第六十九話 魔法剣と初依頼
適性は重要だ。それはある種の才能でもある
「~♫」
ミルにはさっき見ていたナイフも買ったのでご機嫌だ。持ち手についている宝石が気に入ったのかと思っていたが、裏に施された猫を模した彫刻を気にいったらしい。鞘を持ちながら、時々その彫刻を眺めている。値段は1ヘイルと安かったから、たぶん戦闘用っていうより装飾用の物なのだろう。剣の良しあしは分からないが、メルさんに買ってもらった中古の剣と比べてもなんだか刃の部分がもろそうな気がしたから、あくまでも自衛手段があるというアピール用だ。このナイフを警戒して昨日のような奴が寄ってこなくなるかは少し疑問だが、何もない丸腰の状態よりはいいだろう。冒険者ギルドの方向へ道を戻っていると、アリシアが急に止まったので、何かと思った。中古の武器屋を見ながら、しきりに何かを迷っているようだ。
「どうした?」
「これからしばらく冒険者として魔物の近くに行くのよね」
「そういうことになるだろうな」
「なら、私も自衛のために剣があった方がいいんじゃないかしら?」
「それはそうだが、あの店に何か惹かれる剣があったのか?」
「ええ」
そう言ってアリシアは店に入っていく。店の表側にあるワゴンセール的な安売りの棚を通り過ぎ、壁に立てかけてある少し短めの剣を指さした。壁の高い位置にあるため、アリシアの身長では届かない。
「これか?」
「ええ、うまく言えないけれど、なんだかいいなと思ったの」
「いらっしゃい」
「この剣は?」
「ああ、これか。これは魔法剣だな。50ヘイルするが、魔力を流して適性のあるやつが呪文を唱えると水をまとって戦う事ができる。サラマンダーみたいな火属性の魔物には相性がいいぞ。兄ちゃん魔法剣士になりたいのか?」
「いや、彼女の護身用の剣がほしくてね。彼女がこれを気になるって言うから聞いてみただけなんだ」
「お嬢ちゃんが魔法剣士にねぇ。ちょっと若すぎないか?」
「失礼な店員ね」
「悪い悪い。お客さんに失礼すぎたな。でもよ。この剣はその辺のなまくらよりずっと高いし、適性がないと持っていても意味ないぞ? 適性があるか最低でも調べてから買いな」
「どうやって調べるんだ?」
「そんなもん、持って呪文を唱えれみりゃいいんだよ。ほら、やってみな」
店員はそう言うと剣を取ってアリシアに渡してくる。
「重さはどうだ?」
「少し重いかしらね」
「剣が重すぎるのは疲れるだけだぞ?」
「でも、そんな持てないっていうほどでもないわ」
「本当かよ・・・」
店員は胡散臭そうな目でアリシアを見ている。
「呪文って?」
「あ? ああ、「水よ」って唱えて水にどんな動きをしてほしいのか頭で考えるんだよ。店の中を水浸しにされても困るから、刀身に水をまとうように考えてみな」
「水よ」
アリシアが呪文を唱えると、剣の持ち手側、根本の方から水がちょろちょろと出始め、刀身を薄く水の膜が覆った。
「おお、嬢ちゃんうまいじゃねぇか。適性があるどころか結構上級者だったんだな。いやぁ悪かったよ」
態度が一変して謝ってくる店員にアリシアは困惑している。とりあえず呪文の効果が切れたのか、水は少しずつ消えて行った。
「ザバって落とす奴とかもいるんだが、そんな事もないってお嬢ちゃんすげぇな。高名な魔術師の娘だったりするのか?」
「そんなところだと思っておいてくれ。それで、売ってくれるのか?」
「ああ、これならこの剣もうれしいだろうからな。50ヘイルな」
「うーん、でも護身用として50ヘイルは高いかしらね?」
「別にいいさ。これから俺が稼いで元を取ればいいだけなんだから」
「でも・・・」
「兄ちゃんも男だな。カッコいい事言っているとこ悪いが、無茶して死ぬなよ? 兄ちゃんが何の武器使うのか知らんが、武器が優秀でも結局最後は人だからな。逆にすげぇ奴でも武器がショボかったらゴブリンにも勝てない。覚えておきな」
「アドバイスありがとう」
50ヘイルという大金を支払って、見送ってくる店員に手を振りながらまた冒険者ギルドの方へ向かって歩き出す。鞘に入った剣を腰に差して、これで兜でもつければさながら少し背の低い女騎士だ。そう思った時にアリシアが若干にらんできたが、気がつかないふりをしてミルの方に顔を向ける。ミルはさっきから鼻歌を歌いながら俺の横を歩いている。よっぽどあのナイフが気にいったのだろう。案外防具探しに時間を食ったようで、お昼時になっていた。太陽がほぼ真上、食料系の屋台がにぎわっていて、自分達がお腹を空かせているというそんな情報でしか判断できないが、時計らしい時計がないので仕方ない。冒険者ギルド近くの店においしそうなサンドイッチが売ってあったので買って昼食にした。朝食よりもこちらの方がおいしい。これからもここにはお世話になろう。冒険者ギルドに入ると、少しチラチラと視線を感じるが、別に誰も話しかけてきたりはしないし、変な奴が近寄ってくる事もなかった。掲示板の方に向かって歩き、掲示板を見てみる。アリシアもミルも帝国語の文字は読めないらしいので掲示板の依頼書は見ておらず、新しい武器や防具を触って遊んでいる。
「これなんかどうかな?」
「いきなり討伐クエストなの? 大丈夫かしら?」
「いや、討伐じゃなくて捕獲らしいぞ」
「どういう事?」
「?」
ミルもアリシアも帝国語の文字が読めないから意味が分かっていないらしい。掲示板は大きいので、真ん中から5つぐらいに分けられており、採集系のクエストや、一般的な雑用、護衛などの拘束時間が長いもの、討伐クエストなど、大まかなジャンルで別れている。最も依頼の数と見に行っている人の数が多いのが討伐クエストの欄だ。掲示板から俺がはがしてきた依頼書は化け物に×印が着いた絵が描いてあり、それを見てアリシアは討伐クエストだと判断したんだろう。だが、これは討伐クエストじゃない。この依頼は魔物を売っている業者からの依頼で、ゴブリンを10体以上捕獲し、店に届ける事が依頼内容だった。つまり、ゴブリンを殺してしまってはいけないのだ。状態がよく、数が多いほど報酬をアップすると書いてある。詳細説明は店に来ればしてくれるそうなので、話を聞いてみてもいいのではないだろうか? いきなり魔物との血みどろな戦闘をやってアリシア達が耐えられるか心配はある。しかし魔物と出会わない雑用クエストは当たり前だが報酬が安く、採集系クエストは比較的安全だが採集物の知識が俺達には無い。捕獲依頼のこのクエストなら、戦闘は必要だが血を見る可能性は低く、魔物に慣れつつ問題点を洗い出すことができるだろう。そんな理由を話してみると、2人も了承してくれたので、依頼書をもって受付へ向かった。
「依頼の受注ですか?」
「これをお願いします」
さっきの依頼書と、この前騎士にもらった紹介状を出す。昨日登録する時に本当は見せるべきだったと思うが、あのドタバタで頭に血が上っていたし、あれ以上噂の元をばらまくと逃げている身では問題がありそうだったので、結局初依頼を受ける時に出すことにしたのだ。せっかくもらって使わないという選択肢はなかったが、この後受付の人がとった行動を見るにいつ出そうが結局はある程度騒ぎになる事が確定していたと知って、あの配慮に何の意味があったんだと少しの間自問自答してしまった。
「これは・・・。少しお待ちください」
「?」
依頼書ほったらかしで後ろに居た職員に声をかけ、紹介状を持って奥へと走っていく受付の人。声をかけられた職員もなんだか変に俺達を警戒しながら受付へ来ると、後ろに並んでいた冒険者に対応し始めた。後ろに居た冒険者も俺達を怪しむ目で見ながら受付へ行き、依頼書を出している。俺達は横に避けて待ちぼうけを食らっている現状、何か言う事もできず、日本人の性なのか反射的に場所を後ろの連中に譲った俺に、アリシアとミルも無言で従った。受付を変わった職員は依頼書を確認し、依頼内容を読み上げて冒険者に間違いが無いか確認を取った後、依頼書にハンコみたいなものを押してから横に置いてあった石板に乗せていた。スキャナーのように依頼書の下側から上側に向かって石板から一筋の線が移動し、全部移動し終わると石板の下から紙が出てくる。たぶん今依頼書をコピーしたんだろう。コピーした方を冒険者に渡し、受け取った冒険者達はギルドの建物を出て行った。元の依頼書は受付の人が後ろで作業していた人に渡すと、後ろの人が棚のようなものへしまっていく。棚にもいくつか張り紙があるようで、1枚だけ見えているところには「遂行中依頼入れ」と書いてあった。たぶん依頼書を冒険者とギルド側で持っておいて、依頼がちゃんと達成されたか後で照合するつもりなんだろう。そんな事を思っているとさっきの受付の人が戻ってきて、変わってもらった職員とまた入れ替わる。手には推薦状はなく、代わりに何か持っているようだ。
「ギルドマスターに確認が取れました。騎士サムフェル様からの推薦状であることが証明された為、ギルドよりその証として特殊なワッペンを支給いたします。これを肌身離さずお持ちください。サムフェル様より推薦の証をいただいているかと思います。それと一緒にしておくのがいいでしょう。それではこれを」
「ああ、はい」
何の模様かわからないが、あの村で騎士にもらったのと同じ模様が描かれた小さな布をもらった。弾薬鞄へ仕舞っている俺を見ながら、受付の人はさっき放置した依頼書を見る。
「この依頼をお受けになるのですか?」
「変にかしこまらなくても・・・」
「す、すみません・・・」
推薦状を見せる前と比べて緊張した感じの受付の人へ言うと、冷や汗を流しながら謝ってくる。逆効果だっただろうか。
「それで、依頼・・・」
「あ、はい、失礼しました。この依頼は魔物販売商人からの依頼で、依頼詳細は依頼主の店にて説明、ゴブリン10体以上の捕獲がメインになります。より多く、状態のいいものを捕獲することが望ましいそうです。間違いありませんか?」
「ああ、それで大丈夫です」
受付の人は確認を取ると、ハンコみたいなものを押して石板へ依頼書を載せる。またスキャンのような光の動きがあった後、石板から依頼書をコピーしたものが出てきた。紙の色以外、全部同じだ。
「初めての依頼ですよね。冒険者カードを確認させてください」
「はい。ほら、アリシアも、ミルも出して」
「わかったわ」
「はい・・・」
受付の人の指示に従って、昨日発行されたばかりの冒険者カードを出す。後ろで突っ立っていたアリシアと、冒険者カードをもってそわそわしていたミルにも声をかけて3人分のカードを渡し、受付の人が確認する。
「ありがとうございます。カードはお返ししますね。石板から出た依頼書をお持ちください。依頼が完了、または何らかの原因で辞退する時は、横にある依頼報告所に報告してください。辞退する場合は特別な場合を除いてペナルティが発生します。ご注意ください。また、今回は討伐クエストではないのであまり関係ないのですが、素材を売る場合は先に依頼完了の報告をお願いします。依頼の品と売却品が被って誤報告されるケースが後を絶ちません。お気をつけください。何か質問はありますか?」
「依頼主の店ってどこにありますか? 依頼書には書いてなかったんですけど」
「このギルドを出てまっすぐの道を進むと、魔物の絵が描かれた緑色の大きな建物があります。そこですね」
そう言ってギルドの片方を手で指示してくれる。たぶんこっちの方向って教えてくれているんだろうが、レーダーで方向を確認できる俺以外にこんな説明で大丈夫なんだろうか? お礼を言って受付の前を去ると、チラチラとやっぱり視線を感じながらギルドを出た。武器や防具を買った職人街の一本隣の道を進むらしい。道を進むと、たしかに緑色の大きな建物が見えてくる。木の色そのままの茶色い建物も多めなこの辺では異色な建物だ。色もさることながら、大きさも群を抜いている。建物の入り口は広く、中からなんだかわからない変な生物を後ろに従えて屈強そうな男が出て行った。たぶん魔物を買ったのだろう。
第69話です。コロナ治まりませんね。外国製の強力な変異種と、外国製のワクチンが競うように日本に入ってきている中でオリンピックをやろうとしている現状に、一般人ながら心配しております。都知事が過労で倒れちゃってますし、変異種にはワクチンが効かないんじゃないかとかいろいろ真意不明の情報も飛び交っていて、現実世界のバイオハザードも異世界並みにカオスな状態になってまいりました。そんな中魔法剣、登場しましたよ。出ただけでまだ活躍のめどは立って無いのですが、あるよという事だけを出すお話になりました。そしてユウスケ達は初依頼を受けることに。次回もお楽しみに




