第七十一話 ゴブリンの居る森
脅威が想像より弱く、肩透かしになることもある
「あそこかな」
「そうね」
「はい・・・」
しばらく進むと門と堀が見えてきたため、たぶんあそこが南門だろう。堀の外側と、門に近い場所の2カ所に衛兵がいる。西門はそこまで堀がでかくなかったので、少しずつ差があるのかもしれない。
「ここは南門ですか?」
「当たり前だろ。どこだと思っていたんだ」
「すみません。まだこの街の地理に疎くて、先ほど西門へ行ってしまったのです」
「ははは、馬鹿な奴だな。確かにここは南門だ。出てすぐに森があるから気をつけろよ。あそこは低レベルとは言え魔物が出る森だ。旅人なら護衛に冒険者か傭兵を雇いな」
「ありがとうございました」
衛兵にお礼を言いつつ、門へ近寄る。さっきの衛兵は護衛を連れていけと言ったのに門へ近寄る俺達に不思議そうな顔をしたが、あきらめたのか元の位置へ戻っていった。旅人なら、普通の人間なら回れ右をして護衛を雇うべきなんだろう。門を出てすぐが魔物の出る森っていうのは、きっと危険なはずだ。だが、俺達は護衛を頼む旅人側ではなく、本来は護衛を頼まれる冒険者側の人間なので、護衛を雇う気はない。そもそもアリシアにとっては俺が護衛なのだから雇う必要もない。地形が分からない部分はレーダーによるマップである程度何とかできるので、街に戻れない可能性も低いだろう。どんな魔物がいるかがよくわかっていないのが少し怖いが、低レベルモンスターなら何とかなると楽観的に考え、門をくぐった。門番に冒険者カードを見せるだけで簡単に通れる。やはり冒険者カードは身分証明書として効力を発揮できるようだ。ただ、入る時は税金が必要だから、森で金を落とすなと忠告された。街の中でさえ治安は悪そうなのに、街の外の治安までは保証できないってことだろうか。外で金を盗まれ、あるいは落として、街に入れない事態にはなりたくない。銃や剣などの武器類、カモフラージュのリュックと魔物商人から預かったマジックバック以外は、全部弾薬鞄の中だ。これなら最悪の場合でも弾薬鞄さえ守れば一文無しにはならないだろう。すられる可能性もそんなに高くないだろうし、アリシア達の方が大切なので、天秤にはかけないつもりだ。
「薄暗いな。もう午後だし、早いとこ終わらせよう」
「そうね。でも、ゴブリンなんてそんなかん・・・」
「ギギッ」
「ひぃっ!」
レーダーで表示できる魔物の数は、俺の脳へかかる負荷に比例する。だから、銃の射程に入る部分と、その外側、レーダーいっぱいの1km四方でやばそうな魔物だけ表示するようにしている。それでも敵性反応が多いので、すぐそばが魔物の森っていうのはこういう事なんだろうと思う。森に入ってまだ5分も経っていないが、早速エンカウントした。射程にはもっと前から入っていたので銃撃して射殺することはできたが、最初に見たオックス原生林よりも木の密度が高い事や、今回は魔物の討伐ではなく捕獲だという事も理由となって、銃は準備せず、木刀をいつでも使えるようにして歩いていただけだ。アリシアはレーダーの事を知らないのでそんなに簡単に魔物には出会えないだろうと思っていたらしいが、そう言おうとした矢先に前の茂みからゴブリンが出てきたので、少し驚いているらしい。ミルはいきなりの魔物登場に悲鳴を上げて俺の後ろへ隠れる。俺が戦う事をわかっているからか、服をつかんだり抱き着いたりはしてこなかった。これはすごくありがたい事なので、あとでミルの頭を撫でよう。
「じゃぁ、ゴブリンがどれくらいすごいのか試そう。アリシア、少し下がってくれ。ミルはアリシアと一緒にいろ」
「はい・・・」
「気をつけてね」
アリシア達が下がったのと、アリシア達の方に敵性反応が近寄っていないことを確認し、俺はゴブリンの前に向かっていく。当初3対1の状況に若干びっくりしていたらしいゴブリンだが、俺1人だけが前に出てきた事で自信を取り戻したのか、ニヤついた顔で近寄ってくる。特に武器の類は持っていないようだ。素っ裸ではなく、上半身の右半分と、腰あたりを覆うつなぎの服を着ている。なんていうか、アニメの原始人が着ていそうな質素で質の悪そうな服だ。緑色で背は低く、でも別に醜い顔って感じでもないこのゴブリンは、手を振り回しながら俺に向かって突撃してきた。足が短いからなのか、すごくノロマに見える。5mも離れていない俺のところに来るのにも時間がかかっているこのゴブリンは、きっと弱いのだろう。余裕ありすぎなくらいたっぷりと観察した後、木刀の間合いに入ったのでとりあえず頭を狙って木刀を落としてみた。力いっぱいやって死んでも困るため、少し手加減した結果。
「ギギャ」
ゴブリンは、一撃で体をビクッと震わせ、仰向けにひっくり返る。反応は消えてないから、気絶させることに成功したらしい。
「え、弱すぎだろ」
「終わったの?」
「?」
後ろを振り返ると、困惑した様子でアリシアとミルが恐る恐る近寄って来るところだった。とりあえず目を覚ます前に、ゴブリンの手をつかんで魔物商人から借りたマジックバックに引っ張り込む。マジックバックに手の一部が入った瞬間、ゴブリンが掃除機に吸い込まれたように急速に引っ張られ、入口より明らかにでかいゴブリンの体が数秒でカバンに入った。意味が分からない。
「マジックバックってこういうものなのか?」
「私も詳しくは分からないわ。魔物を入れているのを見たのは初めてだし」
「ミルは?」
「わ、わかりましぇん・・・」
「そうか」
落ち込んでしまったらしいミルの頭を撫でながら、カモフラージュ用のリュックを弾薬鞄へ仕舞い、レーダーの反応に従って次の魔物の位置へ向かう。見えた次の魔物はスライムだった。街で見た緑色のやつとは、色が違う以外似ている。
「スライムは関係ないから放置だな」
「そうね」
スライムはゆっくりと地面を這っているだけだったので、無視して別の反応へ向かった。その後、ゴブリン、スライム、スライム、ゴブリン、ゴブリンと、スライムを時々はさみながらゴブリンとエンカウントし、ゴブリンは捕獲、スライムは無視する形で森をあちこち歩いた。スライムは色違いが多いようで、赤や青、緑などのありそうな色のやつもいれば、なんかどす黒い色の触ってはいけない感じの奴もいた。スライムはもともとこの依頼には関係ないのでスルーして構わないし、スライムはこちらに気がついていないのか、あるいは見えた敵を見境なく襲うわけじゃないのか、俺達に襲い掛かってくる事は無く、スルーも簡単だ。
「今何匹かな」
「もう15匹は捕まえたんじゃないかしら」
「18匹・・・だと・・・」
マジックバックを開きながらそう思っていると、アイ曰く18匹入っているそうだ。ミルはちゃんと正確に数えていたらしい。
「18匹らしいな。ミル。ありがとう」
「はい!」
ニコニコ笑顔になったミルと、少し疲れてきたらしいアリシアを連れ、その後もゴブリンを探して捕まえながら森の奥へ。今のところホブゴブリンとかは出てこないし、スライムも次第にエンカウント率が減って来たあたりで、そろそろ目に見えて暗くなり始めた。
「もう暗くなりそうだし、そろそろ戻ろうか」
「そうね。疲れたわ」
「ミルは大丈夫か?」
「大丈夫でしゅ・・・」
結局、48匹のゴブリンを捕まえて、レーダーに映っている街の方へ向かって戻り始める。レーダーに映っているってことは、街から1km以内に居るってことだ。この近さにこれだけのゴブリンがいるっていうのも、魔物の森が近くにあるって言う事なんだろうか。
帰り際、ちょっと気まぐれで近寄った敵正反応を見てみたら、ゴブリンでも、スライムでもないなんか変な奴が居た。見た目は青っぽくて、2足歩行だから人型の魔物だろう。ゴブリンより背が高く、アリシア並みだ。手には剣を持っており、金属性らしい胸当てがついている。剣は錆びているし、胸当ても汚いが、顔は心なしかカッコいい系だ。
「何だあいつ」
「わからないわ。ゴブリンの亜種かしら」
「亜種ねぇ・・・」
「強そうでしゅ・・・」
「ギガッ!」
「げ、こっち見たぞ」
『ゴブリンではありますが、少し違う種類のようです。詳細は情報が不足しています』
アイでもよくわからない魔物らしい。できればスルーしたかったが、興味本位で観察していたからか、あるいは話し声が聞こえたのか、こちらに気がついて走って来る。ゴブリンよりも早い。森の奥へ行くほどゴブリンの足が速くなり、木の棒や錆びた短いナイフを持っている場合とかもあったが、こいつはそれよりも早く、剣も長いものだ。錆びているのは変わらないが、あれは気をつけた方がいい。こちらも木刀ではなくメルさんに買ってもらった剣を取り出して、アリシア達を下がらせる。亜種ゴブリンは、こちらが剣を抜いたことを確認すると、突撃は無謀とでも思ったのか、立ち止まって剣を構えた。構えたって言っても、騎士や侍がやるようなものではなく、腕を伸ばしてこちらに向けているだけだ。これなら勝てそうと思ってしまうのは、剣道を習っていた事が慢心させているのか、心配になる。
「こいよ」
「ギガッ!」
俺の挑発に乗って剣を振りかぶり、突っ込んでくる亜種ゴブリン。ちょっと頭よさそうとか思っていたが、所詮はゴブリンなのか、挑発にも簡単に引っかかったし、突っ込んでくる時の剣もなんか力任せな感じがする。
「よわっ」
「ギッ」
少し横に移動しただけであっさりと突進は回避できたので、剣の柄で後頭部を殴ってみる。亜種ゴブリンはその衝撃で地面に顔からダイブし、剣を手放して頭を抱えている。弱すぎると思う。
「お前も寝ていろ」
「ギガッ!」
木刀に持ち替えて再度後頭部をたたくと、今度は気絶したらしい。こいつも一応ゴブリンっぽいし、マジックバックに入れて、その後はスライムをスルーしながら、帰り道を大きく逸れない位置にいるゴブリンは捕まえて町まで戻った。門をくぐるころには夜になっていたが、別に危険な事もなかったし、門番も俺達の事なんて気にしていなかったようで、入場税を払ったら普通に入れてくれた。冒険者カードの影響なのか、入場税が安くなっていたのがありがたい。3人で5フル。すごく安くなっていると思う。
第71話です。更新に5か月以上間が開いてしまいましたね。その間にコロナが再び脅威になったり、戦争が始まったり、火山の噴火や地震の頻発など実際の世界も小説並みの奇妙で貴重な体験をさせてくれています。読者の皆様はご無事でしょうか。筆者は続きを書く時間が確保できず、難儀しております。それでもまだ30ページ以上のストックがあるので、当分更新には困りません。タイミングの問題です。続きは時間を見つけて順次書いていきたいところです。ワクチン3回目接種の案内が来るなど、作者の時間も止まらずに進んでいますので、ご安心ください。次回もお楽しみに




