を破壊した。
「オスですね。合格です」
先に通路を作った方の檻へ、ゴブリンが誘導されていく。檻に入ったゴブリンは人間に近い半透明の壁へ戻ろうとしたが、警戒していた従業員が警棒で檻を叩いて威嚇。ビビったゴブリンは壁際に逃げた。弱すぎる・・・。
「次をどうぞ」
指示に従って2匹目を出した。1匹目より早く試験用の壁に気がついたそのゴブリンは、1回で壁を破壊して通路を進んでいく。
「力のあるゴブリンですね。どんどん行きましょう」
その後、疲れて座り込んでしまったアリシアと、周りの檻に怯えて俺に抱き着いているミルを時々気にしながら、淡々とゴブリンを引っ張り出していく。15体に1体くらいの割合で壁を破壊する回数が多くて試験を落ちるゴブリンが居たが、たぶん街に近い場所で捕まえたゴブリンだろう。まだ2体だし、48体までは捕まえたのを数えていたので、依頼数を下回る事は無い。結局、試験不合格のゴブリンは、全部で4体。みんな状態は悪くないが、試験用の壁を壊すのに手間取ったため不合格になったやつだ。合格したゴブリンは全部で52体。帰り道に捕まえた数匹分、数えた数より多かったらしい。ホブゴブリンは混じっていなかったそうで、不合格な奴含めて全部普通のゴブリンだ。合格した奴も、50体までっていう依頼だったので、最後の2体は不合格の檻に入った。檻を二つに分けたのは、不合格と合格を分ける理由があったらしい。メスの個体は居なかったようだ。56匹も捕まえたのに全部オスとか、ゴブリンのオス比率がすごい。
「これで全部ですかな?」
若干疲れた顔で言う男性と、その後ろで汗まみれになっている半透明の壁担当の従業員。辛そうだ。
「あと1匹。これで最後だな。こいつはゴブリンじゃないらしい」
「ほう」
俺は最後に、帰る途中で捕まえたあのちょっと背の高いゴブリンを出した。他のゴブリンもそうだったが、引っ張り出す時には装備品の類は一緒に引っ張り出さないように指示されていたので、ゴブリン達は服以外何もつけずに出されている。当然こいつも胸当て、剣などがない、ただ背の高くて色がおかしいゴブリンになっている。何も持っていない状態で見るとますます変な奴だ。
「ほう、色からするにゴブリンソルジャーの類ですな。何か装備は持っていましたか?」
「錆びた長めの剣と、胸当てかな」
「ゴブリンソルジャーで間違いありませんな。ただ、今回の依頼では対象外なので我々では対応しかねます」
「不合格のやつと、余った2匹、あとこいつはどうしたらいい?」
「お好きにどうぞ。この場で殺し、解体して素材を売るもよし、あまりお勧めしませんが、街の外へ逃がしても構いません。使役するとおっしゃるなら当店をご利用していただける前提ですが、少しお安く致しますよ」
殺すという単語を聞いてか、亜種ゴブリン改めゴブリンソルジャーが、ちょっとビクッとなって周りをきょろきょろと見る。魔物でも人間の言葉が分かるのだろうか? 挑発に反応したのは、言葉が分かるからだとしたら、魔物も結構頭がいいという事だ。
第72話です。相変わらず日本も世界もドタバタしてますね。ユウスケの居る世界も、筆者の居る世界も、ゆっくりですが確実に進んでいます。次の更新の時にはいいニュースがあればいいのですが、世界情勢を見る感じそれも難しそうです。平和を望んでいるのに、叶わないのは悲しいですね。皆さんもお気を付けて。次回もお楽しみに




