第六十三話 冒険者登録
入るは易し、抜けるは難し
「冒険者になりたいのですが」
「あ、はい、新規の人ですね。文字は読み書きできますか?」
「たぶん」
「ではこちらの紙に書かれた項目を埋めてください。横に説明が書いてあります」
紙を受け取ってみると、なんだかざらざらした感じの紙だった。例によって読めるが、もちろん日本語ではない。
「あなた読めるの?」
「ああ、読めるが?」
「そう、帝国語も読めるなんて、優秀なのね」
「アリシアは読めないのか?」
「一応教わってはいたけれど、まだ完全じゃないのよ。時々言っていることが分からない時があるし、これも読めないわ」
「ミルは?」
ミルにも問うが、首を振られた。たぶん帝国語と王国語で話す言葉も違うのだろう。アイの翻訳でしゃべっている俺には全く違いが分からないが、しゃべるとアリシアにもアルヴィンさんにも女の子や爺さん達にも、この受付の人にも通じているので、気にしなくていいかもしれない。項目はそんなに多くないので、鉛筆みたいなものをもらって書いていく。
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冒険者登録証記入用紙
名前
年齢
性別 男 女
種族(任意)
出身(任意)
得意分野(任意)
不得意分野(任意)
得意武器(任意)
所属団体(任意)
過去経歴(任意)
その他特記事項
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細かい項目を省くと大まかにこんな感じである。
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冒険者登録証記入用紙
名前 佐野勇介
年齢 16歳
性別 男○ 女
種族(任意) 人間
出身(任意)
得意分野(任意) 遠近距離戦闘
不得意分野(任意) 団体行動 貴族相手の交渉
得意武器(任意) 射撃武器 両手剣 投擲武器
所属団体(任意)
過去経歴(任意)
その他特記事項
他の冒険者との共同依頼や、大規模団体依頼、単独行動、
生活に著しい制約が生じる依頼は原則断ります
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一応、書いた後読み返してから受付の人に出してみる。ちなみに、受付の人は男性だ。獣耳が生えているので彼も獣人だと思われる。俺が書いた書類を読んだ後、もう一度俺の方へ書類を向ける。
「この特記事項にある、団体行動が生じる依頼は断るという記述、そう書いておきながら1人での行動もダメとは、どういう事でしょうか? 矛盾しているのでは? あと、苗字がおありと言う事はもしや・・・」
「ああ、いや、使う武器が特殊で、他の冒険者と一緒に行動したくないんですよ。俺は常にこの2人と行動を共にする必要があるので、この2人と離れなければならない依頼もNGです。後、遠い外国の出身で紛らわしいですが、俺は貴族じゃありません」
「そうですか、わかりました。ではこちらの石板に手を置いてください」
そう言って受付の人はステーキとかを焼くような大きさの平べったい石板をカウンターへ置く。結構重そうな音がした。
「これは?」
「これであなたの魔力を使い、冒険者カードを作ります。さっき書いた用紙の情報をカードへ書くのです」
「なるほど」
とっさに俺に魔力なんてあるのかという疑問が沸いたが、今更やめますとも言えず、恐る恐る手を置いてみる。俺が右手を石板の上に置くと、受付の人が石板の一部にさっきの紙と金属の小さな板を当てる。そうすると自販機にお札を入れた時のようにすっと吸い込まれ、石板が少し光った。
「もう手を離して大丈夫ですよ」
受付の人の指示に従って手をどけると、さっきまで何もなかった石板が一部くぼんでおり、さっき入れたものと似た金属の板があった。受付の人はその金属板を手に取って裏返し、何かを確認すると紐を通して俺に渡してくる。
「これがギルドの所属を示す冒険者の証、冒険者カードになります。なくさないようにご注意ください」
俺は冒険者カードを受け取って首から下げ、服のポケットに入れる。旅の途中で元の世界の服をまねて付けた手作りのポケットが、こんなところで役に立った。
「冒険者に関するいくつかの注意事項です。文字は読めるとのことなので、あちらの椅子にでも座って目を通してください」
「登録はこれで終わりですか?」
「はい、今からあなたは冒険者です」
「では、続いて彼女達の登録もお願いします」
「え?」
「ち、ちょっと・・・」
俺の発言に受付の人は固まり、アリシアが服を引っ張ってくる。
「冒険者として依頼を受けるなら、当然この街を一時的に出る必要も出てくる。その時にアリシア達が移動しやすいようにするのさ。冒険者の依頼に一般市民がついていくのは変だが、同じ冒険者なら構わないだろう?」
「それはそうだけど、私、戦闘なんて・・・」
「大丈夫。戦闘は俺がやるから」
「うっ・・・」
若干不安そうな様子で紙を受け取り、一度見た後、俺に紙を渡してくる。
「私には読めないし、書けないわ。あなたが書いてちょうだい」
「わかった。アリシアって何歳だっけ?」
「くっ、私は・・・」
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「できました」
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冒険者登録証記入用紙
名前 アリシア
年齢 13歳
性別 男 女○
種族(任意) 人間
出身(任意) 王国
得意分野(任意) 交渉
不得意分野(任意) 戦闘
得意武器(任意)
所属団体(任意)
過去経歴(任意)
その他特記事項
単独での行動、依頼、戦闘は断ります。
他の冒険者との共同依頼も断ります。
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「彼女もあなたとの行動が前提ですか?」
「そうです。俺達3人はセットで行動します」
「わかりました。では石板に手を」
「はい」
先ほどと同じように紙と金属板が石板に吸い込まれ、光った後に手をどけると、何もなかったところから金属板が現れた。
「最後はミルだな」
「は、はい・・・」
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冒険者登録証記入用紙
名前 ミル
年齢 15歳
性別 男 女○
種族(任意) 猫人族
出身(任意)
得意分野(任意) 周囲警戒
不得意分野(任意) 単独行動
得意武器(任意)
所属団体(任意)
過去経歴(任意)
その他特記事項
単独行動、他の冒険者との共同依頼は断ります。
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「彼女も、あなた方と行動を共にするのですね?」
「はい、そうです」
「わかりました。では石板に手を」
「はい・・・」
ミルが恐る恐る手を出すので、後ろから支えてやる。ミルがビクッと震えたが、慣れてきたのか大丈夫そうだ。俺達と同じように金属板が出てきて、ミルの首にも冒険者カードをかけてやる。
「団体行動をされるのでしたら注意事項の説明書は1冊でよろしいでしょうか?」
「そうですね」
「わかりました。依頼を受ける時はそちらの掲示板で依頼書を取り、こちらの受付へ持ってきてください」
「わかりました」
「ご武運を」
受付の職員に頭を下げて一度掲示板とは反対側、椅子がある方へ移動する。時々視線を感じるが、レーダーに敵意反応はないのでスルーだ。椅子がある場所の奥には小さな部屋や2階へ行く階段があったので、誰もいない部屋の一つへ入ってドアを閉める。アリシアがため息をつき、ミルが部屋にあった椅子の上で丸まった。
「ミル、大丈夫か?」
「はい・・・」
とりあえず頭を撫でながら、ミルの隣に座って注意事項の説明書を開いてみた。アイのアシストを受けて一瞬でページを記録し、記憶していく。俺の読むスピードを見てアリシアはまともに読んでないと考えたのか、つまらなそうに足をぶらぶらさせている。貴族のご令嬢だった出会った当初とは違い、完全に今は年相応の女の子だ。13歳だと初めて知ったが、今の状況がつまらないだろう年齢なのは俺にもよくわかる。ミルが年下だと言う事も初めて知ったが、ミルは俺が年上であると言う事に衝撃を受けていたようだ。今更年齢が違う事で何かが変わったりはしないと思うが、ミルがまた落ち込んだりしても困るので気をつけよう。あと、獣人にもアメリカ人とか日本人みたいな同じ人間だけど全然違う種類がいるそうで、種族欄を獣人と書こうとしたら受付の人に止められてしまった。そこでミルに種族を聞くと猫人と答えられたのだが、そういうものなんだろうと思って書いておいたので、詳細は分からない。奴隷商館で見たいろんな種類の獣人にも、ちゃんと種類ごとに名前というか呼び名みたいなものがあるそうだ。白人と黒人が同じ人間なのに全然違うのと同じように、獣人と言ってもミルのような人に近い種類や、見た目はほぼ動物だが人間の言葉をしゃべるし二足歩行もするような、頭のいい動物みたいな位置の獣人もいるみたいで、元居た世界の人間より複雑にいろんな種類の人種が混ざって生活しているらしい。
「おし、読み終わった」
「嘘でしょ?」
「いや、読み終わったぞ。説明書って言うからどんな難しい事が書いてあるかと思ったが、さっきの奴らみたいなバカも多いんだろうな。簡単な事が簡単に書いてあるだけだったよ。人の物を盗むなとか、街中で剣を振り回すなとか、そんなレベルだ」
「呆れた。冒険者というからどんなものかと思っていたけれど、そんな簡単な事が注意事項だなんて」
アリシアはかなり呆れたようだ。俺もこれは水準が低すぎると思う。
「まぁ、あえて書かないと問題を起こす奴が多いってことだろ。さすがにあんな奴らばかりだったら困るけどな」
俺の発言にミルがビクッと震え、服の袖をちょこんとつかんでくる。
「ミル、怖いかもしれないが、今後はああいう連中と同じ土俵で働いて金を稼ぐんだ。頑張ろうぜ」
「はい・・・」
暗い顔のミルも、頭を撫でながら耳をいじると少し安心したらしい。
「じゃあ、依頼は明日にして、今日はとりあえず宿を探そうか。あと、魔物の討伐とかをやるなら危険が伴うから、防具ってほどじゃなくても、今の服よりは頑丈な服とかを買おう。戦闘は俺がやるけど、丸腰は不安だろうから、アリシアとミルにも自衛用の武器を買おうと思う。他には何か買いたいものがあったりするか?」
「えっと・・・その・・・」
「ん?」
珍しくアリシアが歯切れの悪い言い方をしてくる。
「何か俺に言いにくいものか?」
「ええ」
「そうか。じゃぁそれが売ってそうな店の近くへ行ったら教えてくれ。何を買ったかは見ないし、俺は金だけ払うから」
「ごめんなさい。そうしてくれると助かるわ。古着屋か雑貨屋で買えると思うの。後で寄りましょう」
「わかった」
そのあと冒険者ギルドを出て十字路を一周してみたが、教会のような建物と冒険者ギルド以外の2つの角にあるうちの立派な方の建物は、この街の市役所みたいな場所で、教会みたいな建物はそのまま教会と修道院らしい。修道院に治療院があり、病院的な役割があるようだ。元の世界でよく見るような十字に人がくっついたものではなく、男性か女性かもわからない中性的な顔立ちの人が、獣人のこれまた性別のわからない人と手を取り合っている石像の上で、鳥が止まっている物が展示されている。たぶんこの石像がこの国かこの街の宗教シンボルなんだと思う。残る1カ所は大きな商店で、冒険者御用達らしい。初心者用のアイテムを、ギルドの金銭的支援で他の店より安く売って儲けているようだ。まずはここへ向かう。
第63話です。ゲームで映画撮影したりあちこちやっていたら更新日を2時間すぎる事態になりました。事前の予約投稿を心がけたいものですね。冒険者登録の仕方は作品によっていろいろ、冒険者カードや冒険者証の形式や形も様々です。銃を出す作品という事で、大まかなモデルとして軍隊で使うドックタグを参考にしています。2枚はないし、歯を開ける用の溝もありませんが、おおむねそんな感じだと、わかる方は想像してみてください。次回もお楽しみに




