第六十七話 弾薬はどうするか
戦いにおいて重要なもの。それが補給である
「ここで料金だけ聞いてみるか?」
「そうね。もう疲れてきたわ」
「じゃあ、とりあえず行ってみるか」
「お、お客さんだな」
「宿を探しているんだ、いくらで泊まれる?」
「1人5ヘイルで泊まれるぞ?」
「じゃあ3人用の部屋はないか?」
「2人用か4人用だが、4人用は今埋まっているから、泊まるなら2人用になるな」
「どうする?」
「他の宿を探しましょうか」
アリシアが嫌そうな顔をしたので引き返そうとすると、宿のおっさんが慌てて声をかけてくる。
「ま、待ちなって。今王国から難民が来ていてどこの宿も団体でいっぱいだぜ?」
「ふむ」
アリシアと顔を見合わせると、宿のおっさんが畳み掛けてくる。
「じゃ、じゃぁ、試しに近くの宿に行ってみな。たぶんどこも同じような感じだと思うぞ?」
「どうする?」
「もう疲れたから、ここでいいわ」
「わかった。1人5ヘイルだよな?」
「ああ、毎度あり」
少し高い気がするが、アリシアがつかれたと言っているのでここにすることにした。鍵をもらって通路を進み、狭い通路で箱をぶつけないように苦労しながら、何とか部屋に入る。アリシアは早速ベッドの毛布をどけて横になると、溜息を吐いてしまった。服ぐらい脱がないとしわになってしまうと思ったが、今更しわなんて気にしても仕方がないとも思う。道中で時には直に地面で寝ていたりする状態だったため、お嬢様だったアリシアがどんどん庶民的な行動を躊躇しなくなってきている。口調もそうだが、俺達との精神的距離が近づいたのか、旅のはじめならありえないであろう今のような行動もよく見られるようになってきた。ミルは俺が箱を下ろした後、リュックを下ろすのを手伝ってくれている。身体強化アシストでまったく問題ないのだが、せっかくなのでやめさせずにそれっぽく手伝ってもらい、部屋の端にあった棚の近くへリュックを置き、毛布を取り出す。
「ありがとう。ミル」
「いえ・・・」
もう寝息が聞こえ始めたアリシアに毛布を掛け、リュックから出した自前の毛布も掛ける。体感ではあるし、ミルがいつも抱き着いているから俺は大丈夫なのだが、宿にある毛布は薄いか使い古されたボロボロの物が多く、翌朝が寒い事もあって毛布は2重にするようにしていた。ミルも疲れているだろうし、俺も上着を脱いで小さな机に置くと、ベッドに入って横になる。夕食も食べずに寝てしまったアリシアは相当疲れていたのだろうと思いながら、自分自身もそれなりに疲労がたまっていると自覚する。夕食を食べていないが、まったく食欲がわかないからだ。おそらく冒険者ギルドでのひと悶着のせいだと思うが、当然のようにベッドに入って抱き着いてくるミルの頭を撫でながら、同時に背中もさすっておく。
「ミル。今日は悪かったな。もう少し気をつけるべきだった」
「い、いえ、とんでもないでしゅ・・・」
そういいつつも抱き着く力が強くなったので、耳をいじりながら背中をさすって、寝息が聞こえるまで頭を撫で続けた。ミルが寝たのを確認すると、無言のまま頭の中でアイを呼び出し、今日手に入れたライフルについて詳細を聞いてみる。
『AVT-40は未解析です。詳細は情報が不足しています』
(解析するにはどうしたらいい?)
『弾薬鞄へ解析したい武器を投入してください。弾薬鞄内で解析し、可能であれば複製、改造、修復などを行えるようになります』
(鞄にあの大きさの銃が入るのか?)
『弾薬鞄に各種の法則は適用されません。内部は特殊な空間になっており、容量制限はありません。弾薬鞄の内部は私とマスターの管轄内であり、内部ではほぼなんでも可能です』
アイの声は頭に響いているが、当然近くで寝ているミルには聞こえていない。ミルは今耳をペタンとしながら、必死に俺に抱き着いて眠っている。今日の事が新たなトラウマにならなければいいが、そうなったら今以上にミルが離れなくなるだろう。冒険者って言うと魔物を退治するイメージがあるが、冒険者として魔物などを退治する場合、ミルやアリシアを守りながら戦うのは楽ではない。1対1ならともかく、複数相手に今のライフルでは装填速度が遅すぎる。これは改善が必要だ。AVT-40というあの銃がもし今の銃より性能がいいなら、早急にあれに切り替えた方がいいかもしれない。ただし、AVT-40の弾はざっと見た感じ50発もない。2000以上の弾丸をまだ持っているはずの今のライフルもそうだが、使えば弾はなくなっていく。まだ先の事とは言え、いつか弾切れになり、銃が使えなくなる日が来るのだろうか。
『弾薬については問題ありません。弾薬鞄内部で、物質を変換して複製可能です。解析が終了すれば、銃本体の複製なども可能です。ただし、現在複製可能なのはエンフィールド銃と専用弾薬のみで、AVT-40やその弾薬複製には情報が不足しています』
俺はアイの声に軽い衝撃を受けた。さっきほぼなんでも可能だとは言っていたが。まさかコピーが可能だとは思わなかったからだ。弾薬は百歩譲ってわかるとしても、銃までコピー可能というのはいくらなんでも都合がよすぎる気がする。
(何かデメリットは?)
『弾薬鞄の維持、内部操作のエネルギーはマスターの生命力や脳内処理を利用しています。複雑な兵器や弾薬の複製で脳や体に負担がかかり、今までより疲労度が武器に応じて増加することが懸念されます。極度の疲労時には生命力を削りすぎないようにこちらでリミッターを設置いたしますが、その場合極限状態では複製などの機能が使えません』
つまり、俺の頭の中で何かをアイがやり、生きる力を少し使って弾薬鞄で普通じゃあり得ないことができる仕組みなのか。それは要するに燃料が俺自身と言う事であり、俺に負担が増え、俺が極端に疲れたり死にかけたりしている時には機能が使えないと言う事だ。おそらく死にかけている時には銃なんて撃てないだろうが、そういう時に使えない機能が、命を左右するかもしれない。
(何か、俺の生命力以外に弾薬鞄の維持とかに使える燃料を作れないか? 代替燃料っていうか、無理ならエネルギーを貯めとくとか、いざっていう時に使える非常用の備蓄みたいなものを作れないか?)
『普段から少しずつエネルギーを備蓄することは可能です。ただし、身体的、精神的な負担が増すため、一度に大量のエネルギーを貯める事はお勧めできません。また、代替燃料は弾薬鞄へ物を投入すればなんでも変換可能です』
(なんでもって、例えば?)
『一般的な食料はもちろん、ゴミ、糞尿、木材、石材、水、ガス、遺体、弾薬、土、空気、ものによって効率に若干の差が生じますが、基本的にどんなものでも変換可能です。変換にはものによって時間がかかる場合があります』
ただ弾がいっぱい入る鞄だと思っていた弾薬鞄は、どうやらすごいアイテムだったらしい。この世界に連れてこられた時に銃をはじめいくつか元の世界では持っていない物を手に入れていたが、その中でもダントツに使い勝手がよくて便利な物なのかもしれない。弾薬を生成するならもっと鉄とかが必要なんじゃ無いかと思っていたが、空気でも可能ならいくらでも無限に作りたい放題だ。宇宙にでも行かない限り、エネルギー不足には困らないだろう。効率の差があるから、できれば効率のいいものを使いたいが、手に入りにくいものは多少効率が落ちても簡単に手に入るものを使おう。
(効率の差って、どのくらいあるんだ?)
『生成物の原材料に近いものほど、少ない材料や高効率で大量生産、修復が可能です。原材料からほど遠いものほど効率は悪く、生産数や生産時間に悪影響があります。仮にエンフィールド銃用の紙薬包を1発生産する場合、本来の材料である紙などを利用すると1秒で生産可能ですが、空気から作る場合、1発に1時間かかります』
かなりの開きがあるようだ。原材料と近いものほど早いのはよくわかるし、逆も納得できる。そりゃそうだろうな。
(じゃぁとりあえず、銃本体と剣、ナイフを全部3セットずつ生産しておいてくれ。弾薬は時間と材料の許す限り永遠に生産を頼む)
『材料の指定は?』
(とりあえず今は何もないから、空気から作ってくれ)
『剣とナイフの生産には情報が不足しています。対象物を弾薬鞄へ投入し、解析を行わせてください』
今の状態では剣やナイフは生産できないらしい。解析をしないと生産できないっていうのが地味にネックになりそうだ。街で見た強そうな武器をこっそりコピー。みたいなことはできないって事だろう。そうでなくても便利なのに、そこまでは贅沢すぎる。
(明日入れるから、銃と弾薬の生産だけ頼む)
『了解しました』
少し体が重くなったかな? と感じなくもないくらいの違和感が現れたが、3分もするとその感覚もなくなり、そのうち眠気が襲ってきたので、その日は眠った。翌朝ミルの尻尾がくすぐったくて目を覚ますと、もう日は登っているらしく、まぶしい光が窓から指していた。ミルはまだ寝ているので、起こさないように気をつけながら、ベッドのすぐ近くにある弾薬鞄を引き寄せる。部屋が狭いのがこんなところでプラスに働くとは思わなかったが、それは置いておいて、鞄を開け、剣もつかんで入れるとすっぽり入った。初めてこの鞄を見た日、興味本位で手を突っ込んだら肩あたりまで簡単に入ったような気がしたが、足と同じくらい長さがあるこの剣が簡単に入った今の光景は、やっぱりここは元の世界と違うんだと言う事を俺に思い知らせてくる。ナイフが入ったリュックはベッドに寝たままでは手が届かないので、とりあえずは剣だけでいいだろう。アイに剣の予備を生産するための解析と、解析が終わり次第空気を使って剣の予備を3本ほど生産するように命じて、弾薬がどうなったかを見てみたが、まだ1日経っていないからだろうか。数はたぶん増えてない。今まで何発撃ったのか正確に覚えていないせいもあるが、たぶん増えていないと思う。永遠にと言ったが、10万発も作ったらやめさせてもいいかもしれない。AVT-40の件もあるが、あくまでも旧式銃の紙薬包がいくつあっても意味がない気がしてくる。昨日、弾薬の生産ができると知るまでは減る一方だと思っていた銃弾だが、補充のめどが立った途端多すぎても意味がないと思ってしまうのは、贅沢な悩みかもしれない。容量に制限はないって言っていたはずだし、あって損はないかもしれないので、永遠生産命令は撤回せず、放置して鞄の中を見ていた。カバンの中には紙薬包が規則正しく並び、始めて見た時はなかった隙間が空いている。剣を入れた分、紙薬包がなくなって隙間が空いているようだ。中は紫って言うか、濃い青っぽいなにか暗い感じの色で統一されているのに、時々チラチラと光る空間が広がっていて、その中に剣が浮いている。見つめていてもしょうがないので鞄のふたを閉めて近くに置くと、ミルの頭を撫でながら起きるのを待った。
第67話です。お久しぶりです。正直読者が離れてしまっているのではと思いますが、更新は続けて行きます。次回もお楽しみに




