第六十五話 冒険者の初仕事は?
実演販売は効果が高い
おばあさんはヨタヨタと人込みをかき分けると、中年のおじさんが椅子で寝ている屋台に入った。
「どうかね?」
「これは?」
見た感じコートというか、いわゆるローブという奴だろうか。頭から足の先まですっぽり隠せる黒色の服だ。結構しっかりしているが、防具として使うとなるとやはり服では不安がある。
「魔法のローブじゃよ。普通の布のローブに魔力を込め、強度が上がっておる。魔術師の冒険者が売ってきたのじゃが、金に困っておったようでの、いいものが安く手に入ったのよ。ヒヒヒ」
「いくらなんだ?」
「100ヘイルじゃな」
「その横にあるやつは?」
「これは普通の布のローブじゃから2ヘイルじゃよ?」
「つまりこれはすごく高いってことか」
「魔法のローブとしては少し安いくらいじゃな。中古だから安くしたのじゃ」
「ふーん・・・」
俺が興味なさげな態度をとると、おばあさんは少し焦ったような表情になる。
「か、買ってくれるなら、何かこの店の商品を他に安くしてもよいぞ? どうじゃ?」
「なぜそこまでこのローブを勧める? 何か問題でもあるのか?」
「それは・・・」
おばあさんは口ごもってしまった。これでは買えない。
「言えないような曰く付きの品ってことだな。じゃあ要らない」
「ま、待つのじゃ!」
背を向けようとした俺の手を、必死におばあさんはつかんでいる。その声で寝ていた中年男性も起き、事情を察したようだ。
「母さんもしかして、姉さんのローブを売る気なのか?」
「姉さんのローブ? どういうことだ?」
俺が睨み返すと、おばあさんも中年男性も少し後ずさる。
「詐欺か?」
「ローブの出所については謝る。だからお願いじゃ。このローブを買っておくれ」
「さっきの質問に答えろ。話はそれからだ」
「わかった。俺が話そう」
口ごもるおばあさんを座らせて、中年男性が俺の前に来る。
「立ち話をしていると変に見られるし、そこは店の前だ。裏で話さないか?」
「裏へ連れ込んでカツアゲか?」
「そんな馬鹿な真似しないさ。たぶんあんたなら目をつぶっていても俺を倒せるだろ?」
「否定はしないでおこう」
俺の返事に男性がゴクっとつばを飲み込み、屋台の奥へと入る。俺達もそれに続いた。おばあさんは店番のようだ。屋台の裏は建物の壁が近く、薄暗くはないが、裏方の作業をする人が遠くにちらほら見えるだけで、人気が少なかった。ミルが怖がって俺にくっついてくる。アリシアを後ろに庇いながら、いつでも剣を抜けるようにして、ミルの頭を撫でつつ中年男性と向き合った。中年男性は俺の動きを見て冷や汗をかいているが、ローブを持った手を握って耐えているらしい。
「このローブはな、死んだ姉さんの形見なんだ」
「それをなんで俺達に?」
「魔法のローブだって言っただろう? 姉さんはそれなりに実力のある冒険者だったんだが、街中で暴漢に襲われたらしくてな。1人に対して相手が複数だったらしくって、多勢に無勢だったみたいだ。姉さんは死んだ。残ったのはこのローブと杖だけ、他の金品とかは奪われていたんだ。俺達家族は稼ぎ頭の姉さんを失って前以上に貧乏になった。もともと裕福じゃなかったが、明らかに収入が激減したからな。俺も冒険者をしているが、歳にはかなわなくて、母さんと俺だけが生きていく、たったそれだけの金を稼ぐのも大変だ。だからここで姉さんの遺品や知り合いの職人からもらった失敗作を治して売って、小銭を稼いでいる。たぶん母さんは、そのお嬢ちゃんが姉さんに見えたんじゃないかな」
「私?」
目を向けられたアリシアが驚く。
「このローブは、姉さんがあんたくらいの頃に魔術師の師匠からもらったものらしいんだ。だから貧乏な俺達には不釣り合いなぐらい効果の高い代物で、姉さんもかなり助かっていた。暴漢達はそのことに気がつかなかったみたいだが、このローブだってちゃんと売ればさっきの値段の倍はするはずなんだ。でも、姉さんが居ない今、このローブが魔法のローブだって誰も信じてくれない。ならせめて、姉さんに似ているあんたに使ってもらいたいと、母さんは思ったんだろう。あんた小さい頃の姉さんにそっくりだからな。このローブは、使っている人を守る事に長けている。姉さんはローブを脱がされて乱暴されたから効果はなかったみたいだが、ナイフで刺すぐらいならこのローブは守ってくれるはずさ」
「そんなに強いなら、実演して見せてやれば買い手がつかねぇか?」
「魔力に適性のある人間が使わないと効果が出ないらしいんだ。俺と母さんは合わないらしくて、俺達が着るとただの布のローブになっちまう。だから誰も信じてくれないんだ」
「なんでアリシアなら大丈夫だってわかる?」
「母さん、あんた達をどうやって連れて来た?」
「俺の手を引っ張って止めてきたから、何事かと・・・」
「やっぱりか、母さんは姉さんと近い魔力の人を探していたんだよ。で、あんたと、その近くにいるお嬢ちゃんにたどり着いたんだろうな。手をつかんで、たぶん魔力を勝手に調べたんだと思うぜ」
「そんな簡単に調べらるのか?」
「普通は訓練が必要だ。今は歳取っているけど母さんも元魔術師だからな。朝飯前だろ。姉さんが母さんと魔力の質が違うって事に小さい頃は喜んでいたが、それがこんなところであだになるなんてって、姉さんが死んでから良く泣いていたよ」
そもそもこの世界の人間じゃない俺に魔力があるのかという疑問もある。それを言い出すとめんどくさいことになるので言わないが、調べたというのが本当なら、俺にも魔力があるらしい。というか、冒険者ギルドでギルドカード作った時にも使ったのを、早くも忘れかけていた。魔力に質の違いがあるという初めて聞く情報もあって訳が分からないが、俺もちゃんと訓練すれば魔法が使えるのだろうか?
「でも、おばあさんが手を握ったのは俺だぞ?俺がたとえあんたの姉さんと同じような魔力でも、アリシアがそうとは限らないんじゃねぇのか? それともアリシアも手をつかまれたのか?」
「来る時につかまれたわ。失礼な人だと思ったけれど、妙にうれしそうな顔をしていたわよ」
「母さん、やっぱり嬢ちゃんも調べていたんだな。2人とも適正ありって事なんだろうよ。なぁ、仮に買ってくれなくても、このローブが魔法のローブだって証明する力を貸してくれるだけでもいいから、何とか頼めないか?」
「頼むって、何をだよ」
「実演してみろって言っただろ? でも俺や母さんじゃダメなんだ。手伝ってくれねぇか?」
「仮に手伝うとして、俺達に何のメリットがあるんだ?」
別に好意で手伝ってもいいのだが、ミルを助けた時に言われたように見返りを求めないのを不審がられても困るので、一応聞いてみる。仮に何かメリットがあるならそれでいいし、あまり条件がよくないならそれを理由に断ってもいいだろう。
「あのローブが売れればかなりの金が入る。俺達は今形見を売り払ってでも生きなきゃいけないほど金に困っているんだ。それを打開してくれた暁には、店から何でも好きな物2つまでもっていっていいぜ。どうだ?」
「うーん、手伝うのは俺達3人だから、最低3つにならないか?」
「そのぐらいならいいが、それで手伝ってくれるのか?」
「何か特殊な事をするわけじゃなくて、ローブを着て効果を実証させればいいんだろう? なら安いものだと思ってな」
「ありがとう。ありがとう」
泣きながら両手で握手を求めてくる中年男性の声が聞こえたのか、おばあさんもやってきて、事情を聞くと涙ながらにお礼を言われた。ミルも調べてもらったが、ミルには適性がないそうで、落ち込んだミルの頭を撫でながら作戦会議を開く。ある意味、これが冒険者初の依頼だ。あの人込みで実演販売っていうのはハードルが高そうだが、俺とアリシアなら俺がマネキンになるしかないという事で、自動的にローブを着て実演するのは俺になった。ローブを着た途端一瞬ローブが光り、なんだかローブが軽くなった感覚がある。一度顔を見合わせた中年男性が自分の持っていたナイフでローブの端を切りつけると、固い音がしてナイフが弾かれた。ローブは布本来のゆったり感のままだが、ナイフは弾かれる。どんな原理かわからない。まさにファンタジーだな。
「よし、行けるぞ!」
第65話です。すぎてしまいましたがメリークリスマス٩(^‿^)۶٩(^‿^)۶
あと2日、今日入れても3日で来年ですね。もういくつ寝ると(^^♪
今年の更新はこれでおしまいになります。来年はまたストックを作るため書き溜めを予定しているので、新年早々の更新などはできず、来年の更新はかなり間が空くと予想されます。現在10~20話分くらいストックがあるのですが、更新ペースと執筆ペースを比べてみると、世間が来年の夏休みに入るころにはストックがなくなって書いたものをすぐ次回に更新する状態になると予想されます。その状態だと執筆に追われる状態となってさらなる質の低下を招くと思うので、更新を意図的に中止して執筆用の時間を設けることにしました。更新を楽しみにして下さる方には申し訳ないのですが、年の切り替わりをきっかけに、少しお待ちいただけると幸いです。物語的にはお話の途中でぶった切る形になっていますが、そこが逆に次回更新を期待できるととらえていただけたらな。などと勝手に思っています。来年もよろしくお願いいたします。今年1年、異世界に響く銃声をご愛読いただき、ありがとうございましたm(._.)m
よいお年をお迎えください。




