第五十六話 酔っ払いとヘズ
酒は百薬の長。ただし用量は見極めた方がいい
「ハハハハハハ。おいおい姉ちゃん達、俺達と遊ぼうぜ?」
「グヘヘ、君結構かわいいじゃん! 僕と遊ぼう? ね?」
「こっちの子も結構よさそうだぞ? 見ろよ」
「ちょっと、何なんですかあなた達は!」
「ひいぃ!」
「お、お客様! おやめください。きゃっ!」
階段を駆け下りると、おそらく冒険者であろう身なりの汚い戦士っぽい男が5人ほどおり、奥さんやミル、女の子に絡んでいた。奥さんとミルの座るテーブルに手をついてミルと奥さんをニヤニヤと見つめている奴を筆頭に、酒瓶を片手に持って大声でわめいている。おそらく酔っているのだろう。悲鳴は目を覚ましたミルと、男の1人に髪を引っ張られた女の子が上げたものだった。
「こんな汚い服じゃなくてさ、俺達と遊べばもっときれいな服を着せてやるぜ。こんなの脱いじまえよ」
「いや! お客様! おやめください! あ、きゃあっ!」
女の子に絡んでいた男が女の子の服をつかんで引っ張ったため、ボロボロだった服が裂けてしまっている。女の子は両手で体を隠してうずくまっているが、その様子を見て他の男達も女の子へと集まってきていた。
「うひゅぉー! いいぞー! もっとやれー!」
「グヘヘ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃんか、ほら、手をどけてごらんよ。ほら!」
「ハハハハハハ。こりゃあ楽しいぜ!」
「いや! 離してください! 嫌です!」
女の子の手をつかんで引きはがそうとする男に女の子は必死に抵抗している。その頃になってミルが俺を見つけ、奴隷商館で見せた高速ジャンプで俺に突っ込んできた。腹にクリーンヒットしたので2歩ほど後ずさったが、何とか受け止める。
「グフッ」
ミルは俺の後ろに回った後、ガッチリと抱き着いて来た。ミルがジャンプした音で赤ちゃんが起きて泣き出してしまい、男達の注意が奥さんに向くが、奥さんもミルの行動を見て俺の存在に気がついたらしく、小走りに俺のところへ走ってくる。それを目で追って男達も俺に気がついたようだ。さっきまで絡んでいた少女と女性を匿っている俺を見て、いかつい顔でにらんでくる。俺に気がついた女の子も隙を見つけて男の手をふりほどき、俺の方に走ってきたので、前から抱き着いて来た女の子を受け止めてやる。
「4人とも大丈夫か?」
「はい・・・ぐすっ」
「私もこの子も平気よ」
「お、お客様、お願いでございます! お助け下さい!」
とりあえず女の子が上半身裸になってしまっているので、ミルにかけようと思って部屋から持ってきた毛布を肩から掛けてやる。
「とりあえずこれを羽織っておけ」
「はい・・・。申し訳ございません」
女の子が顔を赤くして俺から離れ、毛布で体を覆ったのを確認した後、手で女の子を誘導して俺の後ろへ移動させた。
「なんだお前?」
「その子達に用事があるんだ。邪魔者はあっちへ行っていてくれ」
「女をかばってヒーロー気取りか? え?」
さっきまでミル達に絡んでいた男達は、俺をにらみながら近づいてくる。手をポキポキと鳴らしながらくるあたり威圧したいのはよくわかるのだが、見た感じ中学生になって調子乗った不良もどきみたいな感じなので、まったく怖くない。女の子が服をつかんできているし、ミルの抱き着く力が強くなっている。それに奥さんが赤ちゃんをかばって体を動かしたようだ。少しは効果があるようだが、一番威圧したい相手の俺に効いていないので意味はない。ミルの手を握ってやると顔がこちらを向いたので、目で大丈夫だと言っておく。ミルは安心したらしく抱き着くのをやめ、袖をちょこんとつかむだけになった。
「いや、知り合いや連れが絡まれていたからかばっているだけだ。お前らこそ俺の連れに何の用なんだよ」
「俺達はそこの姉ちゃん達と楽しく酒を飲みたいだけだぜ? なあ?」
「ああ、特に獣耳の君がいいなあ」
「俺はそこのお嬢ちゃんがいいと思うぜ?」
3人が3人とも好き勝手にいい、他の2人もさっきからニヤニヤしながらうなずいている。
「あいにく、こういうのは嫌いでな。小さい赤ちゃんもいるし、遠慮してくれ」
「てめえには関係ねえんだよ! とっととそこをどきやがれ!」
一番手前に居た男がしびれを切らし、俺に殴りかかろうと手をあげたその時、男の横から椅子が飛んできて男の側頭部を直撃した。俺を殴ろうとした男は椅子が来た方向と反対側に吹っ飛び、他の仲間が慌てて駆け寄っている。
「があぁ! なんだいきなり!」
「おい! しっかりしろ!」
「大丈夫か!」
俺が椅子の飛んできた方向を見ると、ヘズが肩で息をしながら宿の奥から出て来た。手には長大な鉄剣を持っている。
「おいてめえら、俺が護衛をしている宿で暴れようってのか? あ?」
「やべえ! ヘズだ! おい、逃げるぞ!」
「おい、待て! 置いてくなよ!」
ヘズを見た男達は顔色を変え、一目散に宿を出ていく。それを見届けた後、ヘズは俺達の方を見てきた。
「おい! てめえも暴れるつもりか?」
「いや? そんなつもりはないが?」
「そうか。おい! 突っ立ってねえでここを片付けろ!」
「は、はいただいま!」
ヘズは俺が暴れるつもりでない事を確認すると、女の子に片づけを指示して何かぶつぶつと言いながら奥へと引っ込んでいった。
「あ、えっと、助けていただいてありがとうございました!」
「気にしなくていいさ。ミル達も怖い思いをさせて悪かったな」
「い、いえ、とんでもないでしゅ・・・」
「あなたが来てくれて助かったんだから、謝る必要はないと思うわよ。でも、あなたもその格好のままは良くないわよね」
「あ、そ、それは・・・」
奥さんはそう言って女の子を見る。女の子は毛布を手繰り寄せた後、俺から体を隠そうとしているようだ。
「ミル、悪いがお前の古い服をあげてもいいか?」
「はい」
「え、あ、いや、そ、そんな、お、お客様?」
驚く女の子を無視し、俺はミルが置き去りにした荷物からミルの服を取り出すと、女の子に渡した。戸惑う女の子にミルが笑顔でうなずいている。奥さんもニコニコしているし、意味は分かってもらえるだろう。
「あげましゅ」
「い、いや、でも・・・」
「あげましゅ!」
「は、はい、ありがとうございます・・・」
女の子がそう言って服をカウンターの向こうに持っていく。俺はとりあえず奥さんとミルを2階に連れて行き、悲鳴などを聞いて心配していた旦那さんや爺さん達に事情を説明した後、引き続き旦那さんにアリシアを見てもらってまた1階に降りて来た。奥さんは爺さん達の居る部屋に連れて行ったので今は居ない。1階では女の子がミルの服に着替え、ほうきとちりとりっぽいものをもってさっき男達が暴れたところを掃除している。俺とミルだけが戻ってきているが、俺達に気がついた女の子はお辞儀をしてきた。
「どうかなさいましたか? お客様?」
「俺の連れが原因で宿を荒らしちまったからな。片づけを手伝いに来た」
「そ、そんな、お客様にそのような事をさせるわけには・・・」
「バレなきゃ大丈夫だって」
そう言って俺は倒れたテーブルを元に戻す。俺から離れたくなくてついて来たミルも、当然のように椅子を持ってきて元の位置に戻し始めた。女の子は一瞬固まったものの、お礼を言って掃除を再開する。3人でやったので片づけはすぐに終わった。
第56話です。酔っ払いのダルがらみはいろんな人が経験していると思います。ただひたすら笑う人、泣く人、ブチギレる人、とにかくうるさい人、すぐ寝てしまう人、お酒が入った時の変化は様々ですが、暴れる人もそれなりにいるようです。日本人だから多いとかもないようで、万国共通みたいですね。さすがに裸で公園を歩いたりゴミ捨て場で朝まで寝てたりしないように、飲む量には注意してほしいものです。次回もお楽しみに




