第五十七話 その後から翌朝
アフターケアは重要
「何から何まで、ありがとうございます。なんとお礼を申し上げればいいのか・・・」
「別にいいさ。な? ミル?」
「はい」
「いえ、でも、ここまでしていただいて何もお礼をしないわけにはいきません。何かお礼をしたいのですが」
「いや、ほんとにいいって。ああいう連中はよく来るのか?」
女の子がお礼をしたいと言ってくるが、別に対価を求めて助けたり手伝ったりしたわけじゃないので断り、なおも食い下がる女の子に質問して話題を変えた。ちょうどいい話題が無かったのでさっきのような迷惑な客の存在について聞いてみたが、女の子は暗い顔をした後コクリとうなずいてくる。たぶん今日みたいに酔った客が女の子に絡むのだろう。大変そうだ。
「たまに、酒場のお客様が酔った勢いで暴れる事がございます。私では対処できないので、ノム様がヘズさんを雇ったんです。元冒険者のヘズさんは力も強いし結構有名なので、今日のようにヘズさんが暴れるお客様を撃退してくれることもあります」
「でも、ヘズが君に暴力をふるうのはおかしいよな」
「いえ、あれは、その、私が悪いんです。私がドジなばかりに、お客様やノム様達に多大なご迷惑をおかけしているので」
「でも、殴ったって意味ないだろ。君がケガして働けなくなったらどのみちあいつらが困るんじゃないのか?」
「そ、それは・・・」
女の子は俺のもっともな問いかけに黙り込む。少し暗い雰囲気が漂ったほか、ミルがまたウトウトし始めたので、俺は退散することにした。このままだとミルが部屋にたどり着く前に寝てしまう。
「まあ、また困ったことがあったら言えよ。少しくらいなら力になってやるから」
「はい、あの、ありがとうございました」
「ああ、おやすみ」
頭を下げる女の子に手を振り、フラフラし始めたミルを抱えて2階に上がった。部屋に戻ると、旦那さんがアリシアの手を握っている。何かあったのかと思って近寄ったら、旦那さんが困ったような顔を向けて来た。
「うなされているようだったから近寄ったら手をつかまれてしまってね。無理に引き離すわけにもいかないし、困っていたんだ」
「悪いな、変わろう」
俺はアリシアに近づくと、旦那さんとアリシアの手の間に自分の手を滑り込ませた。旦那さんの手が離されて後ろに下がったのを確認し、しっかりとアリシアの手を握ってやる。アリシアは汗をかいているようだ。そんなにうなされているのだろうか?
「君は大変だね。こんなにも君を頼ってくる女の子を2人も養わなければいけないなんて」
「仕方ないさ。俺が2人しか頼れないのと同じで、この2人も俺しか頼れないんだ」
「そうか、事情は詳しく聞いていないけど、頑張ってね。このカバンはここに置いておこうか?」
「ああ、頼むよ」
「わかった」
旦那さんが気を利かせてくれたらしく、手が離せなくなった俺の代わりにミルや俺の荷物を棚にしまってくれた。その行為にお礼を言いつつ、俺はアリシアから手を離さないように気をつけながら、右横に抱きかかえたミルをアリシアの横に寝かせる。
「それじゃぁ、また明日」
「ああ、ありがとう。ミル、今日はここで寝てくれ」
「うみゅ~」
寝ぼけたミルは俺の首に手を回し、離れたくないという意思表示をしてくる。優しく右手で頭を撫でてやるが、さっきの事が頭から離れないのか、手が離れる様子はない。しばらくその状態で固まった後、仕方ないので一度アリシアから手を離し、ミルを抱きかかえたままアリシアの横に寝転がった。アリシアは手を離された途端当てもなく動かして何かを探していたが、俺が横に寝ると俺の右手をつかみ、自分の両手で必死に抱き込んでしがみついてくる。何かきっと怖い夢を見ているのだろう。俺の体の上ではミルがスヤスヤと寝息を立てているが、手は首に回されたままなので仰向けの状態から動くことができず、アリシアの頭を撫でることはできない。ミルは別に重くないが、理性の問題もあるのでできればこの体勢はやめたい。どうにかできないかと体をあちこち動かすが、ミルが嫌がって抱き着く力が強くなってしまい、その状態から動けなくなってしまった。無事な左手をアリシアの背中に回して毛布をつかみ、ミルの背中にかけて全員がちゃんと毛布に入った事を確認すると、アリシアの背中を優しく撫でてやる。30分も撫で続けるとさすがに抱き着く力が弱まって規則正しい寝息が聞こえてきたが、結局ミルが上に乗っている状態は変わらないので眠りにくかった。時々ミルをくすぐって手が離れないか試すが、ミルが嫌がって体を動かすたびに尻尾が俺の足を逆にくすぐり返してくるのであきらめた。これではらちが明かないし、嫌がっているのに無理やり引きはがすのも問題がある。
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翌朝、体の上でミルがビクッと震えた衝撃があり、目が覚めた。ミルは顔が真っ赤になっているが、手を離そうとはしていない。アリシアは右手をつかんだままスヤスヤと眠っている。
「おはよう。ミル」
「お、おはようごじゃいましゅ・・・」
「このままじゃ動けないから、下りてくれないか?」
「はい・・・」
ミルが手を離して、俺の横に移動する。右にはアリシアが居るので、ミルは左側だ。外は少し白み始めたようだが、まだ早朝らしく薄暗いので、明るくなるまでそのままの体勢を維持する。アリシアは手を離していないし、ミルも左の袖をちょこんとつかんでいるのでどのみち動けない。この部屋に暖房設備はないので、まだまだ寒い内は毛布にくるまった方がいいだろう。
「昨日は悪かったな」
「ふぇ?」
「守るって約束したのに、また怖い思いをさせちまった」
「いえ、とんでもないでしゅ・・・」
そう言いつつも思い出して怖くなったのか、ゆっくりと抱き着いてくるミルを優しく撫でる。
「う~ん」
「アリシア、おはよう」
「ん? え、な、なんであなたがここに居るのよ」
「お前が昨日うなされていて、右手に抱き着いて来たから離れられなかったんだろ」
「~~~~~~~~~~~~~っ!」
アリシアは顔を真っ赤にさせると、ものすごい勢いで俺から離れようとしたが、それ以上後ろに下がるとベッドから落ちるので、肩をつかんで落ちないように止める。
「な、なな、なにするのよ・・・」
「後ろを確認しろよ、そのままだと落ちるぞ」
「え? あ、ああ、なるほどね。わかったわ」
アリシアも状況を理解したらしく、少しだけ俺の方に近寄って来たので手を離す。
「もう朝なのかしら?」
「まだ少し早いかな。もう少ししたら起きようと思うけど、どうだ?」
「それがいいわね。でも、同じベッドでは寝たくないわ」
若干目をそらしながら、アリシアが言ってくる。確かに、いつまでも3人で1つのベッドを狭く使う必要はないだろう。この部屋は4人部屋で、ベッドには困っていないので、ミルの方を見る。
「わかった。ミル、一度離れてくれ」
「はい・・・」
ミルが手を離したのを確認して、ベッドから起き上がる。ミルも当然ついてくるので、これでこのベッドはアリシアの物だ。
「寒くないか?」
「少し、寒いわ」
「わかった」
アリシアの要望に応えるため、旦那さんが昨日閉まってくれた荷物から毛布を取り出し、アリシアへ渡してやる。毛布を掛けるくらいは自分でやるだろう。毛布をもう一枚出して、ミルにも渡す。
「ふぇ?」
「ミルも寒いだろ」
「あ、ありがとうございましゅ・・・」
俺がアリシアの居るベッドの反対側に移動すると、当然のようにミルもついてくる。
「ミル?」
「う~・・・」
ミルの顔を見ると、目をそらしつつも服の袖をちょこんとつかんでくる。
「まだ怖いのか?」
「はい・・・」
「そうか。怖がらせて悪かったな」
若干震えているっぽいミルを抱き寄せて、頭を優しく撫でてやる。ビクッと一瞬震えた後、ガッチリと抱き着かれた。
「さすがにこの状態では寝られないんだが・・・」
「ご、ごめんなしゃい・・・」
ミルが慌てて離れるが、手は服をつかんだままだ。ミルをベッドに寝かせてやり、毛布を掛けてから頭を撫でてやる。ミルは心配そうな目で俺を見ながらも手を離そうとしないが、とりあえずはこれでいいだろう。レーダーを確認して近くに敵意を持った存在が居ないか確認したり、アイに銃の状態を確認したりしていると、アリシアの方からスヤスヤと寝息が聞こえ始めた。
「ミルももう少し寝てもいいぞ」
「は、はい・・・」
ミルはなおも心配そうな顔をしているので、耳を少しいじる。普段頭を撫でる時はあんまり触らないようにしているのだが、くすぐったりするときは結構効果的なようなので、今回もそうしてみよう。耳をいじったらミルがビクッと震えたので、頭を撫でたり耳をいじったりを繰り返す。そのうち眠くなったのか、ミルの目がとろんとしてきたので、俺も横に寝て頭を撫で続けた。横に寝た途端またミルが抱き着いてくるが、別にがっちり抱き着いてきているわけではないので、だいぶ気持ちは楽になったのかもしれない。2時間くらいだろうか、ミルの頭を撫でながら寝転がっていると、隣の部屋でゴソゴソと音がした。たぶん旦那さん達が起きたんだろう。こちらの部屋は2人の寝息以外物音がないので、隣の部屋の音がよく聞こえる。さすがに話し声は聞こえないが、レーダーを見る限り誰かがドアに向かっているようだ。光点が俺達の部屋のドアへ移動した後、ドアをノックする音が響く。
第57話です。最初は片づけだけにして翌朝の話は別の話にしようとしたのですが、見てみると文字数が過去最低を記録したので、これでは短すぎると翌朝の話を入れています。ミルに心配をかけてしまった勇介、アリシアがうなされる悪夢、帝国の街でもいろいろ問題はあるみたいですね。次回もお楽しみに




