第六十四話 ギルド公認雑貨店
初心者は安さを求める。しかし、実際は初期ほど金がかかる
「いらっしゃい。ギルド公認雑貨店にようこそ」
「アリシア、探して来いよ」
「ええ、ありがとう」
アリシアはミルの手を引っ張って出迎えてくれた女性店員に何か耳打ちし、店の奥へ引っ込んだ。ミルも連れて行ったのは謎だが、俺はその間に適当な棚の雑貨を見る。壁に立てかけられた小さ目のナイフを見ていると、男性店員が近寄って来た。この人も元冒険者なのだろうか、歳はとっているが、プロレスラーみたいながっしりした体格をしている。
「坊主、新人か」
「そうですね」
「かしこまるこたねぇよ。俺だって元冒険者だ。普通にしな」
「じゃぁ、そうさせてもらうよ」
「そうこなくっちゃな。何を買いに来たんだ?」
「連れが買いたいものがあったらしいから連れて来たんだ。俺は特に何かあるわけじゃない」
「あのかわいこちゃん達か。お前も罪な奴だな」
「別にモテてるわけじゃないさ。守るべき存在であり、同時に大切な仲間ではあるけど」
「冒険者ってのはそういう物だ。このナイフを見ていたようだが、その剣じゃ不満なのか?」
「いや、攻撃の手札は多い方がいいかなと思っただけだ。それに、ナイフは武器にしか使わないというわけでもないだろうし」
「わかってんじゃねぇか。新人はナイフなんかいらないと思っているやつが多いが、魔物の素材を自分の剣ではぎ取っていたら剣がダメになっちまうからな。そういう行為には専用の道具を用意するべきだ。それにウッドマンなんかだと剣でやるのは危険な場合もあるし、そういう時にこの店の雑貨は便利で安いからな。せいぜい金を使って便利と安全を買っておけ」
「忠告ありがとう。彼女達は依頼の時連れて行くんだが、どっちも戦闘系じゃないんだよな。防具ってないか?」
「防具か、ここでも取り扱ってはいるが、安物だからあんまりあてにならんな。熟練冒険者が使い捨てにする用か、本当に金のない駆け出しのひよっこが買う用の安さが売りな物だ。あの嬢ちゃん達には、もっといいものを買ってやれ」
「じゃあ、そのいい防具がある店ってどこにあるんだ?」
「あっちの道の先にあるのが鍛冶師の多い職人街だ。武器や防具でそれなりから上の質のやつはみんな職人街にある防具屋や武器屋で買うといい。鍛冶師どもは自分の作品に厳しいがその分自信も持っている。失言には気をつけろよ」
「なるほど、職人が作った出来立ての新品武器や防具が買えるわけか」
「他の街から流れてきた武器や中古でいいならもう少し手前で市をやっているからそこで買いな。へんなもんつかまされないように目利きをちゃんとしろよ。あと防具の中古はやめておけ。状態にもよるがたいていはすぐ壊れちまうからな」
「わかった。他に気をつける事は?」
「職人って言ってもピンキリだ。質がいい武器を作る職人の武器の横に、弟子が作った粗悪品が堂々と置いてある店もよく見る。中古もそうだが、目利きはしっかりしろよ。防具は命を守るのに不可欠だ。よっぽど金に余裕がない場合は別だが、妥協はしない方がいい。あと、治療院で治療薬やポーションを買っておくと安心だな」
「ポーション?」
「魔力や体力を回復してくれる魔法の薬さ。ちょっと高いせいで新米どもは手を出さないが、あるのとないのとでは安全性にかなりの差が出る。何を買ったらいいかわからなかったら毒抜きのポーションを人数分と体力回復ポーションを一人3本ずつ買っとけ。金が足りないなら毒抜きだけでいいから」
「いろいろありがとう。勉強になったよ」
「いや、俺の女房も獣人なんだが、ギルドでの騒ぎ聞いたぜ。お前はいいやつだ。死ぬんじゃねぇぞ」
張り手を食らったかのような音が出る勢いで背中に1発バシッと手を当てると、男性店員は去っていき、入れ替わりに女性店員とアリシア達が戻って来た。袋を持っているので、目的のものは買えたようだ。
「いくらですか?」
「全部で3ヘイルですね」
「じゃぁ、このナイフ2本も一緒に下さい」
「じゃあ合計7ヘイルですね」
「わかりました」
代金を払って店を出る。王国通貨をできれば先に使いたいが、ギルドの注意事項説明書曰く王国通貨のような他国の金が使える店は多くないそうで、注意が必要とのことだった。ギルドで両替はしてくれるらしいが、いきなりあの人込みで大金を出して変えてもらうのもリスクが高いと思ったのでやめておく。
「次はどこへ行くの?」
「アリシア達を連れて行くのにその恰好じゃ怖いからな。攻撃は通さないつもりだが、木の枝で服が破れましたとか言われても困る。もっと丈夫な服、できれば防具を買いたいんだよな。あと、アリシアもミルも一応護身用っていうかカモフラージュの為に武器を持っていた方がいいからそれも買うつもりだ。宿探しはそれが終わってからだな」
「この前のあのナイフじゃダメなのかしら?」
「あれでもいいけど、どうせならちゃんとしたのほしいだろ?」
「それもそうね」
「はい・・・」
その後、雑貨屋の男性店員に教わった道を進むと、道が狭くなりはじめ、通りの奥から煙が散見されるようになり、道のところに立つ建物の前に、木の骨組みに布を張ったテントっぽいものを屋根にした屋台が並ぶようになった。木でできた棚に剣や盾、斧や槍、名前は分からないがなんだかアニメで見た事がある感じの武器が並んでいる。鎖鎌を見つけた時はさすがに驚いたが、2メートルはありそうなでかい盾とか、誰が使うんだろうという感じの武器も並んでいる。片側がピカピカの新品らしい武器を売るのに対して、もう片方は修繕の後があったり、使い込まれた感じの武器が売ってあったりする。おそらくこちらが中古だろう。中古屋はとりあえず後回しにして、新品の並ぶ屋台達から防具屋を探す。人込みを怖がって尻尾を手で隠しながら俺に寄り添ってくるミルや、離れないように手を引っ張っているアリシアに気を使いながら10件ほど店を通り過ぎた頃、剣の数が減って鎧とか盾の数が増えてきた。鎖帷子という、中世の映画で騎士が来ているじゃらじゃらした金属の服や、国境の町でミルに頼まれて買ったような皮鎧のほか、冒険者ギルドの3階にいた完全武装の男性みたいなフルアーマーを置いてある店もあった。さすがにこんなのを買ってもアリシア達には意味ないが、しばらく探していると、しわしわのおばあちゃんに手をつかまれる。
「ん?」
「お前さん、そのお嬢ちゃん達に防具を買ってやるんだろう?」
「なぜそれを?」
「さっきから暇だったんでずっと見ていたけど、武器には目もくれず、かと言って重厚な防具にも興味なさげで、軽装な鎧や防具ばかり見ている。金がないのかとも思うたが、身なりは別に悪くないからそんなこともなさそうじゃ。では何をしているのか? 後ろの子達に防具を買うって事だろうと思ったのさね」
「俺が使う可能性は考えなかったんですか?」
「あんたはもう皮鎧があるじゃないか。2枚重ねするつもりだったのかい?」
「いいえ、おばあさんの指摘で当たっていますよ」
「ヒヒヒ。そうじゃろそうじゃろ? お前さん達にいいものがあるのじゃ。ついて来ぬか?」
「あなたは誰なんですか?」
「あそこにでっかい槍があるじゃろ? あの店で物を売っておる」
「どうする?」
「怪しいわね」
「でも、怖い人じゃなさそうでしゅ・・・」
ミルがこんな事を言うなんて珍しい。怖そうに見えないっていう情報は重要だ。レーダーにも反応はしていない。
「わかりました。行きましょう。ただし、買うと決めたわけじゃないですからね?」
「わかっておるわい」
第64話です。いろんな物語で、ギルドとつながった雑貨屋さんを目にします。肉屋さんが焼き肉屋をやったりコロッケを売る感覚なのかなと勝手に思っています。餅は餅屋みたいな。その道のプロとつながっているからこそ、彼らが本当に欲しいものを安く売れて、安定した需要が安く売っても設けにつながる。みたいなシステムです。最初にその発想に至った小説家には感謝の言葉と尊敬のまなざしを送りたいです。次回もお楽しみに




