第七十話 依頼と弾薬鞄
支給品は大切に
「ここかな」
「そうみたいね」
「変な声がいっぱい聞こえましゅ・・・」
「そうなのか」
俺にはまだ聞こえないし、アリシアも別に変な顔はしていないが、耳のいいミルには何か声が聞こえるらしい。さっきの変な生物の声だけではないだろう。いっぱい聞こえると言っていたし、中は動物園というか、ペットショップみたいになっているのだろうか?
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「この依頼の説明を聞きに」
「ああ、捕獲依頼ですな。こちらへ」
背の高い細身な男性が奥へと案内してくれる。扉を2つもくぐると、少し室温が下がり、だんだんと動物の鳴き声のようなものや、動く音が聞こえてくるようになってきた。4つほど扉をくぐった先に部屋があり、そこで教えてくれるのか、案内してくれた男性が椅子をすすめる。木の長椅子で、クッションはあるが固い物だ。男性はここで待っているように言ってから部屋を出て行った。
「どうするのかしらね?」
「たぶん説明できる人を連れてくるんだろうな」
「うぅ・・・」
「大丈夫か?」
「はい・・・」
ミルは音がうるさいのか、耳をペタンとしている。ミルの頭をなでてやるとこちらに寄り掛かってきたので、頭を撫で続けた。
「どうもどうも、ゴブリンを捕まえてくれるそうで」
「そういう依頼だって聞いている」
入ってきたのとは反対側にある扉からさっきとは違う男性が入ってきたので、とっさに立ち上がろうとしたが、ミルがくっついていたので中途半端な立ち位置になってしまった。あんまり男性は気にしていないようで、向かいに置かれた長椅子に座る。
「ずっと前に出した依頼だったもので、私達も忘れかけていたのですよ。討伐は冒険者の得意技なのですが、捕獲、それもできるだけ状態がいいものとなると、途端に受けてくれる人が居なくて。苦労していました。商品が傷だらけでは意味がありませんし、かと言って自分達や私兵、傭兵で捕獲に行っても浅い地域に居る弱めのゴブリンしか捕まらないので、本職の方に頼める今回は助かりますよ。それで依頼の詳細なのですが、こちらで捕獲道具と輸送用のマジックバックは用意しています。あなた方にはゴブリンを捕獲していただき、捕獲場所からこの店まで持ってきていただきたい。簡単でしょう?」
男性は腰につけている小さなカバンから何かを取り出しながら、依頼の詳細を話してくれる。
「最近この辺に来たばかりでまだ地理関係がよくわからないんだ。この辺でそこそこ質のいいゴブリンが捕獲できるならどのへんかな? あと、捕獲道具の使い方を教えてくれると助かる」
「この辺だと街の南側にある森の奥の方に居ますね。すこしホブゴブリンも混ざりだすあたりに居るものがそれなりに強いので狙い目かと思います。もう少し奥にもいるのですが、あまり深くまで入るとゴブリンの亜種などが出てきてしまいますからね。亜種では商品にしにくいのです。ホブゴブリンなら買い取りますが、ほしいのはあくまでゴブリンなので、間違わないようにお願いします。このマジックバックは100匹まで入りますが、依頼は10匹なのでそこまでたくさんは必要ありません。そちらの余裕次第で捕獲なさって構いませんが、森の夜は早いと聞きます。お気をつけて」
こちらを心配してくれているとは到底思えないニヤニヤとした表情でアドバイスをくれる男性を少し不快に思いつつ、レーダーで街の南側を確認する。魔物などを表示させると密度が濃すぎて脳に負担が来るそうなので、あくまでも地理を見るだけだ。たしかに南側の森が大きいみたいで、レーダーの範囲外まで森のようだ。
「他にご質問は?」
「100匹まで入るそうだが、買い取りに上限はあるのか?」
「ゴブリンはある程度入ればこちらで増やせますのでどんなに多くても50匹以上は対応しかねます。ホブゴブリンならもう少し多くても構いませんが、それでも60匹以上は勘弁してください。それ以上捕まえた場合はそちらで処分をお願いします」
「それで、捕獲道具の使い方は?」
「簡単です。ただの網なので、ゴブリンに投げるなり、仕掛けて追い込むなり、お好きにどうぞ」
「破れたりした場合はどうすればいい?」
「魔物の皮を使ったものなのでゴブリン程度ではそうそう破れはしないかと思いますが、もし破れたら弁償をお願いします。支給品を壊されたまま返されても困ってしまいますからな。ははは」
「それもそうか」
「ゴブリンを少し多めに捕まえて、ギルドで解体して素材にしてしまえば網の弁償代なんて簡単に返せますから心配しなくても問題ないと思いますよ。ゴブリンが持っていた武器はそちらの好きにして構いません。持ち帰りギルドで売り払うもよし。捨て置くもよしです。質の悪いゴブリンの装備など私どもには不要ですからね。あらかじめ釘を刺させてもらいますが、マジックバックは必ずお返しくださいね。一度返してくれなかった冒険者が居たのですが、もちろんギルドから処罰されていますので」
「わかってるさ」
当たり前だろう。支給品を返さずに借りパクしたらそりゃ怒られて処罰されるに決まっている。たぶんマジックバックとしては弾薬鞄の方が優秀なので、俺が盗む理由もないし、その辺は気にしていない。
「もうよろしいですかな?」
「期限とかあるのか?」
「マジックバックが一つ使えない状態になるので、できれば2.3日をめどにお願いします。森の奥へ行かれるというのなら多少過ぎても構いませんが、盗難されて遠くに逃げられても困りますので、期限は短めに設定させてもらいます」
「盗んだりしないさ」
「失礼ね」
「お許しを。冒険者を安易に信用しない方がいいのは、冒険者であるあなた方が私よりもよく知っておられるはずです」
「それもたぶんそうなんだろうな。わかった。じゃあ準備したら早速出発してくる」
「ご武運を」
男性は俺と握手をした後、元来たドアから出て行った。俺達も来た方のドアから出て、さっきの道順をレーダーで見ながら戻り、最初の男性に見送られて建物を後にする。とりあえず借りたマジックバックに網をしまい、肩にかけている状態だ。このまま出かけてもいいのだが、念のため食料などを買っておきたかったので、冒険者ギルド方面に戻り、保存食料を探すことにした。
(そういえば、弾薬鞄内の生き物や生ものはどうなるんだ?)
『生物は時間の進みを遅くして仮死状態で冬眠させます。食品も可能な限り時間の流れを操作し、保存性を高めます』
(時間を止められたりはしないんだな?)
『その通りです。時間の停止は脳への負荷が大きいため、現状不可能になっています』
(いつかできる可能性は?)
『限りなく低いですが可能性は存在します。詳細は情報が不足しています』
(例えば、温かい料理を皿ごと放り込んだとして、いつまで温かいままだ? 腐るのは?)
『一般的な温かい料理の場合、1年は温度を維持したまま保存可能です。それ以後温度が下がり始め、10年で賞味期限を迎えます。缶詰など保存性に優れた食べ物の場合、もう少し保存期間が延びます』
つまり、この弾薬鞄には時間の流れを変える機能まであるってことだ。今入っている残りの食材や水などは、普通にカバンに入れて持つよりもかなり長く保存できるらしい。これなら簡単に多くのものを持ち運べるだろう。問題があるとすれば、それほど長い期間食べ物を入れっぱなしにした場合、俺が存在を忘れる可能性がある事と、鞄の内部管理は俺の脳をアイが使って管理しているので、やりすぎて脳に何か起きないかが心配な事だろうか。
『例え内容物の一覧を忘れてしまったとしても、こちらで記録を取り、消費期限が近い食材などを優先的に出すようにしますので問題ありません。また、脳の深層能力を使用するため、かなり大量に使用されるまでは脳への影響を考慮する必要はありません。ご安心ください。具体的には、1000京トンほどまでは問題ないかと思われます』
1000京トンって、いったいどれほどの量なのか。想像がつかない。屋台でおいしかったサンドイッチを多めに買い、八百屋らしいお店で野菜などを買い、しばらく歩いたところで少しずつ弾薬鞄へ仕舞っていく。肉屋で干し肉を買ったりもしたので、食材はしばらく大丈夫だろう。井戸があったので寄り道して水入れを取り出し、限界まで水を補給しておいた。これで水も大丈夫だ。
「何か他に買っておきたいものはあるか?」
「うーん、布がほしいかしらね。あると便利よ。たぶん」
「布か・・・」
アリシアに言われて商店街らしい通りを進み、服屋を探した。見つかったのは良いのだが、布っぽいものはあんまり売っていなかったので、タオルらしいものをいくつか買って代用することにした。もうないだろうか? そう思って商店街を引き返していると、通りかかった雑貨屋でなんだか気になるものが見つかったので寄ってみる。
「どうしたの?」
「ん? いらっしゃい」
「これは?」
「ああ、これは模擬戦用の木刀だよ。中古だから少し傷が目立つけど、どうだい?」
「いくらだ?」
「1ヘイル」
「買った」
「まいどあり」
値段を聞いて即決だった。これならゴブリンを切らずに無力化できる。形は刀ではなく両刃の剣なのだが、これで木刀らしい。
「こんなものを買ってどうするの?」
「これで殴ってゴブリンを気絶させられればいいかなと思ったんだ。剣だと斬ってしまうし、素手はさすがに危ないからな」
「なるほどね」
ミルはまたナイフを持ってニコニコしている。アリシアも納得してくれたようだし、木刀改め木剣を持って商店街を後にした。方角は分からないし、コンパス的なものもないので、とりあえずこっちだろうと当てをつけた方向に向かって道を進む。街の端まではそれなりに距離があったが、壁のある部分までたどり着けた。
「街の南側にある森に行きたいんですけど、ここから行けますか?」
「ここは一応街の西門なんだ。南の森は広いからいけなくもないが、南門から行った方が速いんじゃないか?」
「なるほど。ありがとうございました」
どうやら当てが外れたらしく、西門についてしまったらしい。門番らしい衛兵に教えてもらった方向へ向かって、壁に沿った道を進む。壁際に時々テントっぽいものがあったり、屋台が出て居たりはするが、基本的に壁近くには広場と道があり、家が壁ぎりぎりまで所狭しと建っていたりはしないようだ。防衛上の理由なのだろうか、王都でも似たような光景を見たような気がする。
第70話です。緊急事態宣言が何度目かの解除を迎え、1週間くらい経ちましたね。2週間後には感染者がまた増えると思うのですが、ワクチンの効果でどのくらい増加が抑えられるか注目しています。幸い筆者は現在のところコロナ感染は周囲に無く、ワクチン接種待ちです。読者の皆様もどうかご無事でm(._.)m
次回もお楽しみに




